コロナ時代におけるオンラインの雇用形態の変容について

5月16日に全国39県で緊急事態宣言が解除されました。一方で新型コロナウイルス感染拡防止の観点からはオンライン中心でのビジネス活動の継続が求められます。

このような状況において、Aオンライン上での雇用契約締結、Bコロナ時代における入社、雇用継続、離職などの変容が想起されます。

人事担当者が気になるのは、Bのコロナ時代での通常の契約形態からどのように変容していくのか?ということではないでしょうか。

そこで今回は新型コロナウイルス影響下の雇用形態の変容とその変化にどう対応していくべきなのか、以下の順で説明をしていきます。

採用、試用期間中、研修、本採用の流れの注意点

そもそも、在宅勤務について、労働時間制度その他の労働条件が同じ場合、就業規則等変更なくても、在宅勤務できるように見えます。しかし、実際には、労働者に通信費用等を負担させる方が多い事実に鑑みると就業規則を変更する必要性があります。なお、就業規則は、常時10人以上の労働者を使用する場合に、作成義務が発生します。読者は、10人以上の労働者を使用している使用者であることを想定し記載します。
変更においては、所定の手続きを経る必要があることに留意してください。

(1)採用において

採用においては、使用者は、賃金、労働時間、その他の労働条件を明示する義務を負います。

一般的には、雇用条件通知書と就業規則を交付する形で足ります。その際、就業場所の記載において、労働者の自宅も含めることとし、勤務地が限定されないように網羅的に記載することが望ましいです。その他の事項については②において述べます。

なお、今の緊急事態宣言が出ている中、採用の審査その他を安易にしてしまうと、内定後トラブルが発生する可能性があります。よって、このような時期だからこそ、審査を厳格にし、在宅勤務に適性及び耐性があるのか、コミュニケーション能力・理解力は相当程度あるのか、などをチェックし、かつ、試用期間中に研修の必要性の有無を確認しておいた方が良いです。また、場合によっては契約期間を短期にして、正社員として採用するかは後で決めることを考えても良いです。

 (2)試用期間

誤解されやすいところでもありますが、試用期間であっても解雇は容易な訳ではないです。もっとも、試用期間中に適性がないと判断した場合、専門家と相談して時間をかけずに対応した方が良い場合もあります。

現状では、非常事態宣言ということもあり、研修はオンライン型になりやすいです。合宿その他の手法で研修する方法は、三密の関係もあり、好まれません。ビデオ講義、ズームなど様々な研修スタイルが考えられます。

実際に会って実技等ができる訳ではなく、研修担当者は、困惑していると思われます。しかし、このような場合こそ、コロナ以前に戻ることは考えず、如何にコロナ時代にふさわしいデジタル化を試行錯誤で進めるほかりません。

懇親会その他でフォローする機会は少なく、受講者のメンタルに対応することはできない状況もあります。内定者の事案ではありますが、サイトに毎日ログインして投稿にコメントをすること、課題として出された本の感想を投稿することに加えて、ハラスメント行為により入社前に自殺をした事例もあります。

オンラインではメンタルを想定外に読めない場合もありますので、より注意をする必要があります。また、メールやチャットでも、行き違いで強めに記載してしまう傾向がある人は、研修担当者になることは控えた方がよいです。

心理的な安全性を確保するために、ビデオ、その他の手法でできるだけ、非言語文脈の情報を取得し、受け手に対して一方的に見解を押し付けない体制を作ることが望ましいです。

コロナ時代においては、リモートワークが主流になり、縦の主従関係ではコントロールは難しく、横の仲間関係及び自発的にリーダーシップをとれる関係づくりが望まれます。

(3)本採用

おそらく今回のリモートワークでの研修は初めての会社が多く、他の会社の労働者からすれば違和感を感じることになります。寧ろ、その違和感を大事にして、コロナにおける新たな視点をもたらす人材として重宝するくらいが丁度よいと思います。

なお、雇用の維持は、オンラインのみになることで、会社への愛着を得ることが難しくなり、離脱しやすい環境にあることにつき留意が必要でしょう。

就業規則はどう変更しなければならないか?

緊急事態宣言により慌ててリモートワークに移行した企業も沢山いると思われます。その場合、就業規則の変更等を行っていないこともあります。

前述の通り、リモートワークにおいて労働者は費用負担をするところもあり全員の同意をとりつけて就業規則を変更するのが原則でしょう。しかし、大規模な場合には各労働者から同意をとることは難しいです。

変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは原則として、新就業規則を適用できるのでそちらを考慮することになります。

緊急事態宣言であるから就業規則の変更について合理的と判断できるものではないので、労働者の通信費その他の負担を軽減し、かつ、交通費は実費とするなどバランスをとりつつ、変更することが望ましいです。

自宅が勤務場所とされた場合に、例えばオフィスに来た場合、業務命令違反になるかなどの論点がありますが、忘れた資料を一回取りに来た程度のものと、コロナにり患したにもかかわらずそれを認識して意図的に来た場合とで悪質性は異なり、ケースバイケースで処理することになるでしょう。

リモートワーク規程の詳細については以下をご参照ください。
http://www.tw-sodan.jp/dl_pdf/16.pdf

労働時間等をどのように把握するべきなのか

使用者の指示により常時通信可能な状態におくことなされていない状況で、労働者が自分の意思で通信可能な状態を切断することを認められている場合には、事業外みなし労働時間制を採用することも可能です。

そのような状況では使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定するのができないからです。たとえば、単に通信回線が接続されているだけで労働者が自由に情報通信機器から離れることができる場合が例として挙げられます。

