地方の製造業にテレワークは可能なのか?(後編)

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、求められているテレワーク環境の整備。首都圏の大手IT企業を中心に先駆的な取り組みが始まっているが、地方の中小企業、さらにものづくり系の業種は難しい側面も多く、遅れがちなのが現状だという。

そこで今回は「地方」「製造業」のキーワードで3名の経営者を迎え、各社での取り組み事情、成功事例、直面している課題について率直に語っていただいた。果たして、地方の製造業にテレワークは可能なのか? その答えを見つけていきたい。(前後編のうち後編)

参考:地方の製造業にテレワークは可能なのか?(前編)
https://digitalworkstylecollege.jp/report/0410terelwork/

<登壇者>
旭鉄工株式会社 代表取締役社長 木村 哲也氏
株式会社三松 代表取締役社長 田名部 徹朗氏
トライポッドワークス 株式会社 代表取締役社長 佐々木 賢一氏

<コーディネーター>
一般社団法人 日本デジタルトランスフォーメーション推進協会アドバイザー 森本 登志男 氏
一般社団法人 日本デジタルトランスフォーメーション推進協会 代表理事 森戸 裕一

旭鉄工グループのテレワークツール活用術

森本:ここからは、前編で挙がっていた課題について、掘り下げていきたいと思います。メンタルケアの話が出ましたが、これについては木村さん、旭鉄工グループではいかがですか?

木村:私たちはコミュニケーションがしっかり取れているほうで、メンタルに関しては問題ないと思っています。

こちらは、チャットツール「Slack」での実際のやり取りです。技術チームは10時始業なのですが、誰かが「おはようございます」と投げると、他のメンバーがスタンプで反応していくんですね。下は退勤のあいさつ。こんなふうに、かしこまらずにこまめにコミュニケーションを取ることを大事にしていますので、孤独感はないと思います。

朝は毎日チームごとにウェブミーティングをしていますし、それ以外にも、気になる点をSlackで気軽に他のメンバーに確認したりしています。

私はいつも、社員たちに「どうでもいい話しよう」「なんでもいいから話そう」と言っているんです。チャットに書いてはいけないことなんてないので。

その結果がこちらです。一日のチャットの発言数が310で、一番多いのが雑談でした。とにかくなんでもいいから書くのが大事なんです。

反応も大事ということで、絵文字もたくさん使っています。このように、やろうと思えば、チャットでの発言数や反応数でも評価できなくはないし、Slackでのやり取りを見ていれば、いかに積極的に業務に取り組んでいるかはちゃんと見えるんですよね。なので、遠隔だから仕事ぶりを評価できないなんてことはないと思っています。

森本:こういう効果は、ひょっとしてテレワークになったからこそ出てきたものですか?

木村:いや、そんなことはないですね。積極的に発言や反応しているかどうかは、出社しているか否かにはあまり関係なくて。そもそも、「会社に来ているから正確に人事評価できる」という理屈ではありませんからね。

森本:私も、テレワークというと「離れているのに評価はどうするんですか」「社員同士のコミュニケーションが成り立ちませんよね」と言われますが、よく考えて、ツールを使いこなしていけば、逆に以前よりも良くなることだってありますよね。

木村:そうですね、コミュニケーションが悪くなったとは全く思っていなくて、むしろいろいろな提案が出やすくなったと感じています。

田名部:木村さんのところは、いつごろからこのようなコミュニケーション方法を取られているのですか?

木村:Slackは3年くらい前からですね。

田名部:もともと、雑談だったりフランクな会話がしやすい風土だったんでしょうか。

木村:はい、私自身が率先して「どうでもいい話」を投げかけるようにして、許容というか推奨してきました。

田名部:私たちは、社員みんながバラバラの場所で仕事をするということを初体験しているところです。そこに孤独感、疎外感が出てきますが、チャットツールをこんな風に活用できると一体感が生まれるでしょうし、「雑談OK」というのがいいですね。

森本:田名部さんの会社は、オンライン上に「みんなが集まる」場はないのですか?

