会社で新たに人を雇い入れる際、「労働条件通知書」の明示が必須です。
近年では書面による明示だけではなく、労働者が同意した場合に限り、電子メールやLINEでのペーパーレス交付でも良いとされています。
そこでこの記事ではビジネスパーソン、特に総務・労務・法務の担当者に向けて、「労働条件通知書」を交付する際の詳細、注意点などについて解説します。
労働基準法 第十五条においては、「労働条件の明示」に関して以下の通り定められています。
(労働条件の明示)
第十五条
使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。
労働基準法|e-Gov法令検索
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049
この法律に基づき、使用者が労働者に対して「賃金」「労働時間」「休日」といった労働条件に関して明示して書面化したものを「労働条件通知書」と言います。
厚生労働省では、次図で示すような様式を提供しています。
会社勤めの経験がある人なら、「採用時にこのような書面を会社側から受け取った」と見覚えがあるのではないでしょうか?
[図1]「労働条件通知書」の様式例 一般労働者用
使用者から労働者に対して「労働条件通知書」を出す必要がある場面は、労働契約を締結した時、つまり「採用時」です。
あるいは、有期雇用労働者の契約更新時にも改めて「労働条件通知書」を明示する必要があります。
参考:有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準について|厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署
https://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/12/dl/h1209-1f.pdf
使用者が労働者に対して、採用・更新時に「労働条件通知書」に記載すべき事項は、以下に示す13項目です。
(1)労働契約の期間に関する事項
(2)就業の場所及び従業すべき業務に関する事項
(3)始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時点転換に関する事項
(4)賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金等を除く。)の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
(5)退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
(6)退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに退職手当の支払いの時期に関する事項
(7)臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及びこれらに準ずる賃金並びに最低賃金額に関する事項
(8)労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
(9)安全及び衛生に関する事項
(10)職業訓練に関する事項
(11)災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
(12)表彰及び制裁に関する事項
(13)休職に関する事項
これらのうち、(1)〜(5)については原則として書面の交付により明示しなければなりません。
ただし、(4)のうち「昇給に関する事項」は除きます。
前図で掲げたとおり、「労働条件通知書」のフォーマットは厚生労働省ホームページから無料でダウンロードすることができますので、活用することで書面作成の一助となります。
▼「労働条件通知書」各種フォーマットダウンロードはこちらから
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken01/index.html
参考:採用時に労働条件を明示しなければならないと聞きました。具体的には何を明示すればよいのでしょうか。|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/faq_kijyunhou_4.html
「労働条件通知書」明示の方法は、これまで書面の交付に限られていましたが、平成31年4⽉1⽇からは、労働者が希望した場合に限り、FAXや電子メール、LINE等でも明示できるようになりました。
(1) FAX
(2) Eメールや、Yahoo!メール、Gmail等のWebメールサービス
(3) LINEやメッセンジャー等のSNSメッセージ機能 等
労働者が希望した場合は、上記(1)〜(3)のような方法でも明示することができます。ただし、出⼒して書面を作成できるものに限られます。
メール・SNSで明示する場合には、受けとった側が印刷や保存をしやすいよう添付ファイルで送りましょう。
SMS(携帯電話等のショートメール)による明示は禁止されてはいませんが、PDF等のファイルが添付できず、文字数制限もあるため、望ましくありません。
第三者に閲覧させることを目的としている労働者のブログや個人のホームページへの書き込みによる明示は認められません。
労働契約の締結時に明示を怠ったり、労働者が希望していないにもかかわらず、 電子メール等のみで明示したりすることは、労働基準関係法令の違反となり、最高で30万円以下の罰⾦となる場合があります。
なお、明示する内容は、事実と異なるものにしてはいけません。
また「明示した・明示していない」といった労使間の紛争を未然に防止する観点から、 「労働条件通知書」のペーパーレス交付の際には以下の点に留意しましょう。
・労働者が本当に電子メール等による明示を希望したか、個別にかつ明示的に確認する
・本当に相手方へ到達したか、労働者に確認する
(労働条件を明示したにも関わらず、労働者側の受信拒否設定などによりメールがサーバー上に残っている場合など、 労働者が内容を確認できない場合も想定されます。)
・相手方へ到達後は出⼒して保存するよう、労働者に伝える
(SNSなどの一部サービスでは、情報の保存期間が限られている場合があります。)
・明示した⽇付、送信した担当者の氏名、事業場や法人名、使用者の氏名を記入する
画像出典・参考:
平成31年4月から、労働条件の明示が FAX・メール・SNS等でもできるようになります|厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署
https://www.mhlw.go.jp/content/000481172.pdf
官民いずれにおいても「ペーパーレス化」が叫ばれる昨今です。
タイムカード、出勤簿、給与明細など社内文書のペーパーレス化を推進している会社も増えつつあることでしょう。
今回の記事で解説したように、新たに人を雇い入れる際に作成が必須となる文書「労働条件通知書」のペーパーレス化も法的にOKとされています。
このように、法律によって義務化されている文書交付も、日々刻々とペーパーレス化が解禁されていることを正しく知って、社内業務効率化、そしてコストダウンに繋げていきましょう。