デジタルファースト法案(デジタル手続法)は、2019年5月に可決された法案です。
この記事では
といった、デジタルファースト法案(デジタル手続法)の基礎知識から企業への影響についてご紹介しています。
デジタルファースト法案(デジタル手続法)は、正式名称を「情報通信技術の活用による行政手続等に係る関係者の利便性の向上並びに行政運営の簡素化及び効率化を図るための行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律等の一部を改正する法律案」といいます。
通信情報の活用によって、行政手続きの簡素化・効率化を図り利便性を向上させることが目的。
行政のデジタル化に際しての基本原則と行政手続の原則オンライン化のため必要な事項を定めます。
「デジタル化の基本原則」はこちらの3点。
個々の手続きやサービスがオンライン上で完結できるよう優先していく「デジタルファースト」
異なる手続きのたびに、同じ内容を入力しないで済む方法「ワンスオンリー」
複数の行政機関をまたがっていても、一度の申請でOKな「コネクテッドワンストップ」
デジタルファースト法案(デジタル手続法)は、「行政手続きか簡単になるよう、オンライン上で簡単にストレスなく申請できる」という状態を実現するためにに必要な事項等を定めたものです。
参考:
「デジタル手続法案について」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/senmon/dai16/siryou2.pdf
デジタルファースト法案(デジタル手続法)の成立により、関連法として「住民基本台帳法」「公的個人認証法」「マイナンバー法」がそれぞれ、改正されました。
ここからは、各関連法の改正のポイントを解説します。
マイナンバーカード・公的個人認証は、住民票を基礎とした制度です。
住民票とは、国外転出時に消し去られるため、国外転出者はマイナンバーカードや公的個人認証を利用できないという課題がありました。
その一方で、国外に長期滞在する日本国民は増加しているという現状があります。
また、デジタル化の進展により、官民のオンライン手続が多様化しており、国外転出者についてもインターネット上で確実な本人確認を行うニーズが高まっていることから、国外転出者によるマイナンバーカード・公的個人認証の利用関係が改正されました。
この改正により、国外転出後も利用可能な「戸籍の附票」を個人認証の基盤として活用し、
国外転出者によるマイナンバーカード・公的個人認証(電子証明書)の利用が可能になりました。
これにより、国外転出者もマイナポータルの利用が可能になり、年金の現況届等の手続もオンラインでできるように。さらに将来的には在外投票でのインターネット投票を可能に、といったビジョンもあります。
前述したとおり、マイナンバーは住民票情報を基礎として運用されています。その住民票情報は、行政事務の基盤だと言えます。
こうした行政事務の中で、 土地所有問題への対応など、現在の居住関係の公証につながる「過去の居住関係」が公証されることへのニーズが高まっています。
それは例えば、「土地所有者の探索」「休眠預金の活用時の同一人性の証明 」「車の廃車や譲渡時の同一人性の証明」といったことです。
市町村によっては、法令の保存期間を超えて保存し、条例に基づき「写し」の交付を行っている現状がありました。
そうした課題に対応すべく、住民基本台帳法を一部改正し、本人確認情報の長期かつ確実な保存のため、住民票等を消除した後も「除票」として保存されることになりました。
従来は保存期間が「5年間」でしたが、改正後は「150年間」となりました。
現代の日本では、少子高齢化、地方の過疎化が進み、特に地方部においては、所有者不明、あるいは、管理不行き届きで放置された不動産物件が増加していることが問題になっていると言われています。
後継者が居なくなって誰のものかわからないまま放置された「土地問題」や「財産問題」。こうした、現代日本の課題に対応すべく今回の改正がなされたと言えるでしょう。
マイナンバーカードとは、これまでにもe-tax(国税電子申告システム)や、コンビニでの住民票取得などの場面で利用できました。ただ、その利用のたびに自分で設定した4桁の暗証番号を入力しなければ、サービス利用が完了しない、という側面を持っていました。
しかし、昨今のデジタル化に伴い、マイナンバーカードの利用範囲拡大が国のビジョンとして掲げられています。そのためには、暗証番号入力必須に限らず、利用方法の多様化が必要だと考えられています。
例えば、医療機関窓口でマイナンバーカードを健康保険証として活用する施策について、2020年度から本格運用が開始されようとしています。
その際に、たびたび4桁の暗証番号を入力しないと医療が受けられないようでは、あらゆる世代の人にとって円滑な行政サービス体制とは言えません。
そこで、「利用者証明用電子証明書」について、暗証番号入力を要しない利用方法を導入できるよう法改正が行われました。
マイナンバー制度施行後、全国住民に紙製の「マイナンバー通知カード」が送付されました。これを以て国民一人ひとりにマイナンバーを通知し、職場等へのマイナンバー提出時に証明書類として使われてきました。
紙製の「通知カード」には、裏面に変更事項の記載欄があり、転居時等には自治体窓口職員によりこの欄に手書きで記載・捺印を以て変更の証明とされてきました。
しかしこの記載事項変更の手続が、住民及び市町村職員の双方にとって負担になっているという課題が存在しています。
