GovTech(ガブテック)とは

個人・企業問わず住所・名称の変更届や、助成金の申請手続きなどの行政手続きを利用するとき、さまざまな問題が横たわっていることに気づくでしょう。

まず、申請の内容によっては必要書類を何枚も書いて、添付資料も持参しなければいけません。記入が済んだら行政機関に提出…といきたいところですが、書類ごとに提出先が違ったり、苦労して作成したのに、書類に記入ミスがあれば訂正印を求められたりします。さらに、決定が下りるまで1ヶ月~3ヶ月と、時間がかかるものもあるようです。

こうした一連の手続きにかかる時間と人件費を削減し、行政機関と住民の間で安全かつスピーディーに個人情報をやり取りできるシステムを構築していく動きが、世界中で活発になっています。

GovTechとは?

GovTech(ガブテック)とは、「Government(政府)」と「Technology(技術)」を掛け合わせた造語で、技術を積極的に活用することで、中央省庁や地方自治体の行政サービスなどをより良いものにすることです。行政機関から依頼を受けた企業がサービス改善に取り組むのではなく、企業と行政機関が協力して、行政サービスに対する住民の満足度の向上を目指します。

GovTechとCivic Techの違い

GovTechと似たものに、Civic Tech(シビックテック)というものがあります。シビック(Civic:市民)とテック(Tech:テクノロジー)を掛け合わせた造語で、地域の住民が何らかの技術を用いて、課題解決に取り組むことです。

GovTechが行政運営の効率化という視点に立っているのに対して、Civic Techは課題解決の方法を、地域住民が主体となって編み出していくイメージです。発祥の地とされるアメリカでは、GovTech、Civic Techともにさかんに行われています。

GovTechの具体的な事例

日本では2018年頃から、行政サービスの電子化が進む国では2013年頃から、国を挙げた施策の立案・遂行やGovTechに参入するスタートアップ企業の創業など、世界中で活発な動きがみられます。参入事例は、住民票の異動から選挙のオンライン投票、会社立ち上げに伴う登記、税金の申告など多岐にわたります。

それでは、日本と海外、それぞれの事例を見ていくことにしましょう。

日本の場合

日本では、税金の電子申告(e-Tax)や給付金の申請など、一部の行政サービスのみ電子化が進んでいますが、諸外国と比較すると電子化が遅れているのが現状です。

そのため政府では、総務省や経済産業省が主体となって「デジタル・ガバメント実行計画」の立案・実行、デジタル手続法など法律を整備するなどして行政手続きの電子化を急いでおり、ゆくゆくは約4万あると言われる行政サービスを、全てオンライン上で提供することを目指しています。

※デジタル・ガバメント実行計画:デジタルファースト(手続きやサービスをオンライン上で完結させること)、ワンスオンリー(既に行政機関にある書類やデータに関しては提出を求めない)、コネクテッド・ワンストップ(手続き・サービスの一元的な提供)を3原則とし、国民一人ひとりのニーズに合った形で社会課題を解決しつつ、安全で安心な暮らしや豊かさを実感できるようにするために立てられた計画。
URL:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20191220/siryou.pdf

 神戸市×スタートアップ企業

神戸市は全国の自治体の中でも、GovTechにいち早く取り組んだ自治体の1つです。スタートアップ企業と神戸市職員が協働で行政サービスの開発や実証実験に取り組む「アーバンイノベーション神戸」を2018(平成30)年にスタートさせました。その後「アーバンイノベーションジャパン」と名称を変え、2019(平成31)年1月には、スタートアップ企業や経済産業省と「GovTechサミット」を開催。2019年からは神戸市の一連の取り組みを、兵庫県姫路市など他の自治体でも取り入れるようになりました。

LINEの活用(千葉県市川市)

2019(令和元)年5月に施行された「デジタル手続法」を受けて、モビルス株式会社はLINEを活用した「モビルス×LINE 住民サービス」を提供開始。千葉県市川市は住民票のオンライン申請、兵庫県宝塚市はチャットボットを使った問い合わせ対応など実証を進める採用自治体が増えています。

参考:道路や公園等の不具合通報やごみ分類・子育て相談等がLINEで簡単にできる 自治体向け【モビルス×LINE 住民サービス】を提供開始 〜AI活用のガブテックで自治体職員の働き方改革を推進〜
https://mobilus.co.jp/press-release/18996

海外の事例

アメリカやヨーロッパ各国、アジアの一部の国では、最新技術を活かしたサービスを開発するスタートアップ企業が多数存在し、国と協働してGovTechに取り組んでいます。また、GovTechを手掛ける企業への投資額は年々増加傾向を続けており、2025年までに全世界で4,000億ドル(約44兆円)の規模に達するとの予測もあります。

参考:デジタル・ガバメント推進にSBIRを活用せよ – 日本総研
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/viewpoint/pdf/11076.pdf

