予防法務とは?企業の内外で起きるトラブルを未然に防ぐ

日々Webサイトやテレビ番組に数多く接していると、時折「コンプラ(またはコンプライアンス)に引っかかる」という趣旨の発言がなされるシーンに遭遇することがあります。この「コンプラ(またはコンプライアンス)」という単語はもともと法律用語で、2000年代に大企業の不祥事が相次いで起きた頃から、企業内の体制整備の重要性とともにさかんに使われるようになりました。

コンプライアンスを遵守しないと、株主や融資先の金融機関といったステークホルダーに多大な損害を与える可能性があります。また、違法行為が発覚すると、刑事上または民事上、もしくはその両方のペナルティを企業として受けなくてはなりません。このような企業は、事業活動の中で培ってきた社会的信頼を失い、事業撤退や倒産を余儀なくされます。企業の不祥事の発生を防ぐためには、あらかじめ法的に有効な対策を打っておかなければなりません。

 予防法務とは?

予防法務とは、上記の図が示すように企業法務における3つの柱の一つで、クレームや紛争、不祥事や訴訟など、将来企業に発生することが予想されるさまざまなリスクへの対応策を考えること(=リスクマネジメント)です。リーガルリスク法務と呼ばれることもあります。

予防法務は、問題が起きる前から人の行動を制限したり、管理したりしておくことが重要です。法律をただ知っているだけではなく、それを遵守する体制を作り、情報を開示し、従業員などに周知徹底させることです。予防法務を考えることは紛争の未然防止だけでなく、適正に運営がなされているとして企業イメージアップ、業績拡大に繋がり、社会的な信頼を得られるほか、国際競争力のアップにも貢献できます。

予防法務として扱う業務内容

予防法務には、大きく分けて法令違反を防ぐための予防活動(コンプライアンス)と、契約事故・企業間紛争を防ぐための予防活動(契約法務)の2種類があります。

具体的には以下の内容を取り扱います。

・契約書の審査・作成

・事業計画の法的な審査

・コンプライアンスプログラムの策定と実施

・知的財産に関する業務

・会社の業務の適正を確保するために必要な機構(=内部統制システム)の構築・運用

・企業内の各部署から受ける法律相談

・従業員または経営層への法律情報の発信や教育・啓蒙活動

・労務管理や株主総会対策など

ではここで、予防法務の具体的な内容に触れていきましょう。

コンプライアンスに関するもの

コンプライアンス(­=compliance)とは、一般的には法令遵守という意味で、「法律などのルールに従って企業活動を行うこと」です。単に法律を守るといった狭い意味だけでなく、独自に定めた企業ルールを守ること、社会的な常識やモラルに従って行動することなどもコンプライアンスに含まれます。

コンプライアンスは、例えば外食業や製造業、金融業など、企業が属する業界が定めているガイドラインやルールに沿った形式で運用されます。内容は、次の項目から成り立っています。

・経営トップによる法令遵守の基本方針の表明

・法令遵守を行う上での行動基準の作成と配布

・企業倫理担当役員の任命

・法令遵守についての社員教育・指示・相談窓口の設置

・法令遵守の状況の監査

・違反時の対応と再発防止策

契約法務

契約法務とは、契約書に関する業務の全てを指します。依頼部門の契約書作成依頼に応じて、契約条件や主要な契約条項を確定させるために、以下の活動を遂行します。

・契約書精査
取引先から提案された契約内容のリスク・シミュレーションおよびリスク・コントロール(リスクの回避・移転)、リスク・アセスメント(リスクの義務・範囲)を精査

・契約交渉
契約交渉の場に立ち会い、取引相手とその交渉窓口担当者と駆け引きをしながら、契約条件を取り決め

・契約書作成
交渉の成果を文書化

知的財産権対策

企業の権利トラブルでよく知られているのが、知的財産権です。新しい意匠(デザイン)や発明があったり、新しく商品のネーミングを考えたりした場合、第三者が先行して出願・登録しているかどうかを事前に調査します。調査の結果、問題なければ特許取得や商標登録をはじめ、発明者と企業との間で権利関係や対価などの取り決め、権利侵害が発生した場合の対策を講じます。

