毎年、12月が近づくと各企業で手続きが進められる「年末調整」。たくさんの紙の書類を処理しなければならず、一人ひとりの従業員にとって、そして、総務・経理担当部署にとっても、大きな負担になっているのではないでしょうか。
実は、令和2年分の年末調整手続きから、電子化対応となることをご存じですか?
今回の記事では、企業の総務・経理担当者や、企業に勤めるビジネスパーソンに向けて、年末調整電子化の背景やメリット、手続きの流れがどう変わるかなどの概要をお伝えします。
そもそも、なぜ令和2年分の年末調整手続きから電子化に踏み切ることになったのでしょうか?
その理由は、平成30年度の税制改正にあります。
この中で、令和2年分の年末調整から、生命保険料控除、地震保険料控除及び住宅借入金等特別控除に係る控除証明書などについて、勤務先へ電子データで提供できるようになりました。
控除証明書のペーパーレス化が実現したのに、従業員一人ひとりが行う年末調整手続きそのものがペーパーレス対応していなければ、手続きの煩雑さは従来と変わらず、メリットがありません。
そこで、一連の控除証明書などの電子化移行に伴い、年末調整手続そのものの電子化に踏み切ることになったのです。
次の図表は、年末調整電子化対応により、従来と比較して手続きの流れがどう変わるのかを示したものです。
手順 | 従来 | 年末調整電子化対応後 |
① | 【従業員】保険会社などから控除証明書などを書面(ハガキなど)で受領 | 【従業員】保険会社などから控除証明書などを電子データで受領 |
② | 【従業員】保険料控除申告書又は住宅ローン控除申告書に、①で受領した書面(ハガキなど)に記載された内容を転記の上、控除額を計算し記入 | 【従業員】国税庁ホームページなどからダウンロードした年末調整控除申告書作成用ソフトウェアに、住所・氏名等の基礎項目を入力し、①で受領した電子データをインポート(自動入力、控除額の自動計算)して年末調整申告書の電子データを作成 |
③ | 【従業員】保険料控除申告書及び住宅ローン控除申告書など、年末調整の際に作成する各種申告書(以下「年末調整申告書」といいます。)を作成し、控除証明書等とともに勤務先に提出 | 【従業員】②の年末調整申告書データと①の控除証明書などのデータを勤務先に提供 |
④ | 【勤務先】従業員より提出された年末調整申告書に記載された控除額の検算、控除証明書などの確認を行った上で、年税額を計算 | 【勤務先】③で従業員より提供された電子データを給与システムなどにインポートして年税額を計算 |
従来どおり、手続きそのものに4つのステップがあることは変わりません。
しかし、ペーパーレス化によって控除証明書など、紙の証憑をたくさん取り扱う負担がまるごとカットされます。
さらに、電子化対応によりソフトウェアにデータをインポートすればあとは自動で計算してくれるので、従来の難解かつ複雑な税額の手計算の負担がなくなります。
電子化対応に向けては、従業員側では、年末調整手続き専用のソフトウェアを手元に用意し、そして、会社側では給与システムの整備が必要になる、という多少の手間は発生します。
しかし、従来は毎年決まって、従業員そして総務経理担当者双方に多大な時間がかかっていた税額計算の負担はなくなるのです。それを踏まえると、長期的に見れば大幅な効率化が進むと言えるでしょう。
画像:令和2年分からの年末調整手続の電子化について ~スケジュール編~ |国税庁を元に作成
https://www.nta.go.jp/users/gensen/nenmatsu/pdf/0020005-071_01.pdf
まずは、従業員一人ひとりが年末調整電子化に対応したソフトウェアで作成した年末調整申告書データを作成します。ソフトウェアを活用することで必須項目をフォーマットに沿って入力していきますので、申告書への記載誤りなどが減少し、総務・経理部署への社内問合せも減少が期待できます。
このデータを総務・経理部署に連携することで、従来は多大な時間がかかっていた控除額の検算が不要になります。
また、ペーパーレス化された控除証明書などのデータを利用しますから、従来は大量に発生していた、添付書類などの確認に要する事務作業が削減されます。書面による年末調整の場合の書類保管コストやスペースも削減することができます。
これまでの手書きによる手続き(年末調整申告書の記入、控除額の計算など)を省略できます。複雑な税額の計算は、専用ソフトウェアで自動化。年末調整申告書の作成が簡単かつスピーディーになります。
また、保険会社などから紙で受け取っていた控除証明書を紛失してしまった場合には、再発行を依頼しなければなりませんでしたが、その手間も不要になります。
さらに、各人がマイナンバーカードを活用して「マイナポータル連携」を利用すれば、複数の控除証明書等を一度の処理で取得することができて、申告書作成のための準備がもっと簡単になります。
参考:マイナポータルを活用した年末調整及び所得税確定申告の簡便化|国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/mynumberinfo/mynapo.htm
自社で年末調整の電子化に対応するためには、会社側、そして従業員側でいくつかの準備が必要です。
・従業員が使用する年末調整申告書作成用のソフトウェアについて、どれを使用するか?
