戦略法務とは?予防法務との違いや戦略法務の事例をご紹介

デジタル時代に即したビジネスへの変革(デジタルトランスフォーメーション)が進展により、業種や規模の垣根はなくなり、ビジネス環境は大きく変わっています。競争のルールの前提条件から変わるなかで、法律や契約を自社のビジネスに使える企業と使えない企業で競争力の観点からも大きな差がつくと予想されます。

このような背景のなかで注目を浴びているのが「戦略法務」

本記事では戦略法務についての解説や戦略法務の事例を紹介いたします。

戦略法務とは?

「戦略法務」とは、会社の事業活動や業務が円滑に遂行されるよう、法的な側面からサポートしていく法務業務です。

具体的には、新商品の開発や顧客への営業活動を、法律や法令の範囲内で最大限自社に有利に進めていくことや、新規事業やM&Aを進めるうえで障害となる法的なリスクを見つけ出し、解決策を提示することなどを指します。こういった背景から、ときには経営判断に踏み込んだ内容を助言することもあります。

戦略法務の3つの業務

新規事業分野への進出

企業の発展過程では、新たな事業に進出する場面も出てきます。自社で新たに事業を立ち上げる他、その分野で活動している企業を合併もしくは買収のいずれかの方法をとるようです。法務としては合併・買収の対象となる企業の事前調査、実際に合併・買収を行う際の手続きなどを担います。

事業再編・事業再構築の検討

事業展開の迅速化や収益の拡大を実現するために、企業は事業活動の見直しを行うことがあります。こうした事業再構築に関する経営判断を、自社及び利害関係者との関係に配慮しながら法的サポートを行うのが法務の仕事です。他社との提携やM&Aといった方法をはじめ、あらゆる角度から最適かつ最善の事業再編方法を模索し、会社法制上の手続きを踏まえた上で事業活動の再構築方法を決めていきます。

立法や行政への働きかけ

現行の法制度や行政の取り扱いが事業活動の支障となっていて、改善の余地がある場合、企業の所属している業界団体を通じて関係機関に意見書を提出するなど、立法や行政に積極的に働きかけて見直しを求めていくこともあります。

企業法務、予防法務との違い

企業法務

活動理念や具体的な活動内容によって定義は大きく異なりますが、一般的な定義付けとしては「企業法務とは、経営に関わる法律上の諸問題を取り扱う企業内の法律業務全般」となっています。

企業法務は、下図が示すように大きく分けて3種類の法務業務があります。

予防法務

企業は不祥事や訴訟が起きてしまうと、裁判にかかる費用、多額の賠償金といった金銭的な負担だけでなく、社会における企業のイメージを低下させるリスクが発生します。そういう事態を招く可能性を低くしてダメージを未然に防ぐ、あるいは軽減しようとするために立てる事前対策が予防法務です。

予防法務の代表的な例としては、以下のものが挙げられます。

  • 契約書の審査、作成
  • 事業計画が法律・法令に則ったものであるか審査
  • コンプライアンスプログラムの策定と実施
  • 情報漏えい対策
  • 知的財産権の登録
  • 法律トラブル相談など

ちなみに臨床法務とは、顧客からクレームが寄せられたり、取引先の企業との間に裁判沙汰が起きたり、社員などの不祥事が刑事事件に発展したりした場合、法的知識を駆使して解決することです。紛争処理法務などと呼ぶこともあります。

求められている背景

企業を取り巻く法律やルール改正の動きは、世界規模で起こっています。

戦略法務の先進国と言われるアメリカでは、対米外国投資委員会(CFIUS)が自国の企業と他国の企業によるM&Aが発生した場合の企業審査を、2018(平成30)年より強化しました。データ移転に関しても、EUでは「一般データ保護規則(GDPR)」を施行してEU圏外への持ち出しを制限したり、中国でも2017 年6 月に施行された「インターネット安全法」により、外資系企業による中国国外へのデータの持ち出しが厳しく制限されたりするようになりました。さらに、それぞれの国で定めた競争法に基づき、違反事例に対して直接関係機関が積極的に介入するようになっています。

日本でもそうした動きに対応するようにさまざまな法制度の整備が始まっていること、グローバル化や情報化社会の急速な進化などにより、取引ごとに存在する法律が複数存在するケースや法律の創設が追いついていないケースも増えてきました。

