契約不適合責任って何!?改正民法で業務委託契約はどう変わる?

契約相手から、「改正民法に対応しました」と言われて、修正の入った契約書を受け取ったことはないだろうか。よくあるのは、業務委託契約において、これまで「瑕疵担保責任」と表現されていた条項が「契約不適合責任」に書き換えられているケースだ。

しかし、契約相手がフェアに修正してくれている保証などない。よく検討しないと、民法改正をきっかけに契約相手に有利な条項になっているかもしれない。

そこで、業務委託契約を締結することの多い会社の法務担当者やフリーランスの方のために、契約不適合責任を中心に、改正民法に合わせて業務委託契約がどのように変わるのかについて基本的な考え方をまとめておきたい。

1.いつ締結した業務委託契約に改正民法が適用されるのか

(1)2020年4月1日以降に締結される業務委託契約に適用される

改正民法(平成29年法律第44号)は2020年4月1日に施行された。したがって、同日以降に締結される業務委託契約には、改正民法が適用される。

今後締結される業務委託契約については、改正民法の内容を踏まえて契約書の条項を検討する必要がある。

(2)2020年4月1日より前に締結されたが、同日以降に更新される業務委託契約にも適用される可能性がある

2020年4月1日より前に締結された業務委託契約であっても、契約が自動的に更新されるといった条項(いわゆる自動更新条項)が契約書に定められていることがある。このような場合、更新後の契約に改正民法が適用されるのだろうか。

一般に、法律を改正するような場合、スムーズな移行のために経過規定が設けられる。ところが、民法の附則に設けられた経過規定を見ても、更新後の業務委託契約に改正民法が適用されるのかは必ずしもはっきりしない。附則34条2項は、賃貸借契約が更新された場合には、更新後の契約に改正民法604条2項が適用されると定めている。このような特別の規定がない業務委託契約については、更新されても改正民法は適用されず、契約を締結した時点の民法が適用され続けるとも考えられる。

しかし、更新後の契約にも改正民法が適用されるという見解が有力だ(筒井健夫・村松秀樹編著『一問一答 民法(債権関係)改正』(商事法務、2018年。以下『一問一答』)383頁)。そのため、更新後の業務委託契約にも改正民法が適用されると想定して、必要な対応をしておいた方が無難だろう。

2.どのような種類の業務委託契約で契約不適合責任が問題となるのか

冒頭でも触れたが、業務委託契約についていえば、改正民法に定められた「契約不適合責任」への対応が、おそらく主要な検討ポイントになるではないかと思う。もっとも、業務委託契約のなかにも、契約不適合責任が問題となるものとそうでないものとがある。

結論から述べると、業務委託契約には請負と準委任の2種類があり、契約不適合責任が問題となるのは請負の方だ。そのため、業務委託契約を検討するときには、契約内容が請負と準委任のどちらの性格を持っているのかを意識する必要がある。

請負の場合には、仕事を完成させることが受託者の義務となる。受託者が発注者に成果物を納品するような場合は、請負の性格を持つ業務委託契約であることが多いだろう。民法が改正される前は、受託者が納品した成果物が実は欠陥品であったような場合、「瑕疵担保責任」と呼ばれる責任を受託者が負うかが問題となった。

この「瑕疵担保責任」が、改正民法では「契約不適合責任」という名称に変わった。今後は、改正民法に合わせて、契約書でも、「瑕疵担保責任」ではなく「契約不適合責任」と表現されるようになり、それに合わせて「瑕疵」ではなく「契約不適合/不適合」という用語が使われるようになることが予想される。

一方、準委任の場合には、受託者は、仕事を完成させる義務は負わず、善良な管理者の注意をもって業務を遂行する義務(善管注意義務)を負う。つまり、結果を出すことではなく、結果を出すために誠実に行動をすることが受託者の義務となっている場合だ。例えば、医者は、結果として患者の病気を治すことができなくても、患者の病気を治すために、診療時の医療水準に照らして必要とされる注意を怠らずに診療行為を行えば、診療契約における義務を果たしたことになる。このように準委任では善管注意義務を果たしたかは問題となり得るが、仕事を完成させる義務は負わないため、契約不適合責任は問題とならない。

図にまとめると、次のようになる。

図1:請負と準委任の違い

 受託者の義務契約不適合責任
(改正前:瑕疵担保責任)
請負仕事の完成義務あり
準委任善管注意義務なし

3.瑕疵担保責任から契約不適合責任へ

請負の性格を持つ業務委託契約については、改正民法に定められた「契約不適合責任」への対応を検討することになる。これは、単に言葉を置き換えれば済む話ではない。改正民法の内容を踏まえた検討を行う必要がある。

