会社で何らかの行政手続きをしようとするとき、社内で作成した書類を、行政機関に提出するためにわざわざ紙にプリントアウトしたり、書き写したりしていて、「無駄だ」と感じたことはありませんか。あるいは1つの手続きに複数の行政機関が関わっていて、その全てで同じような手続きをしたりしなければならないという経験はないでしょうか。
ほとんどの企業ではペーパーレス化やデジタル化が進んでいるにもかかわらず、社会保険や税など、行政関係の手続きにおけるアナログな仕組みを変革する動きは、一部の申請や届出など行政関係の手続きにおいてITを活用すること、デジタル手続法(デジタルファースト法)の成立・施行をはじめ、さまざまな形で存在しています。しかし、国民の生活の実態や社会の変革のスピードからはまだまだ程遠いのが現状です。
そこで実際にどの部分にデジタル化を必要としているか、国民の声を広く集めようという試みを、2020年9月の菅政権の発足と同時に立ち上がったデジタル庁準備室がはじめました。それが「デジタル改革アイデアボックス」です。
参考記事:デジタルファースト法案(デジタル手続法)とは?メリット・企業への影響
https://digitalworkstylecollege.jp/news/digitalfirst/
「デジタル改革アイデアボックス」は、国が進めていこうとするさまざまなデジタル改革について、Webサイトにアイデア投稿という形で国民から意見を募り、デジタル社会のかたちやデジタル改革の進め方について議論を行なう取り組みです。Webサイト以外にも、FacebookやTwitter、LINEからもユーザー登録可能で、気になった意見を拡散することもできます。
当初、ベータ版をリリースした2020年10月9日からおよそ1ヶ月後の11月6日まで、としていましたが、11月6日に期間限定をなくし、常設するようにしました。ベータ版が運用開始された10月9日から、わずか3日で登録者数が1,000人を突破。2020年11月20日時点でユーザー登録数3,775人、アイデア投稿数3,913件、コメント数11,140件の意見が寄せられています。
これまでパブリックコメントというと、一方通行で自分の意見の採用可否が分からないなど、運用に不明瞭な部分も多く存在していました。デジタル改革アイデアボックスは、そうしたイメージを払拭するように、国民から寄せられた全ての意見を公表しています。
主に以下の4つのカテゴリーに属する方から意見を募集しているほか、「その他」というカテゴリーを設けて、デジタル改革について自由に意見や議論を出せるようにしています。
1.生活者・事業者の声 2,192
2.IT業界の声 573
3.自治体職員の声 289
4.省庁職員の声 117
5.その他 742
それでは実際に、どんなアイデアが投稿されているか見ていきましょう。
国家資格は全てマイナンバーカードに登録可能にしてほしい
マイナンバーカード・マイナンバーの活用は、国民からの声を最も多く集めたアイデアで、他に以下の意見も寄せられました。
・国家資格は全てマイナンバーカードに登録可能に
・マイナンバーカードを使ったオンライン投票により高齢者や身体障害者等への配慮を
・マイナポータルに登録した住所情報を他の手続(役所手続・民間手続)で活用可能に
・国勢調査の直接訪問・調査票投函をやめてマイナンバーを活用した調査を可能に
行政手続きの和暦を廃止して西暦に統一していただきたい
・日本古来の和暦の文化を否定するわけではないが、グローバル化やコスト削減を見据えて、行政手続の和暦を廃止し西暦に統一を
国立デジタル図書館をつくってほしい
・国内全ての公立図書館所蔵本のデジタル化による国立デジタル図書館の創設
選挙のオンライン投票を可能に
・「マイナンバーカード」を使って、ネット投票を
・インターネット投票の実現により、投票所へ出向く手間を省き投票率向上へ
・人だけでなく、政策にもネット投票が可能に
公務員試験の見直し
・公務員試験におけるITスキルを審査する仕組みの構築
CIO制度の義務化と自治体ICT人材の育成
・地方自治体におけるCIOの採用義務化およびICT人材の育成
・IT技術者への報酬中抜きを厳格に制限しIT技術者の給与上昇・人材育成へ
・小学校・学童の連絡ツールや出欠確認をICカードの導入等でデジタル化してコスト削減を
自治体システムの共同利用及びその義務化に関すること
・e-Govとマイナポータルで行える電子申請手続の棲み分けを明確にし、混乱防止を
・国会議員から各省庁への質問通告のFAX廃止・デジタル化による様式統一を
・住民や税金等の管理に関する全国統一システムソフトを作成し各自治体に配布を
PPAP(パスワードつき暗号化zipファイルの、パスワード別送廃止)
・自動的なパスワード付きzipファイル化はセキュリティ上も意味がないので廃止を
オープンデータやAPIの仕様統一
・行政文書のオープンデータ化や国・自治体のAPI公開を行う際の仕様統一を
公文書で利用するワープロソフトの統一
・行政機関の文書ファイルはWordと一太郎(国産のワープロソフト)の混在をやめるべき(国際規格ODF形式に統一を)
上記に加え、以下の意見もユーザーからの多数の支持を集めました。
・医療業務(紹介状、処方箋、カルテ閲覧等)の電子化
・マイナポイントのようにアプリで簡単に車の免許更新を行えるように改革を
・セキュリティ上使用を控えるべきInternet Explorerは、国として非推奨にするべき(既に新しいMicrosoft Edgeがリリースされており、サポートも終了するので)
・小学校・学童の連絡ツールや出欠確認をICカードの導入等でデジタル化してコスト削減を
・省庁の決裁手続における紙とデジタルの併用はコスト増なので全て電子化を
意見にはコメントを返信できる機能や、意見を読んだ人が賛成・中立・反対と気軽に自分の意見を表せる機能がついています。賛成意見にはポイントが付与され、投稿したユーザーはランキング化されます。
デジタル改革アイデアボックスに寄せられた全ての意見は、マインドマップやテキストマイニング、AI(人工知能)の技術のひとつである自然言語処理などを使って整理・分析して見える化。投稿者には後日、オープン対話で詳細にヒアリングを実施することもあるようです。最も賛成を多く得られた意見は、政府会議の取りまとめや政策検討過程に活用されていく予定で、一部はデジタル庁準備室をはじめ関係各所で既に検討が始まっています。
ネット環境の充実、スマートフォンの普及などにより、デジタルは生活の中でも身近な存在になりつつあります。税金の申請も住民票発行の申請も、一部マイナンバーカードを使ってできるようになりました。一方では、キャッシュレス化やペーパーレス化、デジタル化した手続きにも課題を抱えています。
行政サービスや諸手続きは実際に利用している私たち国民の声を取り上げながら、少しずつ改善されていくもの。国民の声をダイレクトに届けられるこの機会に、普段からデジタル化してほしいと考えているアイデアをぜひ投稿してみましょう。