企業法務とは?

企業法務は、その名の通り企業の法律関係の対応を行う業務のことです。現在、どのような企業であっても事業をおこなうにあたって法律と無関係ではいられません。企業におけるコンプライアンスはますます重視されるようになるにつれ、法務部門を強化する企業は増加傾向にあります。本記事では、企業法務の仕事内容などについて詳しく解説いたします。

企業法務が果たす役割

企業法務は「企業活動を行う際に必要な法律に関する業務」を指しています。

法律というのは制定されたらずっと同じではあるとは限りません。その時の社会情勢などによって改正がたびたびおこなわれます。法改正によって規制が緩和されることもあれば、厳しくなることもあるので、法律に則った業務を行うことは企業に取って必須です。

規制が緩和されたら、新しいビジネスを展開したり、厳しくなればそれまでおこなっていた事を見直して法律に沿うように変えていかなければなりません。

また、クレーム対応や裁判で訴えられたりなどした場合に、企業を守るのも企業法務の重要な役割です。

まとめると、企業法務の役割は以下のような内容となります。

・企業が法を犯すリスクを回避し、訴えられることがないようにガードすること
・訴えられたときになるべくそのダメージを少なくすること
・その時の規制に合わせたビジネス展開をサポートすること

企業にまつわる法律的な業務については、自社内に法務部門を設けて対応するのが一般的です。法務部門は部レベルから担当者レベルまで違いはあるものの、およそ93%の企業がなんらかの法務担当者をおいています。

法務部門では、社員だけでなく、法律の専門家である弁護士を社内弁護士として招き入れたり、顧問弁護士と契約するなどして業務をおこなっているのです。

企業における法務部門の設置状況
・部レベル43.2%
・課レベル26.0%
・専任担当者 8.7%
・兼任担当者 15.2%
・担当者なし 6.9%
出典:「会社法務部【第11次】実態調査の分析報告」
(公益社団法人商事法務研究会,2015年 https://www.keieihoyukai.jp/275

企業法務の仕事内容について

企業法務の仕事内容は、その期待される役割から、大きく分けると以下の3つに分類することができます。

企業法務の仕事内容
1.予防法務:トラブルを未然に防ぐために対策を行う
2.戦略法務:法律を経営戦略に利用する
3.臨床法務:生じてしまった法的紛争に対処する

これはあくまで分類の1つの定義であり、会社の業務や法務部門のボリュームによって、業務内容を外部の弁護士事務所に依頼するなどといった連携をおこなうことも珍しくありません。

次の項から、具体的にその内容の詳細を見ていきましょう

企業法務の仕事内容の詳細1.予防法務

将来的に生じるであろう法的な紛争を事前に想定し、対策を講じておくことを「予防法務」といいます。

企業法務においては、従来は生じてしまった法的紛争に対応する「臨床法務」がメイン業務とみなされる向きがありました。

しかし、ひとたび裁判になってしまうと、企業が費やすリソースと受けるダメージは大きく、企業の成長を阻害する大きな要因となってしまいます。

企業が受けるトラブルを軽減するために、あらかじめ法律上のリスクを減らしておくという観点から、予防法務を重視する向きが広まっているのです。

予防法務には以下のような業務があります。

(1)リーガルリスクマネジメント
(2)契約書作成と審査
(3)社外弁護士の起用
(4)リーガルオペレーション
(5)株主総会の対応
(6)取締役会の運営
(7)コンプライアンス法務

以下、順に解説していきます。

(1)リーガルリスクマネジメント

近年、企業におけるリスクマネジメントの重要性が取り上げられることが多くなってきました。リスクには災害や財務など様々な種類がありますが、中でも法的なリスクを対象とするのが「リーガルリスクマネジメント」です。

リーガルリスクマネジメントとは、事業活動において、これから起こり得るであろうリーガルリスクをあらかじめ分析し、顕在化する前に予防、あるいは抑制を図ることをいいます。

「いままでこの方法で上手くやってきたから」というようなオペレーションであっても、実は法的リスクが潜むという業務は少なくはありません。

身近なところですと、最近話題の働き方改革における残業の取り扱いや、ハラスメント対策などは、現場任せであった企業も多いのではないでしょうか。

法改正に伴い、適切な対応が必要な場面においては今までのやり方を一新する必要があります。

リスクの内容を軽微なものから重大なものに分類し、対処すべきところに経営資源を配分して改めることで、企業活動をより健全な方向に導くのがリーガルリスクマネジメントの業務です。

(2)契約書作成と審査

企業がその活動において必ず作成する文書の一つが契約書です。

契約は口約束でも成立しますが、長期にわたる契約や取引金額の大きい契約などについては、契約内容のスムーズな履行と共に、後日トラブルになった時の証拠としても契約書を作成する方が安全です。

また、逆に先方から提示された契約書の内容をチェックし、自社にとって不利な条項が入っていないかを確認するのも重要な業務です。

(3)社内外における弁護士の起用

企業法務において、法律の専門家である弁護士の存在は欠かせません。

企業法務における弁護士には、社外の弁護士事務所に所属しつつ、企業の相談を受ける「顧問弁護士」と、会社に勤務する「企業内弁護士(インハウスローヤー)」の2種類があります。