では、改正民法によって、受託者の責任の内容はどのように変わったのだろうか。請負における瑕疵担保責任と契約不適合責任との違いを一覧表で確認しよう。

図2:請負における瑕疵担保責任と契約不適合責任との違い

改正前の民法改正民法
責任の名称瑕疵担保責任契約不適合責任
責任追及の手段解除
損害賠償請求〇 〔※〕
追完請求〇(修補) 〇(修補、代替物の引渡し、不足分の引渡し)
代金減額請求×
責任を追及できる期間の制限・目的物の引渡しまたは仕事の終了から1年以内に行使しなければならない。・種類または品質の不適合は、不適合を知った時から1年以内に通知しなければならない。
・ただし、建物や地盤の瑕疵は5年(石造等は10年)。・数量の不適合(数量不足など)は、期間制限なし。

※改正前の民法では、瑕疵担保責任に基づく損害賠償の範囲は、信頼利益(契約が有効であると信じたために生じた損害)にとどまり、履行利益(契約が完全に履行されていれば得られたであろう利益)にまで及ばないという見解が有力だった。しかし、改正民法では、この見解は採られず、損害賠償の範囲は履行利益にまで及び得ると解されている(『一問一答』280頁)

大きな違いは、①追完請求権(発注者が受託者に対して「契約どおりの成果物を納品せよ」と請求できる権利)の内容に関する規定が変わったこと、②代金減額請求権(契約不適合の程度に応じて発注者が代金の減額を請求できる権利)が規定されたこと、③受託者の責任を追及できる期間が変わったことの3点といえそうだ。これらはいずれも発注者側に有利な改正と評価できる。

4.いよいよ実践編!契約書の条項をどう変えるか?

(1)追完請求権に関する対応

改正民法の概要

追完とは、要するに、未完成の仕事を「追」って「完」成させることだ。改正民法では、請負において契約不適合が発見された場合の追完方法として、①修補、②代替物の引渡し、③不足分の引渡しが規定されている。つまり、①修理する、②代わりの物を納品する、③(数が足りない場合には)足りない分を納品する、という3つの追完方法が定められている。このような追完を適切に受けられるようにするためにも、発注者は、契約書や別紙の仕様書等において、成果物の種類・品質・数量等をなるべく具体的に特定しておくことが望ましい。

どの追完方法によるかは、原則として発注者側に選択権がある。もっとも、受託者は、発注者に不相当な負担を課するものでないときには、発注者の選択とは異なる方法での追完もできるとされている(改正民法559条、562条1項ただし書)。

ただし、発注者側に原因があって契約不適合が生じた場合には、発注者は追完を請求できない(改正民法559条、562条2項)。特に請負においては、契約不適合が発注者の提供した材料の性質や発注者の指図によって生じた場合には追完を請求できないとされている(改正民法636条)。

契約条項の検討ポイント】

追完方法の選択権は発注者側にあるというのが改正民法の原則だが、これを契約で変更することは可能だ。契約条項を受託者側に有利にするのであれば、例えば、追完方法を受託者側で選択できるようにしたり、追完方法の種類を限定するといった対応が考えられる。

逆に、発注者側に有利にする場合には、例外的に発注者が追完方法を選択できることを定めた改正民法562条1項ただし書の適用を排除する規定を契約書に入れておくといった対応が考えられる。

(2)代金減額請求権に関する対応

【改正民法の概要】

改正民法では、契約不適合に対して発注者側がとり得る手段として、発注者の減額請求権が明記された。「契約不適合」に当たる事由が生じた場合に減額で対応することは、以前から一般に行われており、そのような取引の実態が民法に反映されたと評価できる。

発注者は、相当期間を定めて催告しても受託者が追完しない場合には、契約不適合の程度に応じて代金減額を請求できる(改正民法559条、563条1項)。ここにいう「催告」とは、「×月×日までに追完してください」と受託者に対して求めることだ。つまり、改正民法では、まずは追完の請求をすることとされており、受託者が追完に応じない場合に代金減額を請求できるとされている。ただし、追完が客観的に不可能であったり、受託者が追完を明確に拒絶しているような場合には、例外的に催告をせずに代金減額を請求できる(改正民法559条、563条2項)。

また、発注者側に原因があって契約不適合が生じた場合には、追完請求権と同様、発注者は代金減額を請求できない(改正民法559条、562条2項、636条)。

【契約条項の検討ポイント】

契約条項を受託者側に有利にする場合には、発注者の代金減額請求権を制限する規定を入れることが考えられる。

逆に、発注者側に有利にするのであれば、例えば、民法が定めている例外的な場合以外でも、催告をせずに代金減額を請求できるようにしたいようなときには、そのように契約書に明記しておく必要があろう。

