6割以上が押印のためにやむなく出社!「脱・はんこ」ケーススタディ

自社でリモートワークを推進・継続したいけれど、特に法務、総務経理担当者は、「書類・はんこ文化がまだ残っている」という課題を抱えている人も多いのではないでしょうか?

そこで今回の記事では、「脱・はんこ」を表明した企業の事例を知って、具体的にどうやって実現させるのか、また、それによってどれぐらい生産性向上が見込めるのか、ケーススタディとして見て行きます。

まずは社内から、「脱・はんこ」を推進するヒントにしてみてください。

1.6割以上が「書類・押印のためにやむなく出社」

[図]アドビ「テレワーク勤務のメリットや課題に関する調査結果」を発表|Adobeのデータを参考に筆者が作図したもの
https://www.adobe.com/jp/news-room/news/202003/20200304_adobe-telework-survey.html

ソフトウェア会社であるアドビシステムズ株式会社では、2020年2月10日~17日にかけて「テレワーク勤務のメリットや課題に関する調査」を実施しました。インターネット調査により、都内勤務で、過去3ヶ月以内にテレワーク勤務したことがあるビジネスパーソン500人から回答を募ったものです。

調査によると、テレワークを経験したビジネスパーソンの8割以上が「業務の生産性向上を実感した」と回答。そして、9割以上が「今後もテレワークを継続したい」と回答したことが明らかになっています。

結果から、テレワークは多くのビジネスパーソンにとって、出社勤務よりも生産性の面で好感触があり、今後も継続・拡大のポテンシャルを大いに秘めていることが伺えます。

ところがその一方で、6割以上が「書類や押印対応が必要でやむなく出社した」とも回答。多くの職場で、ペーパーレス化やはんこ文化脱却がまだまだ進んでいないことも伺えます。

テレワーク推進・継続・拡大の鍵は、「書類のデジタル化」「脱・はんこ」にあるとも言えそうです。

参考:アドビ「テレワーク勤務のメリットや課題に関する調査結果」を発表|Adobe
https://www.adobe.com/jp/news-room/news/202003/20200304_adobe-telework-survey.html

(1)テレワークを阻害する要因にもなり得る「書類」「はんこ」

テレワーク推進にとって重要な要因は「モビリティ」ではないでしょうか。

「モビリティ(mobility)」という英単語は、直訳すると「場所・階層・職業などの、変動しやすさ、流動性、移動性」といった意味合いです。これをテレワークに当てはめて考えると、仕事をする場所を容易に移動できるように、手段や環境が整備されていること、といったところでしょうか。

会社で日々、頻繁に取り扱う書類といったら「請求書」「見積書」「領収書」「請書」「契約書」といったものがあるのではないかと思います。

「モビリティ」という観点で考えると、テレワーク推進だからといって、例えば経理担当者が一か月分の膨大な請求書や領収書を家に持ち帰って仕事をする、というのはとても非現実的です。

機密性の高い書類は社内規定で、所定の鍵付きロッカーにファイリングして保管するルールになっている会社が多いはずです。それを経理担当者が街中を持ち歩いて、自宅へ持って帰るといったようなことは、紛失・情報漏洩という多大なリスクを伴います。

「書類」「はんこ」文化によって現状、テレワークが阻害されている、という会社では、まだまだこのような実態が当てはまるのではないでしょうか。

よって、書類はペーパーレス化する、クラウド化する、脱・はんこを推進する、といったことがテレワーク推進の鍵となっていくのです。

参考:「オフィスに来ないと仕事できない」を生む5つの要因 – テレワークに欠かせない”モビリティ”を阻む制約とは|Worker’’s Resort
https://www.workersresort.com/jp/culture/5mobility-restrictions/

参考:モビリティー|Weblio辞書
https://www.weblio.jp/content/%E3%83%A2%E3%83%93%E3%83%AA%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BC

(2)「ペーパーレス化」「脱・はんこ」による効果は?

では具体的に、「ペーパーレス化」「脱・はんこ」でどれぐらい生産性向上を期待できるのでしょうか。

①管理コスト、場所、時間の削減

紙の書類が膨大にあると整理、ファイリングの手間、保管場所の確保といった側面が必要になります。「ペーパーレス化」によって、このような手間・コスト・場所・時間をまるごとカットできることを期待できます。

②テレワークの推進・継続

先にも述べたように、テレワークを経験したビジネスパーソンにとって、テレワークは「生産性が向上する」「今後も継続していきたい」と捉えられている割合が非常に大きいことが明らかになっています。テレワーク推進・継続に取り組むことで、会社全体として業務効率化を実現でき、生産性が向上することも期待できます。

③印紙代のカット、その管理コスト・時間もカット

現状、紙の書類のうち「契約書」「領収書」「請求書(領収書を兼ねている場合)」には法律の定めにより、印紙を貼る必要があります。しかし、ペーパーレス化することで印紙は不要となります。電子データには印紙税が非課税だからです。

