「下請法」という法律をご存知ですか?
これは、親事業者から下請事業者宛てに発注されるさまざまな委託業務において、下請事業者側が不当な扱いを受けることがないよう制定された法律です。
昨今ではクラウドソーソングなどを経由して、デザインや動画制作、ライティングといった情報成果物作成委託を自営型テレワーカーに発注する企業も増えてきているのではないでしょうか。
その際、「下請法」について知らずに万が一違反してしまうと、罰則を受けることにもなりかねません。
そこでこの記事では、ビジネスパーソンに向けて「下請法」について知っておくべき基本、そして、法違反とならないために留意すべきポイントなどを分かりやすく解説します。
親事業者から下請事業者へ発注される、さまざまな委託業務。
例えば、以下のような事例が「下請」の一例として挙げられます。
・自動車メーカー → 下請メーカー(部品製造)
・デパート・スーパー → 食品メーカー(プライベートブランド商品の製造)
・ソフトウェアベンダー → 下請メーカー(ソフトウェアの開発)
・放送局 → 制作会社(番組制作)
「下請取引」においては、親事業者のほうが優位な立場になりがちです。親事業者の一方的な都合によって、下請代金の支払いが遅れてしまったり、代金を不当に引き下げられたりなど、下請業者が不当な扱いを受けているケースも少なくありません。
そのため、「下請取引の公正化・下請事業者の利益保護」という目的で定められた法律が「下請法」です。
「下請法」では、「親事業者の遵守行為」および「親事業者の禁止行為」が定められています。
「下請法」の対象となる取引は、次表の通り、事業者の資本金規模と取引内容によって定義されます。
①物品の製造・修理委託 及び政令で定める情報成果物・役務提供委託を行う場合
(※プログラム作成・運送・物品の倉庫における保管及び情報処理に係るもの)
親事業者 | 下請事業者 |
資本金3億円超 | 資本金3億円以下(個人を含む) |
資本金1千万円超、3億円以下 | 資本金1千万円以下(個人を含む) |
②情報成果物作成・役務提供委託を行う場合(①の情報成果物・役務提供委託を除く。)
親事業者 | 下請事業者 |
資本金5千万円超 | 資本金5千万円以下(個人を含む) |
資本金1千万円超、5千万円以下 | 資本金1千万円以下(個人を含む) |
下請取引の公正化、および下請事業者の利益保護のため、親事業者には次の4つの義務が課されています。
発注の際は、直ちに以下のすべてを記載した書面を交付すること。
(ア) 親事業者及び下請事業者の名称(番号,記号等による記載も可)
(イ) 製造委託,修理委託,情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日
(ウ) 下請事業者の給付の内容(委託の内容が分かるよう,明確に記載する。)
(エ) 下請事業者の給付を受領する期日(役務提供委託の場合は,役務が提供される期日又は期間)
(オ) 下請事業者の給付を受領する場所
(カ) 下請事業者の給付の内容について検査をする場合は,検査を完了する期日
(キ) 下請代金の額(具体的な金額を記載する必要があるが,算定方法による記載も可)
(ク) 下請代金の支払期日
(ケ) 手形を交付する場合は,手形の金額(支払比率でも可)及び手形の満期
(コ) 一括決済方式で支払う場合は,金融機関名,貸付け又は支払可能額,親事業者が下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融機関へ支払う期日
(サ) 電子記録債権で支払う場合は,電子記録債権の額及び電子記録債権の満期日
(シ) 原材料等を有償支給する場合は,品名,数量,対価,引渡しの期日,決済期日,決済方法
下請代金の支払期日を給付の受領後60日以内に定めること。
下請取引の内容を記載した書類を作成し、2年間保存すること。
支払が遅延した場合は遅延利息を支払うこと。
親事業者には次の11項目の禁止事項が課せられています。
たとえ下請事業者の了解を得ていても、また、親事業者に違法性の意識がなくても、これらに抵触する場合には「下請法違反」となるので十分に注意が必要です。
禁止事項 | 概要 |
①受領拒否 | 注文した物品等の受領を拒むこと。 |