企業によっては、顧問弁護士に企業法務における業務を一任し、様々な法律相談を行うところもあれば、業務によっては企業内弁護士に任せるなど、その業務範囲は異なります。

いずれにしても、企業法務にかかる業務は担当社員だけでなく、専門家によるアドバイスは必須です。

信頼のおける弁護士を探し、相談できる体制を作っておくことは、企業法務にとって重要なミッションの1つと言えるでしょう。

(4)リーガルオペレーションの構築

予防法務という観点から考えると、契約書などのビジネス文書についてリーガルチェックをおこないたいと考えるのは必然です。

しかし、契約書についてそれぞれの現場担当者が個々に作成していると、必要な契約条項が盛り込まれていなかったり、フォーマットがバラバラになってしまいます。作成した文書については捺印や文書保管も必要です。

法務部門や顧問弁護士のリソースにも限りがありますので、共通業務は適法範囲で効率化しなくてはなりません。

例えば、契約書のフォーマットを整えたり、契約書を作成する営業担当者や一次チェックにおける管理職への教育をおこなったりなどです。

リーガルオペレーションを効率化することも、企業法務における重要な業務といえます。

(5)株主総会の実施対応

株主総会は、少なくとも毎事業年度の終了後、一定の時期に開催しなければならないと会社法によって定められています。

株主総会については、IR部門などとも連携して株主の招集手続きから決議事項の作成、議事録の作成までを滞りなく開催するためのサポートが必要です。

株主総会を適法におこなうためには、招集通知やシナリオ、想定問答といった書面を確認し、誤字等についても弁護士も交えてチェックをおこなうほうが良いでしょう。

総会運営に何らかの瑕疵がある場合は、決議取消を訴えられるリスクがあるからです。

株主総会の終了後、決議内容によっては、定款の書き換えや法務局への登記申請も必要となります。

(6)取締役会の運営

企業における取締役で構成される取締役会は、以下の決定事項をおこなう機関です。

・会社の業務執行の決定
・取締役の職務の執行の監督
・代表取締役の選定及び解職

取締役会設置会社では、代表取締役・業務執行取締役は、3か月に1回は職務執行の状況を取締役会に報告する義務があるため、3か月に1度は取締役会が開催されます。

取締役会が半ば定例行事のようになっている企業もありますが、取締役会を通したガバナンスは非常に重要です。

もし犯罪や不祥事、経営上の問題が隠蔽されたり、取締役会が承認していない契約が締結されていたりして、会社に損害が発生してしまった場合には、損害賠償責任を問われる可能性もあるからです。

取締役会については総務部や経営企画部といった部門が事務局を担当することが多いですが、決議事項や議事録のチェックを法務部門が行うことにより、運営の瑕疵やトラブルを回避することにつながります。

(7)コンプライアンス法務

企業におけるコンプライアンスの重要性は高まるばかりです。

会社のイメージや信用を一瞬で崩してしまうコンプライアンス違反を防ぐためには、教育・運用・管理の体制を整える必要があります。

具体的には行動指針や就業規則などを整備し、分かりやすく周知すること、特にSNSをはじめとしたインターネットツールなどの活用方法については必須です。

従業員の行動は、決して悪意でのみおこなわれるわけではなく、「うっかり」「軽い気持ちで」というケースも少なくないからです。

また、場合によっては、従業員向けの社内研修だけでなく、代理店や取引先に対してもコンプライアンス研修を行うこともあります。

コンプライアンスは法令遵守と訳されることが多いですが、CSR(corporate social responsibility 企業の社会的責任)、リスクマネジメントの視点から見ても企業法務における重要業務の一つと言えるでしょう。

コンプライアンス対応については、その重要性から、専門部署を置いている企業も少なくありません。

法務部門は他部門ともと連携しつつ、適切なコンプライアンスプログラムを策定し、管理する必要があります。

企業法務の仕事内容の詳細2.臨床法務

実際に裁判やその他の法律上の係争が生じた場合の対処が、臨床法務と呼ばれる業務です。具体的には、以下のような業務が臨床法務にあたり、その業務内容から「紛争処理法務」と呼ばれることもあります。

(1)クレーム対応
(2)訴訟対応
(3)債権管理

以下、順に解説していきます。

(1)クレーム対応

クレームというと、顧客の理不尽な要求という面が強調されがちですが、中には企業側に法的責任があり、その要求に応じることが義務であるようなクレームがあります。

例えば欠陥商品を販売してしまったなど、企業側に不手際がある場合、どのように説明責任を果たすのか、そこからどういった対応を取るのかということは非常に重要です。

ここで顧客や取引先が納得しない場合は、②の訴訟に発展する場合もあります。

クレームについては、企業としてどのように対応するかというマニュアルを作成するケースが多いです。

対応マニュアルの内容が適法かどうかも含めて企業法務でのチェックをおこなったり、対応における録音や窓口の録画、内容証明の作成など理不尽なクレームに対応する手段も講じる必要があるでしょう。