デジタル化推進の観点から、公的個人認証(ICチップ)が搭載されたプラスチック製のマイナンバーカードへの移行を早期に促していくべきとの議論が生まれました。
そこで、このたびの法改正により紙製の「通知カード」と記載事項変更等の手続は廃止し、負担軽減とマイナンバーカード普及を実現する、と定められました。
すでに交付されている紙製の「通知カード」は、その記載事項に変更がない又は正しく変更
手続きがとられている限りは、マイナンバー証明書類として利用する経過措置が現時点では取られています。
この経過措置についてはいつまで有効なのか、国が正式に発表していないため不明です。プラスチック製の「マイナンバーカード」をまだ申請していない人は、早めに申請したほうがよいでしょう。
参考:デジタル手続法案の概要
https://www.cas.go.jp/jp/houan/190315/siryou1.pdf
デジタルファースト法案(デジタル手続法)では、行政のデジタル化推進のためにさまざまな各種施策を講じていきます。
「行政手続の原則オンライン化」の内容は主にこちら。
以前までは国外転出でマイナンバーは失効してしまい、手続きのためには国際郵便を利用せざるを得ない状態でした。
しかしデジタルファースト法案(デジタル手続法)施行によって、オンライン上でマイナンバーを使っての申請が可能となります。
また、マイナンバー制度が拡充することにより個人の識別や認証が簡素に。
たとえば、オンライン手続きによる本人確認や添付書類など、申請時の煩わしい作業が省略されることが期待されています。
必要書類を集めるためにさまざまな窓口をめぐる必要がなくなるだけでなく、行政側の人手不足解消や働き方改革にも繋がるでしょう。
また、マイナンバーカードの「利用者証明用電子証明」の利用に、暗証番号を使用しない方式の採用や通知カードの廃止など、マイナンバーカード取得も促されます。
申請時のみに有効なだけでなくデータに基づいた政策を立案できることにより、多くの人のニーズに応えられるようになります。
必要としている人のもとへ、迅速にサポートが届くことが最大のメリットです。
参考:デジタル手続法案について
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/senmon/dai16/siryou2.pdf
参考:METI Journal
https://meti-journal.jp/p/2843/
デジタルファースト法案(デジタル手続法)が施行されることによって多くのメリットがある一方、懸念点もあります。
日本は高齢化社会で、オンライン上の手続きに対応できないという人も多いです。
また、若い世代もスマホしか使った経験がなく、パソコンを利用しての複雑な申請が難しいケースも。
インターネットを利用できるかできないかの格差は「デジタルデバイド」と呼ばれています。
「申請方法がわからず必要なサポートが受けられない」という人が出てきてしまわぬよう、完全にオンライン申請のみで手続きできる世の中となるには、もう少し時間が必要かもしれません。
参考:METI Journal
https://meti-journal.jp/p/2951-2/
大阪商工会議所が中小企業に対し助成金や補助金の活用状況をアンケートしたところ「利用したことがない」が53.7%となりました。
なぜ活用したことがないのか、理由については「手続き・申請書が煩雑で、自社で対応できない」が一番多く、37.7%の割合を占めています。
こうしたアンケート結果からも、中小企業は必要な助成金や補助金を受け取るための申請すらしていないことが浮き彫りに。
これまでの申請方法は
というステップを踏む必要があり、人手が少ない企業は対応できていませんでした。
行政の担当者や事業者にとって負担で時間がかかっていましたが、デジタルファースト法案(デジタル手続法)によって手続きが簡略化されることにより、申請しやすくなるでしょう。
しかし、懸念もあります。
全国の社長の平均は59.3歳と高齢なため、ITリテラシーの差で公平性が損なわれる可能性も。
中小企業では社長が多くの役割を担うケースが多く、オンライン上での申請も社長が取り扱わなくてはいけない状況になりがちです。
「オンライン上での申請方法がわからないので、助成金や補助金を受け取れなくなってしまった」とならぬよう、行政はデジタル社会に舵を振り切る前に多角的な視点を持ち続ける必要があります。
行政だけでなく、企業側もデジタル化に備えた環境を整えておくことも重要。
行政・事業者がお互いに協力することでデジタルファーストが推進されるでしょう。
参考:METI Journal
https://meti-journal.jp/p/2951-2/
参考:全国社長分析(2017年) 帝国データバンク:
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p170106.html
参考:「中堅・中小企業の経営課題に関するアンケート調査」結果について
http://www.osaka.cci.or.jp/Chousa_Kenkyuu_Iken/Iken_Youbou/300509ank.pdf
デジタル化によってあらゆる面で便利になる一方、オンライン上の手続きに慣れていない人にとっては難易度が高く、申請がしづらくなることも予想されます。
提供側が多くの人が使いやすいユーザー体験を設計することはもちろんのこと、サービスの受益者側がデジタル化に対応できるよう学ぶ姿勢も忘れないすることも必要です。