②下請代金の支払遅延 | 下請代金を受領後60日以内に定められた支払期日までに支払わないこと。 |
③下請代金の減額 | あらかじめ定めた下請代金を減額すること。 |
④返品 | 受け取った物を返品すること。 |
⑤買いたたき | 類似品等の価格又は市価に比べて著しく低い下請代金を不当に定めること。 |
⑥購入・利用強制 | 親事業者が指定する物・役務を強制的に購入・利用させること。 |
⑦報復措置 | 下請事業者が親事業者の不公正な行為を公正取引委員会又は中小企業庁に知らせたことを理由としてその下請事業者に対して,取引数量の削減・取引停止等の不利益な取扱いをすること。 |
⑧有償支給原材料等の対価の早期決済 | 有償で支給した原材料等の対価を,当該原材料等を用いた給付に係る下請代金の支払期日より早い時期に相殺したり支払わせたりすること。 |
⑨割引困難な手形の交付 | 一般の金融機関で割引を受けることが困難であると認められる手形を交付すること。 |
⑩不当な経済上の利益の提供要請 | 下請事業者から金銭,労務の提供等をさせること。 |
⑪不当な給付内容の変更及び不当なやり直し | 費用を負担せずに注文内容を変更し,又は受領後にやり直しをさせること。 |
「下請法」の対象となる取引は、その内容によっても条件が定められています。
製造業からサービス業まで、幅広い取引が対象です。
物品の販売・製造を営む事業者(メーカー、販売業者など)が規格・品質・形状・デザイン・ブランドなどを指定して他事業者に製造・加工を依頼すること。
ここでいう「物品」とは「動産」を指し、家屋などの建築物は対象外です。
物品修理を請け負っている事業者が、その修理を他事業者に委託したり、自社で使用する物品を自社で修理している場合に、その修理の一部を他事業者に意訳する場合など。
ソフトウェア、映像コンテンツ、各種デザインなど、「情報成果物」の提供・作成を営む事業者が、他事業者にその作成作業を委託すること。
<例>
・プログラム(ゲームソフト、会計ソフト、家電製品の制御プログラムなど)
・映像や音声、音響などから構成されるもの(テレビ・ラジオ番組、CM、映画など)
・文字、図形、記号などから構成されるもの(設計図、各種デザイン、広告、報告書など)
運送やビルメンテナンスをはじめ、各種サービスの提供を営む事業者が、請け負った業務を他事業者へ委託すること。
<例>
・貨物運送(自動車、船舶など)
・メンテナンス(ビル、自動車、機械など)
・顧客サポート(アフターサービス、コールセンターなど)
<例外>
建設業法に規定される、建設業を営む事業者が請け負う建設工事は「下請法」の対象となりません。
「公正取引委員会」および「中小企業庁」では、下請取引が公正に行われているかどうか把握するため、毎年、親事業者および下請事業者に対する書面調査を実施しています。
また、必要に応じて、親事業者が保管している取引記録を調査したり、立入検査なども実施しています。
親事業者が「下請法」に違反した場合、それを止めて適正な状況に回復させることを求めるとともに、再発防止措置を執り行うよう、勧告が行われます。この「勧告」が行われた場合、原則としてその旨は公表されます。
親事業者が以下のような違反行為を行った場合、
・発注内容などを記載した書面の交付義務違反
・取引内容を記載した書面の作成・保存義務違反
・報告徴収に対する報告拒否・虚偽報告
・立入検査の拒否・妨害・忌避
違反者である個人、そして親事業者である会社も罰せられます。
罰金の上限額は最高50万円となっています。
法違反とは、「知らなかった!」では済まされません。
まずは、「親事業者の4つの遵守義務」「親事業者の11の禁止行為」を正しく押さえておくことがポイントです。
日々の業務において、自社よりも小規模な他事業者や、個人事業主へ業務委託をする場面がある方は、「下請法」について知識を持っておきましょう。
参考:知るほどなるほど下請法|公正取引委員会
https://www.jftc.go.jp/houdou/panfu_files/sitaukepamph.pdf
下請法の概要|公正取引委員会
https://www.jftc.go.jp/shitauke/shitaukegaiyo/gaiyo.html