その他裁量労働時間制、フレックス制など、通常の労働時間制とは異なる手法を一定の手続きを経ればとることも可能です。

とはいえ、始業及び終業の時刻の記録、報告を行う勤怠管理、労働時間の在席管理、業務遂行状況を把握する業務管理、及び労働者の健康管理のために、労働時間は把握する必要があります。

参考:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置 に関するガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000149439.pdf

参考:情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドラインについてhttps://www.mhlw.go.jp/content/000539604.pdf

始業終業については、メール、電話、勤怠管理ツール等を使用して、記録をとっておくことが必要です。特に勤怠管理ツールはクラウド型が増えており、使いやすいです。

なるべく、労働者の性格にもよっては、自己管理が難しい、熱中しやすいタイプもいます。その結果、就業場所が自宅だと過重労働をしてしまう可能性もあります。

そこで、メールの送付抑制、システムへのアクセス制限、時間外、休日、深夜時間の労働禁止、など様々な手段を講じておく必要があります。

労働安全衛生法により、健康診断、その結果等を受けた措置、長時間労働者に対する医師による面接指導とその結果等を受けた措置、産業医への情報提供などが求められるところ、直接会う以上に健康管理が難しい以上、健康診断等の機会を十分に使用し、各労働者の健康に配慮する必要があります。

セキュリティなどをどのように遵守させるべきなのか

自分の機器を使う場合、自分と同様のセキュリティの配慮しか取らない場合もあり、かつ、返還請求をすることもできなくなります。クラウドなどですべて管理ができ、ダウンロードができない環境が確保できない限り、自社の機器(シンクライアント端末類似の機器)を使わせて、リモートワイプなどの措置がいつでもとれるようにしておくことが望ましいです。

マルウェアに対する対策、端末の紛失・盗難に対する対策、重要情報の盗聴に対する対策、不正アクセスに対する対策、外部サービスの利用に対する対策について、対応方法は事前に決めておく必要があります。

詳しくは、以上の「テレワークセキュリティガイドライン」を参照ください。
https://www.soumu.go.jp/main_content/000545372.pdf

評価(インセンティブなど)などをどのように契約書等に書いていくべきか

今は予想ができない事象が多く発生していますので、契約書に記載してしまうと硬直化して現状にフィットしない場合があります。

常に、インセンティブについてはKPI又はOKRを毎月、毎年ごとに設定し、有効期間を定め協議のうえで設定することが望ましいです。KPIにして業績と連動させると、保守的なゴール設定がされてしまい、うまく行かないことも多いです。よって、目的達成と報酬とを連動させずできるだけ積極的なゴールを設定してもらい、どうして到達しないのかを、上司とone on oneミーティングにより原因解明し、解決に尽力する状況を評価する方が、フェアな判断になります。

一時的なパフォーマンスにより決めてしまうと、成績が落ち込んだ場合の対応方法も明確にならないこともあります。賞与にすべきところ、基本給に連動させるべきことは分ける必要があります。

しかしながら、チームごとの相性もあり、評価はより難しいものになります。徒らに正解のKPIを組み立てようとしても、かえって硬直化して判断は難しいです。

現時点では、リモートワークのノウハウの共有に貢献したもの、360度評価などで評価されるもの、など仮説を立てて、調整をするほかないです。

そもそも、金銭的な評価だけが、メンバーが望んでいることではないです。むしろ、金銭や地位のみに評価や報酬を限定し、その他の方法によって評価や報酬を与えない仕組みは組織を停滞させるものであり、かつ、経営陣の怠慢としか言えません。

そもそも、労働契約の意味があるのか、業務委託契約で十分ではないか

業務委託にする目的が労働契約を終了し容易に関係を断ち切ることができる状況にすることの場合、強い反発をされることが予想されます。対象者は、偽装業務委託であり、実質的には労働契約を締結したものであると主張することになるでしょう。

過去は形式的に労働契約は就業場所で働くもの、それ以外のフリーランスは外で働くものとして区別できました。しかし、リモートワークが通常化しつつある今の時代においては区別ができなくなります。リモートワークに加えて、副業を認めた時には、どちらのために働いているのかわからない状況になります。

偽装の業務委託、下請法や独占禁止法を考慮する必要性もあります。

要は、経営者が対象者を一方的に不利益に落とし込まないようにする必要があり、かつ、結果的に対象者が会社にそのように主張しないように配慮する必要があります。会社は対象者をコントロールをしない状況にして様々な仕事を受託できるようにし、独立性が認められるように配慮しておく必要があります。原則は、労働条件が同じ又はそれ以下である場合、労働者である推定が働くと思うくらいが丁度良いと思います。契約は、実態によって判断されるので企業側は安易に判断をしないほうが良いでしょう。

この記事を書いた人
1999年早稲田大学法学部卒業、2003年弁護士登録、2006年南カルフォルニア大学法学修士(LL.M.)、同年カリフォルニア州における法律事務所で研修。2011年パリ弁護士会外国人弁護士実務修習課程履修。
中小機構BUSINEST(アクセレーター)のメンター。主に、デジタルトランスフォーメーション(ビジネスモデルの変革)、グローバルハブ(地域間の流動性を高める)、ベンチャー(新規ビジネスの潮流を加速させる)の三つの柱を中心に活動。
著書:「アフリカ・ビジネスと法務」(中央経済社)
講演:2016年「シンギュラリティ」時代のあるべき法務戦略、2017年海外子会社管理を飛躍的に向上させるシステム作りの方法、2019年「デジタルトランスフォーメーション」への移行とリスク対策、その他多数。