・電子化後の年末調整手続の事務手順をどうするか?
をまずは検討しましょう。
従業員が作成する年末調整申告書データは、国税庁から提供される「年調ソフト」だけでなく、民間のソフトウェアの中にも対応している製品があります。
従業員から年末調整申告書を電子データとして提供を受けるに当たり、法令上は事前に従業員から同意を得る必要はありません。
しかし、自社内で電子化に踏み切るためには、従業員側も、保険会社などから控除証明書データを取得する手続きなど、事前準備が必要になります。この観点から、従業員への早期の周知は必須です。
またその際には、従業員が使用する専用ソフトウェアはどれに決定したのか、その前後の事務手順はどうすれば良いのかも併せて周知する必要があります。
年末調整申告書データを利用して税額計算を自動で行うためには、現在、自社内で利用している給与計算システムが年末調整申告書データの取込みに対応している必要があります。
あらかじめ給与システムのベンダーなどに問い合わせをして、税額計算を行うためのシステムの改修が必要かどうかも検討しましょう。
従業員から年末調整申告書に記載すべき事項を電子データにより提供を受けるためには、あらかじめ所轄税務署長に、「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」を提出し、承認を受ける必要があります。
年末調整申告書データを作成するためのソフトウェアを手元に準備します。
国税庁は、「年末調整控除申告書等作成用ソフトウェア」を令和2年10月にリリースしますので、それを使う選択肢もあります。
ただし民間のソフトウェアも存在しますので、どのソフトウェアを使うかは、あらかじめ勤務先に確認しましょう。
保険会社などのホームページなどから、控除証明書データを取得します。具体的な取得方法は保険会社などにより異なりますので、詳しくは自身が契約している保険会社に確認しましょう。
マイナンバーカードを活用した「マイナポータル連携」を利用する場合は、年末調整申告書データの作成中に、「民間送達サービス」に送達された複数の控除証明書等データをマイナポータルを通じて一括取得するため、②の手続は不要となります。
参考:年末調整手続の電子化に向けた取組について(令和2年分以降)|国税庁
https://www.nta.go.jp/users/gensen/nenmatsu/nencho.htm
今回の記事では、年末調整電子化に踏み切ることでどんなメリットがあるか、その概要を中心にお伝えしました。
ただし、現在自社で利用している給与システムはこのたびの年末調整電子化に対応しているかどうか、従業員全員の理解は得られるかどうかなど、会社として事前にいくつか検討が必要なポイントが存在します。
社内事情など場合によっては、ボトルネックの洗い出しや解決が必要になるケースも考えられます。
今後の記事では、「年末調整手続きの一部だけでもペーパーレス化することはできるのか?」「その際にメリットはどのぐらいあるのか?」といった論点もお伝えしていく予定です。