印紙代そのものを丸ごとカットでき、さらには、その管理コストや時間もカットすることができます。

参考:国税庁 コミットメントライン契約に関して作成する文書に対する印紙税の取扱い
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/inshi/5111/01.htm

参考:国税庁 福岡国税局 文書回答事例 別紙
https://www.nta.go.jp/about/organization/fukuoka/bunshokaito/inshi_sonota/081024/02.htm

参考:参議院 参議院議員櫻井充君提出印紙税に関する質問に対する答弁書
https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/162/touh/t162009.htm

2.社内のハンコ廃止を明言した企業

これまで述べてきたように、今後のテレワーク推進を阻害する要因にもなり得る「書類」と「はんこ」の文化。政府からも指摘が出ています。

安倍首相は、4月22日に「民間の経済活動で紙や押印を前提とした業務慣行を改めるよう、全面的に点検してほしい」と閣僚らに指示。

防衛省の河野大臣も「こういうコロナの状況で果たしてハンコが必要なのか。電子で稟議やれるような仕組みもありますから」とコメントしています。

そんな中、国内大手企業の中では、いち早く「ペーパーレス化」「脱・はんこ」を明言した会社も複数存在します。

ここからは、そのような企業にスポットを当て、「ペーパーレス化」「脱・はんこ」によって「どんな課題が解決できるのか?」「具体的にはどのようなスキームで実践していくのか?」「新たな取り組みによって見込める効果は?」という視点で、ケーススタディ的に見て行きます。

引用・参考:テレワークを阻む「ハンコ文化」は政府の“太鼓判”で消え去るのか?|#SHIFT by ITメディアビジネス
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2005/20/news022_3.html

(1)サントリー

国内大手飲料メーカーのサントリーは、2020年5月28日に「紙の押印省略」などを発表しました。

①解決すべき課題

サントリーでは、ワークライフバランスの実現として2010年より、10分単位から活用可能な在宅勤務制度の導入など、フレキシブルな働き方を推進してきました。

「緊急事態宣言」解除後の現在も、約7千人の社員が在宅勤務を続けています。

しかし、契約や経費精算での押印作業などで出社を余儀なくされるケースも発生しています。

そこで、会社の新たな方針として、これまでの「出社を前提とした働き方」を改めて見直していくことを表明。

今後は、取引先との同意が得られるかなどの課題をクリアした上で、「ペーパーレス化」「脱・はんこ」を推進していく、としています。

②どのようなスキームで導入するのか

2020年6月から、業務のペーパレス化を進めていく、としています。

まず社内では、経費清算の申請・承認などに領収書の「画像」を活用し、はんこ無しで申請・承認を可能にしていきます。

そして社外では、契約書に関する業務も対象になります。作成や押印、支払いまでの処理を電子契約で行い、書類への押印省略など、電子決済を段階的に導入していきます。

このスキームを、グループ主要各社で2022年内をゴールに見据え、導入を目指すとしています。

③期待できる効果

業務のペーパーレス化により、国内グループ社員約1万人が在宅で押印業務などを完結できるようになり、テレワークをさらに推進。年間6万時間分の業務効率化を見込んでいます。

④サントリーの事例からのラーニング

「経費精算」という、まず社内でできることから始める、という点がポイントです。

「契約書」は対外的な相手があることですが、取引先の同意を得る、という課題をクリアしつつ進めるという点も、他社も学ぶところがあるはずです。

「出社を前提とした従来の働き方を、改めて見直す」という点も、業務の「モビリティ」向上を主眼に据えられており、今後のテレワーク推進・継続を期待できそうです。

参考:ワークライフバランスの推進|サントリー
https://www.suntory.co.jp/company/csr/activity/diversity/workplace/

参考:サントリーが押印業務を省略へ|Sankeibiz
https://www.sankeibiz.jp/business/news/200528/bsd2005281810008-n1.htm

(2)東北大学

18,000人以上の学生、6,000人以上の職員を擁する国立大学法人・東北大学。ポストコロナ時代を見据え、社会の「ニューノーマル(新常態)」を先導する学府を目指す、というスローガンを掲げています。

新型コロナウィルス感染拡大防止のため、6月1日時点で「研究は滞在時間の削減を」「授業はオンラインのみ」「事務体制は在宅勤務の推奨」「学内会議は非対面を推奨」といった取り組みを推進。

そんな中、2020年6月1日に「オンライン事務化」という宣言を表明しました。

押印の廃止のほか、学生らの手続き・相談のオンライン化の拡充や、職員の在宅勤務(テレワーク)をより強力に推進する方針を示しています。

①解決すべき課題

東北大は「書面への押印は、テレワークを広げるうえでの阻害要因となっており、すでに廃止する企業もある。」と明言しています。

「脱・はんこ」を推進することは、テレワーク推進に必要不可欠、ひいては、東北大が掲げる「ポストコロナ時代の新常態」のひとつだと位置付けている考え方が伺えます。

②どのようなスキームで導入するのか

学内の各種手続きに必要な押印を廃止し、完全オンライン化に踏み切ります。

押印を廃止するのは、原則として学内の申請や決裁手続きのすべて。電子決裁システムを導入することで業務プロセス全般をオンライン化していきます。この取り組みを段階的に進めて、2020年末までに全面移行を目指します。