こうした大きな流れの中で、企業が事業活動を継続していくには、これまでの「何かが起きたら対応する」だけでなく、「起きる前に防ぐ」戦略的な企業法務に取り組む必要があるのです。

戦略法務に必要な機能と役割

守り(ガーディアン)としての機能

ガーディアン(Guardian)とは、守護者、保護者、後見人などの意味で、「国際競争力強化に向けた 日本企業の法務機能の在り方研究会 報告書」によると、「法的リスク管理の観点から、経営や他部門の意思決定に関与して、事業や業務執行の内容に変更を加え、場合によっては、意思決定を中止・延期させるなどによって、会社の権利や財産、評判などを守る機能」と定義づけられています。

法務部がガーディアンとしての機能を果たすためには、企業のコンプライアンス・ルールを定めるほか、業務プロセスを明確化して徹底すること、リスクを予防しながら何らかの問題が起きたときのために契約書に企業としてどのように対応するかを明記しておくことなどが必要です。

攻め(パートナー)としての機能

「国際競争力強化に向けた 日本企業の法務機能の在り方研究会 報告書」によると、「経営や他部門に法的支援を提供することによって、会社の事業や業務執行を適正、円滑、戦略的かつ効率的に実施できるようにする機能」となっています。

法務部がパートナーとしての機能を果たすためには、契約を締結する前の段階から積極的に関わるだけでなく経営判断への提案を行うこと、法律や法解釈の変化に対応しながら、まだ法律の整備の及んでいない領域へ、企業が挑戦するのをサポートしていくことなどが必要です。

戦略法務の事例

ここで、戦略法務の取り組み事例をいくつかご紹介します。

株式会社マンダム

株式会社マンダムは男性用ヘアスタイリング剤やスキンケア用品、女性用メイクアップ商品などを数多く世に送り出している、1927年創業の化粧品メーカーです。

毎年、全社員を対象としたコンプライアンス全社教育を実施することで、企業内で不祥事を起こさないための組織風土づくりに注力しています。また、「標準契約約款」の整備、契約書の作成から審査、契約交渉も法務部が積極的に関与。違法な取引を予防するだけでなく、法的リスクの回避・極小化にも貢献しています。

パナソニック株式会社

2011(平成23)年にパナソニック株式会社(以下、パナソニック)が中国の車用ニッケル水素電池を中国の電池メーカーに売却したのも、少し古いですが戦略法務の事例といえます。

2009(平成21)年にパナソニックは三洋電機を子会社化しました。中国国内に車載用ニッケル水素二次電池事業を手掛ける工場を持っていたため、中国の独占禁止法を審査する機関の指摘を受けて、関連事業の資産を全て移したパナソニックの子会社の全株式を、中国の電池メーカーに約5億円(約610万ドル)で売却しました。その際、特許をはじめとした知的財産権も使用を認める、工場の従業員の雇用も守るといった売却の条件を中国の機関の審査・承認を受けたとされています。

まとめ

本記事では、戦略法務の解説や予防法務についての説明、戦略法務が求められる背景や取り組み事例を紹介いたしました。

ビジネスを取り巻く環境や前提条件が変わると、企業や組織内での役割も変わっていきます。

マーケットから企業に何が求められているのか?そのために法務として企業の長期的な成長に貢献するためにはどうすべきか?

戦略法務という言葉が生まれた背景から、そう問い続けることが戦略法務導入に近くのかもしれませんね。

参考:

・「法務室の活動」 利用統計を見る – 国士舘大学 学術情報リポジトリ
https://kokushikan.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=10753&file_id=72&file_no=2

・パナソニック、車用ニッケル水素電池事業を中国企業に売却(日本経済新聞、2011年2月1日付)
https://www.nikkei.com/article/DGXNASDD010EZ_R00C11A2TJ0000/

・働き方改革法、会社法改正に対応!最新会社法務の基本と実務-図解で早わかり-(森 公任・森元 みのり/監修 三修社、2020)

・入門図解中小企業のためのビジネス法務実践マニュアル-事業者必携 必ず知っておきたい !-(戸塚 美砂/監修 三修社、2014)

・「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会報告書」(経済産業省、2018)http://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180418002/20180418002-2.pdf

・「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会 報告書~令和時代に必要な法務機能・法務人材とは~」(経済産業省、2019)

https://www.meti.go.jp/press/2019/11/20191119002/20191119002-1.pdf

Digital Workstyle College 編集部
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