場合によっては、クレーム相手本人やその弁護士との折衝もおこなうことがあります。

また、反社会的勢力から狙われるというような場合は、警察との連携も必要です。

(2)訴訟対応

企業と取引先企業、顧客、従業員などとの間で生じた法的紛争を処理する業務が訴訟対応です。

実際の訴訟の段にあたっては、事前に締結した契約書などだけでなく紛争の関係者を通じて証拠を収集します。

訴訟の内容によっては、専門の社外弁護士への依頼も必要です。

相手が訴えるといってても、実際に裁判まで持ち込むのではなく、調停で解決を図るよう働きかけたり、訴訟中であっても和解で解決できるようなら説得にあたるといった対応も考える必要があります。

案件の終了後は、今後、同じような法的紛争が起きないように対策をおこなうことも訴訟対応における重要な業務です。

(3)債権管理

債権とは企業における「売上(売掛金)」のことです。

契約が成立して、取引開始後に取引先の経営状態が悪化すると、債権を回収できなくなる恐れがあります。
債権の回収期間には時効が設定されているため、定められた期間を過ぎてしまうと債権者の支払い義務が消滅するからです。債権は種類によって時効が異なるため、回収には優先順位が生じます。

まずは、話し合いによる任意回収を試み、回収が難しい場合は、あらかじめ取得した担保権による回収や、最終的には、裁判所に訴訟を起こして強制的に債権回収をおこなう事も必要になるでしょう。

弁護士に委任して交渉にあたってもらうケースも多いです。

企業法務の仕事内容の詳細3.戦略法務

戦略法務とは、法令等に関する知識を経営の意思決定に活かし、より大きな利益を確保するために役立てる業務です。

戦略法務には以下のような業務があります。

(1)M&A・事業承継
(2)知的財産権の活用
(3)グローバル展開

予防法務や臨床法務が「守り」であれば、戦略法務は「攻め」といえるでしょう。

法律だけでなく自社の事業に関する高度な専門知識が求められる分野です。

以下、順にみていきましょう。

(1)M&A・事業承継

M&Aや事業承継においては、一般的にはアドバイザーとして金融機関やコンサルティング会社が絡むことが多くなります。

企業における法務部門は、自社の経営戦略とその案件がマッチしているかどうかを見極め、アドバイザーの意見を取り入れつつも、法令と照らし合わせた上でM&Aや事業承継における意思決定を行わなければなりません。

(2)知的財産権の活用

技術特許や商標のほかに、ソフトウェアやコンテンツの著作権など、企業における知的財産権のウェイトはますます高まっています。

自企業の知的財産権を守ることはもちろんですが、新商品や新製品の開発にあたっては、他社の権利を侵害することがないよう、特許活用を行うのであれば適切に対応した方法でものづくりを行うことが必要です。

知的財産権にまつわる法律や契約関係は、特殊な法的見識を必要とすることもあり、知的財産の法的手続や管理・商標などの調査においては、法務部門ではなく専門部署がある場合も多いです。

場合によっては弁理士との連携も必要とされます。

(3)グローバル展開

日本企業がグローバル展開を行うためには、海外への販路の開拓や拠点の解説と共に、現地における法律に則った契約締結とコンプライアンス対策が必要です。

現地ならではの法的リスクをふまえ、実際に事業を開始立ち上げ、円滑に業務をおこなえるようにサポートするためには、今まで述べてきた予防法務・臨床法務・戦略法務全てにおいて英語もしくは現地の言葉で、かつ現地の法律や規制・税制に応じた対応が必要になります。

十分な調査や契約書審査を行わないままに契約を締結してしまうと、後日思わぬ法的紛争や

大きな損失を招きかねません。

海外企業との取引、海外進出を成功させるためには、企業法務の役割は非常に大きいといえます。

まとめ

企業法務が果たす役割と業務の領域は広がりを見せており、企業によっては今回取り上げたもののほかにも、法務部門で担当しているケースもあるかもしれません。

予防法務は、いわば企業における予防接種のようなものです。予防接種をしておけばその病気にかからないかといえばそうではありませんが、症状を軽くすることができます。契約書のリーガルチェックや法改正に対応した就業規則の改訂・従業員へのコンプライアンス研修などはその際たるものでしょう。

臨床法務の業務は、あくまで事後対応のため、予防法務を尽くすことでその負担を減らすよう普段から心がけることが必要ですが、生じてしまった場合はなるべくダメージを減らすべく、様々な可能性を探る必要があります。

戦略法務は、今後の企業経営において非常に重要な業務です。経営者層から法務部門に対して特に期待されている役割といえます。

特に米国では、法務部門が積極的に経営に携わることで事業の発展に貢献しているケースも多くみられることから、日本においても今後この動きは広まっていくのではないでしょうか。

Digital Workstyle College 編集部
この記事を書いた人