(3)期間制限に関する対応

【改正民法の概要】

改正前の民法では、瑕疵担保責任の追及は、一部の例外を除き、目的物の引渡しまたは仕事の終了から1年以内にしなければならなかった。しかし、民法の改正に際して、契約不適合を知らない場合にも目的物の引渡しまたは仕事の終了から1年以内に責任追及しなければならないのは、発注者側の負担が重いと考えられた(『一問一答』345頁)。

そこで、改正民法では、原則として、契約不適合を知った時から1年以内に通知すれば足りるとされた(改正民法637条1項)。ただし、目的物の引渡しまたは仕事の終了の時に受託者が契約不適合を知っていた場合、または重大な過失によって知らなかった場合には、期間制限は適用されない(改正民法637条2項)。また、「数が足りない」といった数量の不適合については、そもそも期間制限が設けられていない。

期間制限がない、または適用されない場合というのは、要するに「納品が問題なく完了しており、それ以上の責任を果たす必要はなくなっている」という受託者側の期待を保護する必要性が低い場合である(『一問一答』284頁、345頁)。このような場合は、発注者が受託者に責任追及できる権利の方が優先され、その権利が時効で消滅しない限り、発注者は契約不適合責任を追及できる。

ちなみに、時効の期間は、①発注者が契約不適合を知った時から5年、あるいは②目的物の引渡しまたは仕事の終了の時から10年だ(改正民法166条1項)。①と②のどちらかの期間が経過すれば、発注者が受託者に責任追及できる権利は時効で消滅する。

契約条項の検討ポイント】

この期間制限への対応は少々厄介ではある。受託者にしてみれば、改正前は納品の時から1年に限定されていたものが、発注者が契約不適合を「知った時から1年」に変更され、発注者から責任追及を受けるリスクのある期間が長期に及ぶ可能性がある。しかも、発注者は「知った時から1年」以内に権利の行使までする必要はなく、受託者に「通知」すれば足りる。

発注者側に立つ場合には、改正民法どおりにするよう求めることが有利と考えられる。一方で、受託者側に立つ場合は、責任追及を受けるリスクのある期間をいかに限定するかが課題となろう。例えば、「知った時から」ではなく「納品した時から」などとした上で、期間を「1年」よりも短くするよう求めることが考えられる。

また、実際の業務委託契約(請負契約)では、成果物の検査・検収の規定が契約書に定められていることも多い。受託者にしてみれば、検査・検収の時に容易に発見できたのに見逃された不適合についてまで、後日これを発見した発注者から責任追及を受けるリスクがあるというのでは、検査・検収を受ける意味がない。受託者側の防衛としては、対象となる不適合を「検査・検収の時に容易に発見できない不適合」に限定するのも一法かと思う。

5.もうひと踏ん張り!請負に関する新規定も踏まえよう!

【改正民法の概要】

改正民法では、もう一点、請負に関する重要な規定が新設された。仕事が未完成でも受託者が報酬を請求できる場合についての規定だ(改正民法634条)。

①発注者に原因があって仕事を完成できなくなった場合、または仕事完成前に契約が解除された場合で、②可分な部分の給付によって発注者が利益を受けるときには、その部分について仕事が完成したとみなし、受託者は、発注者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求できる。

「可分な部分」の例としては、例えば、全10章からなる書籍の翻訳委託で、1章から3章までの翻訳作業を終えているような場合である。この場合、受託者は10分の3の報酬を請求できると考えられる。このような割合的な報酬請求は以前から判例で認められていたが、これが明文化されたことは受託者側に有利な改正と評価できる。

【契約条項の検討ポイント】

受託者側の対応としては、改正民法どおりに割合的な報酬請求ができることを契約書でも明記しておくことが考えられる。

逆に、発注者側に立つ場合で、仕事全部の完成でなければ意味がないような取引では、この新規定の適用を排除したり、実際に掛かった費用の分だけ負担するといった対応が考えられる。

6.おわりに

契約書は契約相手との合意の内容を書面という形に残すものだから、交渉の経緯などによっても契約条項の文言は変わってくる。当然、相手がいることだから、一つの契約条項例だけ用意しておけば足りるという性質のものではない。具体的な契約条項の定め方で迷ったときには、弁護士などの専門家に相談してもよいだろう。

弁護士などに業務委託契約書の作成やレビューを依頼する場合でも、改正民法に関する基本的な考え方を押さえておくと、やり取りがスムーズになるかと思う。

この記事を書いた人
弁護士(弁護士法人御堂筋法律事務所東京事務所)
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。2015年に弁護士登録(東京弁護士会)。2020年~2021年放送番組制作会社に出向。著書に「エンタテインメント法実務」(弘文堂、共著)、「わかって使える商標法」(太田出版、共著)、「Q&A引用・転載の実務と著作権法〔第4版〕」(中央経済社、共著)ほか。