「DX銘柄」って何?攻めのIT経営で得られる真価を理解しよう

昨今、特にコロナ禍以降、ペーパーレス化や非対面の働き方を推進する動きや、デジタルを前提としたビジネスモデルや業務プロセスに変革する「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉をよく耳にするようになりました。民間企業をはじめ、政府機関においても「DX」への取り組みがかつてないスピードで進んでいる状況です。

デジタル技術を前提としたビジネスモデル・経営変革に対して強力に取り組む上場企業について、経済産業省と東京証券取引所が評価する「DX銘柄」という制度があることをご存知ですか?

この記事では、「DX銘柄」の選定プロセスや、実際に選ばれた企業がどんな取り組みを評価されているのか、事例も交えてお伝えします。

1.DX銘柄とは?

「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」とは、経済産業省と東京証券取引所と共同で選定しているもの。東京証券取引所に上場している企業の中から選ばれます。

ビジネス環境の激しい変化が巻き起こっている昨今。「DX銘柄」には、そのような状況下においても、データとデジタル技術を駆使し、製品やサービス、ビジネスモデルの変革を強力に推し進め、成功を果たしている企業が選ばれます。

DX推進で企業価値を向上させ、競争上の優位性を確立し、コロナ禍においてもデジタル技術を最大限に活用した活躍が今後も期待される企業だと客観的に評価を受ける、ということを意味します。

日本では、ビジネスや行政サービスのデジタル化・ペーパーレス化が欧米諸国と比較して遅れているとも言われています。それが昨今のコロナ禍で、急速に「DX」という言葉が注目されるようになり、「DX」の取り組みを強力に推し進めている企業は「先進的」と見なされるようになっています。

そんな中で「DX銘柄」に選出されれば、投資家からの注目もより一層、集まることになります。

しかし、この「DX銘柄」選出制度の意義は、それだけではありません。

「DX」を一過性のブームや、部分的な業務のデジタル移行に終わらせることなく、「DX」とは長期的に企業価値を向上させ、競争力を強化させる仕組みであるということを企業経営者に理解してもらうためにも、このような「DX銘柄選出」の取り組みが行われているのです。

参考:
・「DX銘柄2020」「DX注目企業2020」を選定しました|経済産業省
https://www.meti.go.jp/press/2020/08/20200825001/20200825001.html

・DXをブームで終わらせないためには?「DX銘柄2020」選定委員長が経営者に直言|日経XTECH
https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/00677/090800060/

2.DX銘柄が選ばれるプロセス

ではこの「DX銘柄」とは、具体的にどのようなプロセスを経て選出されるのでしょうか。

①対象となる企業

東京証券取引所の国内上場会社(一部、二部、マザーズ、JASDAQ)約3,700社を対象としています。

(過去に「攻めのIT経営銘柄」・「IT経営注目企業」に選定された企業も対象となります。)

これら上場会社約3,700社を対象に「デジタルトランスフォーメーション調査2020」を実施。うち、エントリーした企業535社が選定対象とされました(※2020年)。

② 一次評価:「選択式項目」及び財務指標によるスコアリング

エントリー企業から提出されたアンケート調査、および3年平均のROE(自己資本利益率)に基づき、「DX銘柄評価委員会」においてスコアリングを実施し、一定基準以上の企業を、候補企業として選定します。

③ 二次評価及び最終選考

一次評価で選定された候補企業について、エントリー企業から提出されたアンケート調査の回答を「DX銘柄評価委員会」が評価を実施します。ここでは、「経営ビジョンにおけるDXの位置づけ」「DXの取組(ビジネス・業務の変革)」「DX推進に関連する取組」を評価。

その結果を基に、「DX銘柄評価委員会」による最終審査を実施します。

そして、業種ごとに優れた企業を「DX銘柄2020」として選定しています。

また、DXの裾野を広げていく観点で、「DX銘柄2020」の選考から漏れた企業の中か

ら、総合評価が高かった企業、注目されるべき取組を実施している企業について、DX銘

柄評価委員会の審査により「DX注目企業2020」も選出しています。

さらに、企業の競争力強化に資するDXの推進を強く後押しするため、「DX銘柄2020」

選定企業の中から、業種の枠を超えて、「デジタル時代を先導する企業」と評価された会社は、「DXグランプリ2020」として選定されます。

参考:デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2020|経済産業省 東京証券取引所
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/keiei_meigara/report2020.pdf

3.DXグランプリ事例紹介

ここからは、前述の評価により「DXグランプリ」に選ばれた企業の具体的な取り組みををご紹介します。

①DXグランプリ2020 株式会社小松製作所(機械/6301)

油圧ショベルやブルドーザーなどの建設・鉱山機械、フォークリフト、産業機械などに関する事業をグローバルに展開する総合機械メーカーである「株式会社小松製作所」。

モノ(機械の自動化・自律化)とコト(施工オペレーションの最適化)で、施工のデジタルトランスフォーメーションを起こし、安全で生産性の高い、スマートでクリーンな現場を顧客と共に実現していく、という中期経営ビジョンを掲げています。