エストニア

チャットツール「Skype」の発祥国・エストニアはバルト三国の1つで、人口約130万人のデジタル先進国です。IT技術を積極的に活用した行政サービスの提供、海外からの企業誘致を積極的に行っています。

1994(平成6)年のロシアからの独立を機に、国民と政府が一体となり、国を挙げて行政サービスの効率化に取り組んできました。現在では結婚・離婚・不動産売買以外のほとんどの手続きがインターネット上で完結できるようになっています。

また15歳以上の国民に所有を義務づけている電子IDカードにより、保険証や運転免許証など300以上の行政サービスに利用可能です。さらに、「eレジデンシー(e-Residency)」と呼ばれる、オンライン上の居住権を外国人に提供することで、自国民に準ずる行政サービスを受けられるようにしています。登録すれば、外国人でもエストニアで起業できるようになります。

こうした背景から、人口におけるスタートアップ企業の割合がヨーロッパの中で多い国の1つとなっています。

エストニア基本データ

面積4.5万平方キロメートル(日本の約9分の1、九州とほぼ同じ)
人口約132万人(2019年1月)
首都タリン
言語エストニア語(フィン・ウゴル語派)

出典:外務省ホームページ
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/estonia/index.html

シンガポール

マレー半島の南端の小さな島がそのまま国になったシンガポール。多民族からなる都市国家で、日本同様に少子高齢化が進む国でもあります。

2014(平成26)年8月、リー・シェンロン首相による政策方針演説で発表された「スマート・ネーション構想(Smart Nation Singapore)」により、2016(平成28)年に政府の技術機関「GovTech」を、2017(平成29)年5月には、首相府直下にスマート・ネーション・アンド・デジタルガバメント・グループ(SNDGG)、さらにその下にスマート・ネーション・アンド・デジタルガバメント・オフィス(SNDGO)をそれぞれ設置。

国の3つの組織と民間企業が緊密に連携しながら、ユーザーニーズの把握、それを反映したアプリケーションやサービスの開発や提供など、多くの取り組みがなされています。

シンガポール基本データ

面積約720平方キロメートル(東京23区と同程度)
人口約564万人(2019年1月)
民族中華系74%,マレー系14%,インド系9%(2019年1月)
言語マレー語(国語)英語、中国語、マレー語、タミール語(公用語)

出典:外務省ホームページ
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/singapore/index.html

日本国内のGovTechスタートアップ

株式会社blockhive

株式会社blockhiveは、2012(平成24)年にエストニアで創業した日本のスタートアップ企業です。エストニアと日本、ベトナムに拠点を置き、エストニアでの経験とノウハウをもとに、マイナンバーカードと連携したデジタル身分証アプリ「xID」や、電子署名プラットフォーム「e-sign」などの自社製品を開発・提供しています。

株式会社グラファー

株式会社グラファーは、「テクノロジーの力で民主主義を拡張する」というビジョンのもと、 さまざまな行政手続きを効率よく進められるためのサービスを開発・提供しているスタートアップ企業です。

企業向けには法人の登記事項証明書などをオンラインで請求できる「Graffer法人証明書請求」、個人向けには手続き書類をオンラインで作成から郵送まで可能な「Grafferフォーム」、暮らしに必要な各種行政手続きを案内するメディア「くらしのてつづき」を、それぞれ提供しています。

GVA TECH株式会社

GVA TECH株式会社は、法律業務を効率化するために、さまざまなWebサービスを開発しているスタートアップ企業です。2017年1月に創業したAI(人工知能)による契約書チェックサービス「AI-CON」、法人登記支援サービス「AI-CON登記」などのサービスをリリースしています。

まとめ

マイナンバー制度を導入して数年が経っても、マイナンバーカードの取得率は国民の16%程度と、ほとんど浸透していませんでした。取得率の低さには、申請から取得までに1ヶ月以上かかること、取得の際には行政機関まで出向かなければいけないこと、マイナンバーカードを取得することで銀行口座といった個人情報が紐づくことへの抵抗感などが考えられます。

こうした不安や抵抗感は、他の行政手続きをするときも同様に覚えるもので、日本の行政手続きやサービスの電子化が進みにくい要因の1つにもなっています。新型コロナウイルスの感染拡大によって、今後、日本における行政サービスの電子化の流れが一気に加速していくことでしょう。

参考資料

・平成28年度電子経済産業省構築事業(「デジタルガバメントに関する諸外国における先進事例の実態調査」)調査報告書
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H28FY/000454.pdf

・GovTech(ガブテック)が行政を効率化する可能性
https://www.nttcom.co.jp/comware_plus/img/201905_GovTech.pdf

・190118 GovTech読本
https://www.slideshare.net/hiramoto/190118-govtech

Digital Workstyle College 編集部
この記事を書いた人