また、音楽や写真、映像、イラスト、キャッチコピーを使うテレビCMや新聞広告を打つとき、著作権を侵害していないか慎重な事前調査が必要です。

労務管理・株主総会対策

労務管理とは、就業規則の見直しや退職に関するトラブル対応など、企業の労働環境を維持管理する業務です。労働基準法をはじめとした労務管理に関する法律を熟知し、法改正に留意しながら適切に対応します。また、自社の株主総会運営を法的な観点からアドバイスすることもあります。

予防法務に必要な機能と役割

企業が抱えるリスクは常に変化します。予防法務は、「企業の内外で起きるさまざまなリスクへの対処」という考え方を基本としており、行われる業務の全てに、以下の役割が内包されています。

リスク分析

トラブルが発生するたびに対策を取るのではなく、企業活動の中でどういったことがリスクになりうるのかを事前に洗い出して、リスクの影響度や発生確率などの分析を行うことでトラブル解決への方向性を定めて、どのリスクから解決するのか優先度を決めておきます。

プラン策定、実施

リスク分析結果をもとに、コンプライアンス・ルールやプランを策定し、社員一人ひとりの役割や行動内容を決定します。その後も正しく運用されているかチェックし、場合によっては助言したり、プランに修正を加えたりします。

評価、改善

リスク対策は日常的かつ継続的に行うことで、さらなるリスクを発見したり、リスク回避対策を改善できたりします。また、リスク回避に対する社内での取り決めが形骸化することなく、リスクが発生する前から適切な対策を取ることが可能です。

予防法務の事例

ではここで、実際に予防法務がどのような場面で活用できるか、いくつか事例をご紹介します。

AI(人工知能)に関する知的財産権

例えば最近のエアコンの場合、外出先からスマートフォンで時間と温度を設定できるほか、部屋の広さや形状、人の位置や体温などから、どこにどのくらい風量を送ればいいかを判断し、効率的に部屋を暖めるまたは涼しくするプログラムが搭載されています。

こうしたAI(人工知能)のプログラムの記載表現や学習用データ、学習済みモデル、AI(人工知能)による生成物には知的財産権が認められるケースがあります。

バイトテロ

2019年に世間を騒がせたバイトテロ。飲食店やコンビニエンスストアで働くアルバイトスタッフが、店舗での不適切な行為を撮影し、SNSにアップして炎上するものです。他にも開発中の商品や撮影中の映画・ドラマといった、世の中に発信していない情報が流出するケースもあるようです。

最近ではSNSよりも、YouTubeなどの動画投稿サイトから発覚することも増えており、バイトテロが発生すると、動画撮影に関わったスタッフだけでなく、消費者や関係各所への早急かつ正確な対応が求められます。

バイトテロへは、以下の対応が例として挙げられます。

・店内(仕事場)への監視カメラの設置

・スマートフォンの仕事場への持ち込み禁止

・従業員の(勤務内容に関する)SNS投稿の禁止

・社員教育(マニュアル)の整備、強化

・発生させたスタッフへの損害賠償請求

まとめ

企業不祥事の発生原因は、何らかのトラブルが発生したときの対処法が文書化かつ可視化されておらず、現場で業務に従事するスタッフの経験や裁量に頼りきりになっていること、知らない間に法の定めた違反ラインを超えてしまっていたというケースがほとんどです。

こういう状況を改善するためには、社内マニュアルを定めるなどの対策を講じておくことが大切です。作業に入る全てのスタッフが統一化されたルールのもとに行動できるようになり、コンプライアンスへの社員の意識の向上も期待できるでしょう。

事業活動を円滑に進めるためにも、予防法務の導入を検討したいものです。

参考:

・企業法務バイブル <第2版>(畑中 鐵丸 著・弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所 編、2014)

・働き方改革法、会社法改正に対応!最新会社法務の基本と実務-図解で早わかり-(森 公任・森元 みのり/監修 三修社、2020)

・入門図解中小企業のためのビジネス法務実践マニュアル-事業者必携 必ず知っておきたい !-(戸塚 美砂/監修 三修社、2014)

・契約実務と法 -リスク分析を通して-(河村寛治 第一法規株式会社、2008)

・2019年3月「バイトテロ」の現状と対応を分析(あなたの一歩先を照らす教養セミナー 先達【センダチ】、2019)

Digital Workstyle College 編集部
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