最近のニュースで、「オンライン株主総会」や「バーチャル株主総会」という言葉を取り上げたものをいくつか目にします。株式会社であれば、どんな小規模事業者であっても株主総会を開催し、議事録を作成しなければなりません。
その開催手法も、「バーチャル」「非対面方式」「オンライン化」に移行していく動きが既に始まっています。
今回の記事ではその「バーチャル株主総会」という開催手法の概要についてお伝えします。
「バーチャル株主総会」とは、取締役や株主らが一堂に会する物理的な「場所」を設けつつ、オンラインなどで繋いで遠隔地から総会に参加することもできる、という新たな開催方式を指します。
正式には「ハイブリッド型バーチャル株主総会」と呼びます。
実は現行法上、こういったスタイルでの株主総会も可能であり、直近でいくつかの会社が実際に開催し、ニュースにも取り上げられています。
「新型コロナウイルス感染対策として、株主総会もリモートに」といった論調も見られますが、実は経済産業省内でこの開催手法の議論が始まったのはコロナ禍以前である2018年8月からのことでした。
昨今では、企業活動のグローバル化に伴い、株主が国内の遠隔地のみならず、海外に居るケースも多々考えられます。
“[以下、引用]
グローバルな観点から最も望ましい対話環境の整備を図るべく、株主総会当日の新たな電子的手段の活用の在り方について、2019年秋頃を目途に取りまとめるとともに、年間を通じた対話の在り方について、諸外国の状況も踏まえて引き続き検討する。”
「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」を策定しました|経済産業省
https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200226001/20200226001.html
上記のような観点を踏まえ、国は「バーチャル株主総会」に関してここ数年、議論・研究を重ねてきて、現在に至っています。
「バーチャル株主総会」は、会社法上の「出席」となるか否かによって、「参加型」「出席型」の2タイプに分類されます。
[出典]ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイドについて|経済産業省経済産業政策局企業会計室
https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200226001/20200226001-1.pdf
物理的に集まる株主総会の「場」に居ない遠隔地の株主が、会社から通知された固有のID・パスワードによる本人確認を経て、Webサイト等で配信される中継動画を傍聴するような形態のことです。
「ハイブリッド参加型バーチャル株主総会」においては、基本的にリモート参加の株主は「出席」していない位置づけのため、特定の事項に対して説明を求める質問や動議はできません。
また、当日の決議に参加することもできないため、あらかじめ招集通知等で傍聴を案内する際に、「事前行使」を行うよう促す事が必要です。
ただ、事前に受け付けたコメント等を議長の裁量において取り上げることは、運営の工夫次第で可能です。(株主総会の最中に紹介・回答する、株主総会終了後に紹介・回答する、後日Webで紹介・回答するなど)
[出典]ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイドについて|経済産業省経済産業政策局企業会計室
https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200226001/20200226001-1.pdf
こちらは、先述した「ハイブリッド参加型バーチャル株主総会」と比較すると、いくつかの異なる特徴があります。
まず、遠隔地からリモートで繋ぐことは同じですが、株主総会に会社法上の「出席」ができる形態となります。
現行の会社法の解釈において、「開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されている」ことを前提に、出席型による開催が許容されている、というものです。
よって出席型の開催に際しては、前提となる通信環境整備(具体的には、通信障害)を事前にクリアにしておくことが必須です。
・遠方や、海外に住む株主の株主総会参加または傍聴機会の拡大。
・ 複数社の株主総会を傍聴することが容易になる。
