新たに人を雇い入れる時、雇用契約書は必要?その理由と作成上の留意点を解説

昨今、正社員、契約社員、パート・アルバイトに加え「フリーランスの業務委託」など、従来に比べて多種多様な働き方をする人が数多く見られるようになってきました。

その分、人事労務業務も複雑になり、雇用契約(労働契約)を締結する際に、「こういうケースではどう対応したらいいのか?」など、判断に迷う場面も増えてきているのではないでしょうか?

そこで今回の記事では、特に人事、労務、法務に関わるビジネスパーソンに向けて、新規で人を雇い入れる際の「雇用契約書」の締結についてその必要性の背景や、明記すべき事項などを解説します。

1.雇用契約書とは?

「雇用契約書」とは、新たに人を雇い入れ、雇用契約を締結する際に作成する文書です。
事業主と労働者の間で、労働条件に合意したうえで、雇用契約を締結します。
「雇用契約」は「労働契約」とも言いますが、厳密には「似て非なるもの」とも言えます。
その理由は、「雇用契約」とは民法上の概念、それに対し「労働契約」とは労働法上の概念だからです。
「雇用契約」は、労働者が「労働に従事」し、使用者が「これに対してその報酬を支払う」契約を言います。
これに対して「労働契約」は、労働者が「使用されて労働し」、使用者が「これに対して賃金を支払う」契約のことを指します。

参考:人を雇う時はどんな手続きが必要?雇用の手続き方法を解説
https://digitalworkstylecollege.jp/news/employment-procedures/

雇用契約と労働契約|日本労働研究雑誌
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2015/04/pdf/074-075.pdf

2.雇用契約書が必要な理由

法律上は、労働条件通知書が交付されていれば、雇用契約を締結するにあたって「雇用契約書」を取り交わさなくても問題ないとされています。

しかし、昨今のコンプライアンス意識の高まりからも、書面で雇用契約への合意を確認できる「雇用契約書」を作成するのがおすすめです。

特に最近では、事業主に使用される「正社員」「契約社員」「パート・アルバイト」といった働き方に加え、「フリーランスの業務委託」「自営型テレワーカー」のような働き方をする人も増えてきています。

会社に使用されている立場ではないが、労働に従事し、対価を支払われている働き方。これがまさに前述した、「労働者が『労働に従事』し、使用者が『これに対してその報酬を支払う』=『雇用契約』」に当てはまります。

こういった観点からも、新規に人を雇い入れる際にはその雇用形態に依らず、事業主とフリーランサー間のトラブルを未然に防止する目的も視野に入れて「雇用契約書」を締結したほうが良いと言えるでしょう。

参考:人を雇う時はどんな手続きが必要?雇用の手続き方法を解説
https://digitalworkstylecollege.jp/news/employment-procedures/

3.雇用契約書作成の注意点

前述したように「雇用契約」と「労働契約」は厳密には似て非なるものですが、「雇用契約書」作成の際には、以下に述べる「労働契約の基本原則」を押さえておけば問題ないと言えます。

(1)労働契約の基本原則

労働契約の締結や変更は、以下の原則に基づいて行うことが必要であると、「労働契約法」により定められています。

①労使の対等の立場によること
②就業の実態に応じて、均衡を考慮すること
③仕事と生活の調和に配慮すること
④信義に従い誠実に行動しなければならず、権利を濫用してはならないこと

労働契約(契約の締結、労働条件の変更、解雇等)|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/index.html

(2)「雇用契約書(労働契約書)」に明記すべき事項

①労働条件の明示等

・契約はいつまでか
・期間の定めがある契約の更新についての決まり(更新があるかどうか、更新する場合の判断のしかたなど)
※契約期間に定めのある労働契約(有期労働契約)の期間は、原則として上限は3年です。なお、専門的な知識等を有する労働者、満60歳以上の労働者との労働契約については、上限が5年とされています。

また使用者は、有期労働契約によって労働者を雇い入れる場合は、その目的に照らして、契約期間を必要以上に細切れにしないよう配慮しなければなりません。(※労働契約法の定めによる)

・どこでどんな仕事をするのか(仕事をする場所、仕事の内容)
・仕事の時間や休みはどうなっているのか(仕事の始めと終わりの時刻、残業の有無、休憩時間、休日・休暇、就業時転換〔交替制〕勤務のローテーションなど)
・賃金をどのように支払うのか(賃金の決定、計算と支払いの方法、締切りと支払いの時期)
・辞めるときのきまり(退職に関すること(解雇の事由を含む))

※以下、パートタイム労働者の場合

・昇給について
・退職手当について
・賞与の有無

も明示する必要あり

②就業規則

労働者と使用者が労働契約を結ぶ場合に、使用者が、合理的な内容の就業規則を労働者に周知させていた場合には、就業規則で定める労働条件が労働者の労働条件になります。

(※労働契約法の定めによる)

