脱・はんこ文化。「eシール」国が検討開始

 新型コロナウイルス感染が広がる中、テレワーク推進に高い注目が集まっています。

ところが、その中でネックになっているのが「はんこ文化」。「請求書にはんこ1つ押すためだけに出社しなければならない」といった事態も発生しており、このままではテレワーク定着に繋がらない、という課題も浮上しています。

そこで政府では「eシール」導入の議論に着手する、と伝えられています。

「eシール」とは、一体どんなものなのでしょうか。今回は、その活用シーン、メリットなどについてお伝えします。

社印の代替、よりセキュアに運用できる「eシール」

画像:「 組織が発行するデータの信頼性を確保する制度(eシール)の検討の方向性について」元に作成
https://www.soumu.go.jp/main_content/000683651.pdf

「eシール」とは、いわば電子版の社印、といったところです。従来の「はんこ文化」に沿って言うと、紙の請求書や領収書を発行する際に、社印を押すことが必須でした。これにより、会社が正式に発行した文書だという証拠になります。

今後、「eシール」を導入すれば、社印の代替となります。請求書や領収書といった経理文書のデジタルデータに「eシール」を付与すれば良いのです。一方、電子契約書に付与する「電子署名」というものがあります。こちらとの違いは何でしょうか?「電子署名」は、既に導入している企業もあることでしょう。これは、「人(個人)」の正当性を証明するものです。例えば「代表取締役」という「人」を証明する際に使用できます。

参考記事:社内のペーパーレス化に寄与する「電子署名」
https://digitalworkstylecollege.jp/explanation/electronic-signature/

一方、「eシール」は「組織」の正当性を証明するもの。会社で請求書や領収書を毎月大量に発行する際に、一つ一つ代表取締役の電子署名を入れることはまずありませんよね。「電子署名」と「eシール」はこのように役割、利用シーンが異なるものなのです。

そして、デジタルデータを生成した組織の「本人確認」が正当に証明されており、データ改ざん防止にもつながる「トラストサービス」という仕組みの一種です。

「トラストサービス」とは、電子データの作成者、および、その電子データが改ざんされていないことを保証する仕組みのことです。

また、従来から「電子印鑑(デジタル印鑑)」というツールもあります。PDFファイル等のデジタル文書にPC上で押印する、という手法で導入している企業もあることでしょう。しかし、この「デジタル印鑑」では「誰が押したか」を証明する裏付けはありません。例えば社内で、他の誰かが自分のPCを立ち上げたら押印できてしまう、というセキュリティ面でのデメリットがあります。自分ではんこを持ち歩くことと比較しても、セキリティ面で「抜け穴」があるツールです。

「eシール」が「電子印鑑」と決定的に違う点は、発行元が真正なものだと担保できる「トラストサービスである」という点だと言えるでしょう。

EUでは「eシール」でヘルスケアサービスも充実                         

日本ではこれからこれから議論が始まる「eシール」。一方、IT化が進んでいるEU諸国等では金融・ヘルスケアサービスの中にまで活用が浸透しています。

例えばユーザーが、とある電子マネー事業者に、銀行口座を紐づけて決済を指示する場合。電子マネー事業者は銀行に対し、「eシール」を以て、組織の信頼性を証明する仕組みになっています。

また、エストニアやフィンランド、キルギスタンでは官民情報連携基盤「X-Road」というシステムが利用されています。このシステムにアクセスできる組織数は民間組織412社、公的機関258機関にも上ります。ここで住民登録、健康保険、金融関連情報といった機密性の高いデータを共有し合っています。「X-Road」サーバーへアクセスする組織には「eシール」を付与することで、そこでやりとりされる情報の真正性を担保しているのです。

「X-Road」システムでは「電子処方箋サービス」も提供しています。病院・薬局等がこのシステムを介して患者の診療情報を共有し、患者に対し薬の処方をできるわけです。ここでも役立っているのが「eシール」です。「eシール」によって、システムにアクセスした病院・薬局の信頼性が担保されているため、患者は安心して薬の処方を受けられます。しかも、患者は「国民ID」を薬局に提示するだけで薬を受け取ることが出来るのです。