・参加方法の多様化による株主重視の姿勢をアピール。
・ 株主総会の透明性の向上。
・ 情報開示の充実。
・遠方や、海外に住む株主の、株主総会出席機会の拡大。
・ 複数社の株主総会に出席すること が容易になる。
・ 株主総会での質疑等を踏まえた議決権の行使が可能となる。
・ 質問の形態が広がることにより、株主総会における議論(対話)が深まる。
・ 個人株主の議決権行使の活性化につながる可能性がある。
・ 出席方法の多様化による株主重視の姿勢をアピール。
・ 株主総会の透明性の向上。
・ 情報開示の充実。
まず、リモート接続・傍聴用の中継動画配信WEBサイトを整備する必要があります。
また、株主の「なりすまし」を防止するため、会社から固有のIDやパスワードを事前に交付し、中継にアクセスする前に「本人確認」のプロセスを挟むことが必須です。
開催のためには、このような機能を備えたシステム導入が必要です。
先述したように、現行の会社法の解釈において、「開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されている」ことを前提に、出席型による開催が許容されています。
よって、通信障害発生のリスクに対して事前に最大限、備えをする必要があります。
なお、会社の管理が及ばない、株主側の問題による不具合のせいで株主がバーチャル出席できない場合も考えられます。これは、交通機関の障害によって株主が総会会場に出席できない場合と同様に考えて、 株主総会の決議の瑕疵とはなりません。
・サイバーセキュリティ対策。
・ 招集通知やログイン画面に、バーチャル出席を選択した場合に通信障害が起こりうることの告知を掲載しておく。
・ 株主が中継にアクセスするために必要な環境(通信速度、OSやアプリケーションなど)や、アクセス手順について事前に通知しておく。
・株主がインターネットなど、リモート接続を活用できることが大前提。
・そのうえで、バーチャル株主総会実施ツール、システムを用いた円滑な参加に向けた環境整備が必要
・ 物理的な「場」に集まっている参加者の肖像権(中継画面への映り込み)への配慮も必要な場合がある
・株主がインターネットなど、リモート接続を活用できることが大前提。
・円滑なバーチャル出席に向けた関係者等との調整や、ツール、システム導入などの環境整備が必要
・質問の選別による議事の恣意的な運用につながるリスクもある。
・ 濫用的な質問が増加する可能性。
・ どのような場合に決議取消事由にあたるかについての経験則の不足。
・ 事前の議決権行使に係る株主のインセンティブが低下し当日の議決権行使がなされない結果、 議決権行使率が下がる可能性もある。
株主総会に「出席」し議決権を行使できる株主は、基準日現在で議決権を有する株主として株主名簿に記載された者に限られます。
ハイブリッド型バーチャル株主総会においては、当日の出席者の本人確認について、リアル出席株主とバーチャル株主それぞれに対して行うことが必要です。
先述したように各株主に固有のID・パスワードを事前交付し、本人確認をすることが妥当だです。なりすましのリスクが高いケースにおいては、「2段階認証」や「ブロックチェーン」を導入することも有効です。
リアル株主総会では、受付を通過する際に、出席株主数をカウントし、議場における株主数・株式数を確認するのが一般的です。ここで、株主が事前に議決権行使をしていた場合には、この受付時のカウントをもってその効力が失われるものとされています。
しかし、バーチャル出席する株主については、リアル株主総会の議場には足を運べないものの、「移動時間とコストがかからないのであれば、偶然空いたスキマ時間に、ネットでログインしてみよう」という風に、急な判断による出席の可能性も大いにあると考えられます。また、途中参加や途中退席の可能性もあり得るでしょう。
バーチャル出席株主が事前の議決権行使を行っていた場合、リアル株主総会の実務と同様に、ログインをもって出席とカウントし、それと同時に事前の議決権行使の効力が失われたものと扱ってしまうと、無効票を増やすこととなり、株主意思を正確に反映しない可能性が出てきてしまいます。
よって、バーチャル出席株主についての出席のカウントと事前の議決権行使の効力の関係については、株主意思の尊重という観点から、リアル株主総会の実務とは異なる取扱いも許容されると考えられます。
・バーチャル出席株主の議決権取扱いについて、招集時にあらかじめ通知しておく。