また、学生から大学事務局に対しての諸手続きや相談業務もオンライン化していきます。

③期待できる効果

 「100以上の業務で押印が不要となり、年間約8万時間の作業時間の削減を見込む」としています。

④東北大学の事例からのラーニング

東北大では、日本の主要大学の一つとして「脱・ハンコやテレワーク推進はポストコロナ時代の新しい当たり前」という大きなスローガンを掲げているところがポイントの一つではないでしょうか。

先に述べたサントリーのケースでも「テレワーク推進で、ワークライフバランスの実現」「サステナブルな働き方」といったスローガンを大きな枠組みとして表明していました。

このように、大きな組織や企業としてワークスタイルの変革を図る際に、社会全体に発信する「大義名分」があると、時代背景とともに、学外・社外の理解も得やすくなるのではないかと思われます。

参考:東北大、学内手続きの押印廃止へ 年8万時間の作業削減|朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASN5X7WFFN5XUNHB004.html

参考:東北大学オンライン事務化宣言 -New Normal時代でのワークスタイルの変革-
https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2020/05/press20200528-01-online.html

(3)GMOインターネットグループ

インターネットインフラ事業、インターネット広告・メディア事業、インターネット金融事業、仮想通貨事業などを手掛ける「GMOインターネットグループ」。

「印鑑の完全廃止」について、国内企業の中でもいち早く表明しました。

①解決すべき課題

GMOインターネットグループでは、コロナウイルス感染拡大防止の目的で2020年1月27日から在宅勤務体制へ移行していました。

その期間中に、グループ内でアンケートを実施したところ、「捺印手続きのために出社しなければならない事態が多い」ことが判明。

そこで、2020年4月17日にグループ内での印鑑手続きの完全廃止を決定しました。
(※ただし、監督省庁、金融機関への提出書類等において捺印を必要とする場合は除く、としています。)

②どのようなスキームで導入するのか

インフラサービス、銀行サービス、証券サービスすべてにおいて、顧客が各種手続きの際に従来、必要だったはんこを完全撤廃。
取引先企業に対しても、今後、契約書に関してはペーパーレス化とし、印鑑廃止の協力要請をしていきます。

③期待できる効果

「脱・はんこ」「ペーパーレス化」によって、従業員の出社対応の場面をなくしていく、と表明しています。そして、グループを挙げて電子契約の普及・発展を推進していくとも言及しています。実は、GMOインターネットグループでは「電子印鑑ソリューションAgree」というサービスを提供しています。まず自社が「脱・はんこ」「ペーパーレス化」の先駆者となることで、改めて自社サービスの宣伝にも寄与しているのです。

グループ代表・熊谷正寿氏は、自身のTwitterで「グループはんこ廃止」を表明したと同日に、“(引用)この際だからうちの電子契約を無料開放して皆さんに使って頂けば!”ともツイート。 その後、同社では電子印鑑ソリューションAgreeのスタンダードプラン(法的に有効・契約印)を1年間無償で提供しています。

④GMOの事例からのラーニング

GMOインターネットグループのように、「電子印鑑」「電子契約書」といったいわゆるリーガルテックソリューションサービスを提供している会社も、日本国内に増えてきています。

そういった、テクノロジーやITを牽引する事業者が、自ら社内外のワークフローを見直すことをPRし、ひいては自社サービスの認知拡大につなげる、といった点には学ぶ部分も多いのではないでしょうか。

参考・引用:印鑑の完全廃止に関するグループの取り組みと関連リンク集|GMOインターネット
https://www.gmo.jp/denshi-inkan/

まとめ

緊急事態宣言を受け「脱・はんこ」「ペーパーレス化」へ全面移行宣言した企業は、Yahoo!、サイボウズ、U-NEXT、メルカリ、マネーフォワードなどまだまだ多数存在します。

 今回の記事では特に3つの企業・組織について詳しくケーススタディとして見てきましたが、いずれも

・まずは社内から着手する
・(電子決済システムの導入など、)ワークフローを見直す
・段階的に進めて、完全移行時期のゴールを決める
・対外的には、少しずつ理解を求めていく
・新しいワークスタイルについて、社会に受け入れられるような大メッセージを掲げる

といった点が共通していると言えます。

今後の記事では、ワークフロー見直しのためのソリューションなどについても具体的にご紹介していく予定です。

自社の「脱・はんこ」「ペーパーレス化」の参考にしてみてください。

Digital Workstyle College 編集部
この記事を書いた人