煩雑な郵送処理を丸ごとカットできる期待も

今、日本でも電子マネー決済やオンライン診療が広がりつつあります。今後日本でも「eシール」が導入され、かつ、EUのようなデータ共有システムの利用が進めば、日常生活のさまざまな場面でもっとペーパーレス、そしてオンライン完結になっていくことを期待できそうです。

新型コロナウイルスの影響下でソーシャルディスタンスが必要な今、まさに求められていることだと言えるでしょう。また、アフターコロナの世界であっても、リモートワークが今以上に定着した将来や、出張先で会社書類の処理をしなければならない場面でも、利便性を発揮してくれそうです。

企業活動や日常生活のあらゆる面でペーパーレス化が進めば、紙の書類にはんこを押して、郵便で送るという一連のプロセスを丸ごとカットすることも可能です。今まで紙類にかかっていたコスト、印紙・切手類のコストカットもできます。社内業務や企業間取引、さらにはBtoCの取引の業務効率化につながり、生産性向上が期待できます。

領収書・請求書といった経理書類などは大きな企業であればあるほど、毎月大量に発生し、かつ、企業間で迅速かつ安全な受け渡しが求められます。

 「eシール」を導入できれば、紙にはんこを押すよりも「いつ、誰が押したか」ということをより確実に、かつ簡便に証明できるようになり、企業間の電子取引がよりセキュアなものになっていきます。

また、「トラストサービス」には、人の正当性を証明する「電子署名」、そして、データの存在証明・ 非改ざんの保証をする「タイムスタンプ」という仕組みもあります。こうした既存の「トラストサービス」と「eシール」を組み合わせることで、新たなサービスの出現も期待できるかもしれません。例えば、「電子書留」(ペーパーレスの書留。受け取り証明が必要な文書のやりとりをペーパーレスで行う)といったサービスなどが想定できます。

待たれる公的な認証制度の整備

日本では、総務省が「今後検討を進める」と発表したばかりの「eシール」。運用開始までには、まだ解決すべき課題が幾つか存在します。

 先に述べたように、「eシール」は、法人格の「本人確認」を実施してから使用することが前提です。しかしこの「本人確認」のプロセスについて、行政サイドで整備が無く、民間企業・団体の基準や認定制度しか存在しない場合には、安全に運用する観点で懸念を抱く企業も出てくることでしょう。そうなると普及が難しいため、やはり公的な認証制度の整備が待たれます。

 た、導入するに当たってコストや手間はどれぐらいかかるものなのか、といったことも疑問視されています。簡便に導入・運用するためにはどうすれば良いのか、という観点での検討も必要でしょう。

 令和2年4月20日に、総務省の サイバーセキュリティ統括官室が

具体的な認定スキームについて検討会を設置し検討

引用:組織が発行するデータの信頼性を確保する制度(eシール) の検討の方向性について令和2年4月20日 サイバーセキュリティ統括官室
https://www.soumu.go.jp/main_content/000683651.pdf

と発表したばかりの「eシール」。「eシール」によってオンライン化、非対面化を進めることは、新型コロナウイルスの影響で「ソーシャルディスタンス」が叫ばれる世の中にまさに必要なスキームだと言えるでしょう。運用に向けて整備が進めば、今後の企業活動、そしてBtoC取引にも大きく恩恵をもたらしてくれそうです。

参考:
・「はんこ文化」見直し本腰 仕事を電子化、テレワーク推進 政府
https://www.nippon.com/ja/news/yjj2020042000813/

・組織が発行するデータの信頼性を確保する制度(eシール) の検討の方向性について
令和2年4月20日 サイバーセキュリティ統括官室
https://www.soumu.go.jp/main_content/000683651.pdf

・eシール及びeデリバリーについて
https://www.soumu.go.jp/main_content/000607660.pdf

・無料の電子印鑑(デジタル印鑑)ツール4選との作り方を解説
https://ferret-plus.com/5866

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