・ 審議に参加するための本人確認としてのログインを行うが、その時点では事前の議決権行使の効力を取り消さずに維持する。
・当日の採決のタイミングで新たな議決権行使があった場合に限り、事前の議決権行使の効力を破棄する。
・ログインしたものの、採決に参加しなかった場合には、事前の議決権行使の効力が維持される。
なお、そもそも事前の議決権行使判断を変更する意思のない株主のために、出席型ログイン画面の他に、「ただ参加(傍聴)だけしたい株主向け」の中継画面入り口を準備するといった工夫も考えられます。
リアル株主総会では、質問や動議については挙手した株主を議長が指名するスタイルが一般的ですが、時間の都合によっては挙手した株主が必ずしも発言できるわけではありません。また、その場でどんな質問や動議が飛び出すか予測不能な側面もあります。
一方、バーチャル出席株主からの質問等は、予めテキストでの受付が想定され、議長が事前に質問内容を確認した上で当該質問を取り上げるか否か判断することが可能になります。
より多くの株主にとって有意義な質問を取り上げ、株主との建設的対話につながる一方で、議長が、 例えば、現経営陣に対して敵対的な質問を取り上げないなど、恣意的な議事運営に陥るリスクも孕んでいます。
また、バーチャル出席株主については、リアル株主総会の出席者に比べて、物理的に議長と対峙していない、他の株主の様子について確認できないといった状況から、質問や動議の提出に対する心理的ハードルが下がると考えられます。
さらに、バーチャル出席については、質問や動議のテキスト提出についてコピー&ペーストが可能なことから、議事運営を妨害するといった不当な目的で、同じ質問や動議を複数回送信したり、複数社の株主総会に同時に出席して、会社による違いを踏まえず各社に対して同じ質問や動議を送信するなど、質問・動議の濫用が発生する可能性も否定できません。
①質問の取り扱いについて
・株主1人あたりが提出できる質問回数や文字数、送信期限といった制約をあらかじめ決めておく(質問送信フォームの設置など)
・議長が質問を取り上げる際、個人情報が含まれる場合や、個人的な攻撃等につながる不適切な内容は取り上げないなど、あらかじめ運営ルールを定めておく
・それらを招集通知や Web 上であらかじめ株主宛に通知し、コンセンサスをとっておく。
・適正性・透明性を担保するため、受け取ったが回答できなかった質問の概要を公開するなどの工夫を行う。
②動議の取り扱いについて
・株主に対し、事前に招集通知等において、「バーチャル出席者の動議については、取り上げることが困難な場合があるため、動議を提出する可能性がある方は、リアル株主総会へご出席ください。」といった案内を記載したうえで、原則として動議についてはリアル出席株主からのものを受け付ける、といった対策を予め講じておく
「 (2)株主総会の出席と事前の議決権行使の効力の関係」の項目でも述べましたが、バーチャル出席株主の議決権行使については、電磁的方法による事前の議決権行使ではなく、当日の議決権行使として取扱う、という考え方になります。
バーチャル出席した株主が、株主総会当日に議決権を行使できるよう、 会社はそのシステムを整える必要があります。
なお、そのシステムの検討にあたっては、書面や電磁的方法によって事前に議決権行使を行った株主が当日バーチャル出席した場合における、事前の議決権行使の効力の取扱いについて、「(2) 株主総会の出席と事前の議決権行使の効力の関係」の理解を踏まえ留意が必要です。
本記事では、「バーチャル株主総会」とは一体どのように開催されるものなのか、その概要やメリット、導入時の留意点などを総論として述べました。
今後の記事では、実際に「バーチャル株主総会」を開催した企業事例や、開催のためのツール紹介などもお伝えしていく予定です。
自社の事業展開のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している企業の方は、ぜひ今後の記事も引き続き、参考にしてみてください。
参考:
株主総会(オンラインでの開催等)、企業決算・監査等の対応|経済産業省
https://www.meti.go.jp/covid-19/kabunushi_sokai.html
「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」を策定しました|経済産業省https://www.meti.go.jp/press/2019/02/20200226001/20200226001.html