2020年4月より、新たに4つのIoTデバイスと、8つのアプリケーションを導入した「デジタルトランスフォーメーション・スマートコンストラクション」の国内導入を開始。

従来より取り組んできた、建設生産プロセスの部分的な「縦のデジタル化」だけでなく、施工の全工程をデジタルでつなぐ「横のデジタル化」を進めることで、現場の課題に対する最適なソリューションを提供しています。

建設現場で直面している深刻な労働力不足の課題を解決し、安全で生産性の高い、スマートでクリーンな現場を顧客と共に創造する、この「スマートコンストラクション」というソリューションを提供している点などが評価されました。

②DXグランプリ2020 トラスコ中山株式会社(卸売業/9830)

モノづくりの現場を支えるプロツールの専門商社である「トラスコ中山株式会社」。40万点の在庫、工具1点から即日配送できる独自のモデルを構築しています。

2020年1月に基幹システムを刷新。企業経営においてITを活用しDXを図り、社内の業務改革はもちろんのこと、「問屋」としてサプライチェーン全体の商習慣を変えて利便性を高め日本のモノづくりに貢献していく、と位置づけた点が評価されました。

得意先、仕入先とのデータ連携手段を多種多様な形で用意。同社の機能(在庫・物流・システム・データ)をプラットフォームとして顧客が利用できる環境を整備し高度化しています。

また、製造現場へ資材を調達する場面で、ITやデータを駆使することで販売店も、現場も「待ち時間ゼロ」になる「MROストッカー」という新規ビジネスを創出。

工場や建設現場などのプロツール使用現場に隣接して設置し、トラスコ中山の資産として、現場でよく使用される間接材を棚に取り揃えます。

旧来から日本に存在する「置き薬」の仕組みを、最新のIT技術と高度なデータ分析を利用することで、先回りしてユーザーの手元に必要になるプロツールを在庫化し、必要なときに必要な分だけ商品を利用することが可能、という仕組みです。

さらにコロナ禍においては、営業スタイルを変革させる取り組みを導入。同社独自の会話アプリ「T-Rate」とオンライン通話アプリを組み合わせたサービス「TRUSCOいつでもつながる『フェイスフォン』」の投入を開始しました。

また、2020年1月にリリースしたAI見積「即答名人」では、今まで社員が事務所で行っていた業務が自動化され、社員がより在宅勤務をしやすい環境の構築と、顧客への回答スピー

ド向上を実現しました。

③DXグランプリ2019 ANAホールディングス株式会社(空運業/9202)

空輸業の「ANAホールディングス株式会社」は、空港のスマート化、デジタルサービスプラットフォーム、全社イノベーションへの取組が本格的かつ、画期的である点が高く評価されました。

一般顧客・社会、従業員に優しい空港の実現に向け、新技術を駆使し、産学官が連携した実証実験を通して、オープンイノベーションを進めています。

一般顧客との接点となる空港ターミナル内では、顔認証を利用したスマート搭乗モデルや、画像認識を活用した保安検査場の待ち時間予測による、顧客体験価値の向上を目指しています。

従業員がオペレーションを行う空港駐機エリアやバックヤードでは、空港内車両の自動化、リモコン式牽引車、ロボットによる手荷物業務の省力化等、新技術を駆使した革新的な生産性向上に取り組んでいます。

九州佐賀国際空港を総合的実証実験空港に設定し、「人と技術の融合・役割分担の見直し」によるシンプルでスマートな空港の実現に向けて取り組みを進めています。

また、顧客情報を一元管理する情報基盤を全社横断で構築。散在していた基幹システムのデータを統合化し、顧客情報の一元管理やカルテ化を実現しています。

この基盤を活用して、全ての顧客接点におけるパーソナライズ化されたスマートで快適なサービスを創出していくことを目指しています。

リアルのサービス力とデジタルの革新力の相乗効果により他社を凌駕し、顧客の期待を超えたサービスの実現を目指し、持続的な5スターエアラインとしての地位を確立していく、というビジョンを掲げています。

参考:デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)2020|経済産業省 東京証券取引所
https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/keiei_meigara/report2020.pdf

参考:攻めのIT経営銘柄2019|経済産業省 東京証券取引所
https://www.meti.go.jp/press/2019/04/20190423004/20190423004-3.pdf

4.企業経営における「DX」の真価とは?

「DX」というと、特に現在の日本では「ペーパーレス化」「ハンコ廃止」「非対面化」といった論点が議論の中心になりがちです。

しかし、「DXグランプリ」の事例でお伝えしたように、DXが企業にもたらす真価とは「リアルのサービス力と、ITの革新力により、新たな顧客体験・企業価値を創造し、持続的な企業発展に繋げる」といったところにあります。

今後の自社経営における「DX」の位置づけについて、改めて参考にしてみてください。

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