③雇用契約と就業規則の内容が異なる場合

雇用契約で明示される労働条件については、会社の就業規則の内容と同じになるのが通常ですが、往々にしてその内容が異なることがあります。

就業規則には定めていない細則や、その労働者に対して別の条件を提示している場合などです。

労働法は労働者を保護するルールに則って作成されていることから、仮に就業規則と雇用契約の内容が異なる場合は、「労働者にとって有利なルールが優先される」ということを念頭において、雇用時の労働条件を作成する必要があります。

(就業規則違反の労働契約)
第十二条 就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。

労働契約法第12条
https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=419AC0000000128#39

この時、雇用契約書のうち「就業規則よりも不利な部分」が無効となるのであって、雇用契約書のすべてが無効となるわけではありません。

逆に雇用契約書の方が就業規則より有利な場合はそちらが優先されます。

参考:人を雇う時はどんな手続きが必要?雇用の手続き方法を解説
https://digitalworkstylecollege.jp/news/employment-procedures/

④労働保険

・雇用保険
事業所規模にかかわらず、①1週間の所定労働時間が20時間以上で②31日以上の雇用見込がある人を雇い入れた場合は適用対象となります。

・労災保険
パートやアルバイトも含むすべての労働者が対象です。

・労働保険料について
労働保険料(雇用保険・労災保険の保険料)の詳細について、労働者に対し明示が必要です。

⑤社会保険

・健康保険
・国、地方公共団体または法人の事業所

あるいは

・一定の業種(製造業、土木建築業、鉱業、電気ガス事業、運送業、清掃業、物品販売業、金融保険業、保管賃貸業、媒介周旋業、集金案内広告工業、教育研究調査業、医療保険業、通信法同業など)

で常時5人以上を雇用する事業所で働く労働者は加入者となります。

パート、アルバイトでも、1日または1週間の労働時間および1ヶ月の所定労働日数が、通常の労働者の分の4分の3以上あれば加入させる必要があります。

・厚生年金
健康保険と同様に、パート、アルバイトでも、1日または1週間の労働時間および1か月の所定労働日数が、通常の労働者の4分の3以上あれば加入させる必要があります。

・社会保険料について
これらの保険料の詳細について、労働者に対し明示が必要です。

⑥署名捺印欄

「雇用契約書」には、「署名捺印」欄を設ける必要があります。

部数や控えについて特に取り決めはありませんが、事業主と労働者で2通作成し、それぞれ1通ずつ保持するのが、契約における双方の合意を確認するためには望ましいでしょう。

(3)雇用契約(労働契約)変更の際に留意すべき点

労働者と使用者が合意をすれば、労働契約を変更できます。
合意による変更の場合でも、就業規則に定める労働条件よりも下回ることはできません。
使用者が一方的に就業規則を変更しても、労働者の不利益に労働条件を変更することはできません。
なお、就業規則によって労働条件を変更する場合には、「内容が合理的であること」および「労働者に周知させること」が必要です。(※労働契約法の定めによる)

参考:労働契約(契約の締結、労働条件の変更、解雇等) |厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/index.html

参考:人を雇う時のルール|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/chushoukigyou/koyou_rule.html#koyou_rule1

(4)さまざまな雇用形態に留意

①派遣労働者

労働者派遣は、労働者に賃金を支払う「人材派遣会社」と、日々の業務に関して指揮命令をする「現場の会社」が異なる複雑な労働形態となっているため、「労働者派遣法」で派遣労働者のための細かいルールが定められています。

法律上の「雇い主」はあくまで「人材派遣会社」です。万が一、事故・トラブルが起きた際は、まず「人材派遣会社」が責任を持って対処する必要があります。

しかし、実際に指揮命令をしている派遣先は全く責任を負わないというのは妥当ではなく、「労働者派遣法」において派遣元・派遣先双方が責任を分担するべき事項が定められています。

②契約社員(有期労働契約)

契約社員は、正社員と違い、労働契約(雇用契約)にあらかじめ雇用期間が定められている場合があります。

このような期間の定めのある労働契約(雇用契約)は、労使間の合意により契約期間を定めたものであり、期間満了によって労働契約(雇用契約)は自動的に終了することとなります。

1回当たりの契約期間の上限は原則として「3年」です。

③パートタイム労働者

パートタイム労働者とは、1週間の所定労働時間が、同じ事業所に雇用されている正社員と比べて短い労働者を言います(「短時間労働者」とも言う)。「パートタイマー」や「アルバイト」など、呼び方は異なっても、この条件を満たせば「パートタイム労働法」上の「パートタイム労働者(短時間労働者)」となります。

パートタイム労働者を雇用する使用者は、パートタイム労働法に基づき、公正な待遇の確保や正社員への転換などに取り組むことが義務付けられています。

また、労働者を雇い入れる際、使用者は、労働条件の明示など特に重要な条件については文書を交付することが義務付けられていますが、パートタイム労働法では、前述した6点に加え、「昇給」「退職手当」「賞与の有無」についても明示が義務付けられています。

④短時間正社員

短時間正社員とは、フルタイムの正社員と比べて、その所定労働時間(所定労働日数)が短い正社員で、次のどちらにもあてはまる労働者をいいます。

・期間の定めのない労働契約を結んでいる
・時間あたりの基本給および賞与・退職金などの算定方法などが同じ事業所に雇用される同種のフルタイムの正社員と同等である。

⑤業務委託(請負)契約を結んで働く人

前述した「正社員」や、「派遣労働者」「契約社員」「パートタイム労働者」「短時間正社員」は、「労働者」として、労働法の保護を受けることができます。

一方、「業務委託」や「請負」といった形態で働く場合には、注文主から受けた仕事の完成に対して報酬が支払われるので、注文主の指揮命令を受けない「個人事業主(フリーランス)」として扱われ、基本的には「労働者」としての保護を受けることはできません。

ただし、「業務委託」や「請負」といった契約をしていても、その働き方の実態から「労働者」であると判断されれば、労働法規の保護の対象となる場合があります。

⑥家内労働者

「家内労働者」とは、いわゆる「内職」に相当し、委託を受けて、物品の製造や加工などを個人で行う人をいいます。

立場上、「個人事業主」として扱われますが、委託者との関係が労使関係に似ていることから「家内労働法」が定められています。

「家内労働者」に仕事を委託する場合には、「家内労働手帳」の交付や最低工賃の順守など、家内労働法に基づいた対応が必要です。

⑦自営型テレワーカー

「自営型テレワーカー」とは、注文者から委託を受け、パソコンなどを活用してリモートワークで成果物の作成や役務の提供を行う人を言います。(法人形態で行っていて、他人を使用している場合などを除きます。)

「自営型テレワーカー」に仕事を注文する会社や、仲介事業を行う会社は、「自営型テレワークの適正な実施のためのガイドライン」を踏まえた対応が必要です。

参考:さまざまな雇用形態|厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/chushoukigyou/koyoukeitai.html

4.雇用契約書の締結方法

(1)締結

「雇用契約書(労働契約書)」は、以下のいずれかの方法で、労働者を雇い入れる場合に労働条件を明示して取り交わします。

・「労働条件通知書」と「雇用契約書」を一緒の文書にする
・「労働条件通知書」と別にして「雇用契約書」単独で文書を作成する

明示の方法は、原則として書面の交付によります。

しかし、労働者が希望した場合は、FAXや電子メール、SNSメッセージ機能等による通知も可能です。ただし、出力して書面を作成できるものに限られます。

参考:厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken01/

(2)労働契約の禁止事項

労働契約を締結した後、労働者が会社側に不当に拘束されることがないよう、「労働契約の禁止事項」も労働法において定められています。

①労働者が労働契約に違反した場合に違約金を支払わせることや、その額をあらかじめ決めておくこと(労働基準法第16条)

②労働することを条件として労働者にお金を前貸しし、毎月の給料から一方的に天引きする形で返済させること(労働基準法第17条)

③労働者に強制的に会社にお金を積み立てさせること(労働基準法第18条)

(3)採用内定について

採用内定により「労働契約」が成立したと認められる場合には、「採用内定取消し=解雇」に当たるとされています。

客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上認められない場合は、「採用内定取消し」は無効です(労働契約法第16条)。

※内定取消しが認められる場合

通常の解雇と同様、労働基準法第20条(解雇の予告)、第22条(退職時等の証明)などの規定が適用されます。よって、会社側は「解雇予告」をはじめとした解雇手続きを適正に行う必要があります。

参考:人を雇う時のルール|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/chushoukigyou/koyou_rule.html#koyou_rule1

5.「雇用契約(労働契約)」は、「労働者の不利益や、不当な拘束に当たらない」ことが大前提

労働法規では、「労働契約によって、労働者に不利益がもたらされたり、不当な拘束になってはならない」ということが大前提として定められています。

自社で新規に人を雇い入れ、「雇用契約書(労働契約書)」を作成する際には、まずはこの大前提を理解しておく必要があります。

会社本位の目線だけではなく、労働者本位の目線も考慮し、「対等な」雇用関係締結に進めることが肝要です。

Digital Workstyle College 編集部
この記事を書いた人