田名部:営業なんかはLINEグループを使って交流しているようですが、会社としてはないです。

森本:今後作っていけたらいいですね。

田名部:そうですね。社員が孤独を感じてしまう原因が「集まる場がない」ことなのであれば、こうしたグループチャットを活用するのは、良い解決方法になるなと思いました。

森本:仕事の話だけだと、プレッシャーになってしまいますものね。そういった意味で木村さんの取り組みはとても工夫されていますし、風土ができあがっているのがいいですね。

田名部:はい、本当に感心しながら聞いていました。

森本:田名部さん、ぜひ始めてみられたら、後日談をお聞かせください。

田名部:了解しました!

森本:さて、ここで木村さん、先ほどから話題にあがっている「Slack」を知らない方もいると思うので、簡単にご説明いただけますか? あと、他のチャットツールもある中でなぜSlackを選ばれたのかも知りたいです。

木村:Slackというのはオンラインチャットツールで、こちらが実際の画面です。左側の列にはグループが表示されていて、例えば「テレワーク勤怠管理」を選択すると、このように社員たちの業務開始や終了の報告が見られるようになっています。ちょうどついさっき、17:12に「お先に失礼します」と書き込みがありますが、すでに3人がスタンプで反応していますね。

もちろん、これは遊んでいるだけではなくて(笑)顧客対応やプロジェクトの進捗などを報告、管理するのがメインの使い道です。それをできるだけ、楽しい感じでやろうよというスタンスですね。

Slackを選んだのは、いろいろなアプリといちばん連携がしやすいから。前半でご紹介したモニタリングのシステムともつながっていますし、Amazonのアレクサとも連動させることができて、アレクサに「社長呼んで」と言うと、Slackで私に連絡が飛んできます。

森本:そういえば、私が佐賀県庁にいた時も海外駐在している人がいましたが、やり取りは電話とメールだけでした。こんなふうに、同僚同士で気軽に会話できる場があると、メンタルがかなり楽になって仕事もはかどりそうですね。

木村:私も20年前にオーストラリアに駐在していましたが、当時はこういうものがなかったのでやりにくかったですね。今はタイの現地法人ともSlackでつながっているので、大変便利です。

ゼロからのテレワーク、何から着手すべきか

森本:さて、ここからは、ゼロからテレワークを始める企業に向けて、皆さんからのアドバイスをお聞きしていきましょう。

木村:あまり難しく考えすぎず、やれることから始めるのがいいと思います。

佐々木:前半で通信環境の話が出ましたが、私もモバイルの通信は遅いなあと感じてます。5Gが早く普及してくれたら、テレワーク環境も快適になりますよね。

人のことに関しては、コミュニケーションが全てだと思います。会社にいても仕事に集中している時は一人で、でも周りに人がいるのでコミュニケーションがとりやすいということですよね。それをバーチャルに再現できれば、疎外感、孤独感はなくせます。実際、私たちも、SNSやチャットの類は使いまくっています。ツールを一つに限定せず、プロジェクトやセクションごとに使いやすいものを使えばいいと思います。

私たちは「顔が見える」環境を大事にしていて、週初めに全社定例ミーティングを行っています。以前は東京と仙台にそれぞれ集まって、2カ所をオンラインでつないで行っていたのですが、2月から全員がリモートで参加する方法に変更しました。画面上に全員の顔が並ぶと、リアルよりも一人ひとりの顔が見やすいので、コロナ騒ぎが収まったとしても今のスタイルがいいなと思っています。会議をするにしても、皆の顔が平等に映るぶん、発言者以外も適度な緊張感が保て、集中力が持続できるように感じます。

それから最近、社員たちが在宅勤務ノウハウを共有するドキュメントを作りました。例えば「この机と椅子がオススメ」「少し昼寝をしたら集中しやすくなったよ」といった、各自の気付きを気軽に投稿していくものです。それぞれが良いと思ったこと、課題だと感じたことをここでまとめることによって、より快適な在宅勤務環境づくりをマニュアル化できていていくわけですね。これは私からは何も指示していなくて、社員が自発的にやりはじめたことで、嬉しかったです。

森本:そのドキュメントは何で作っているんですか?

佐々木:「Googleドキュメント」です。Wordのオンライン版みたいなもので、ひとつのドキュメントを皆で共有して書き込めます。

森本:これ、ドキュメントを開いていると、誰かがカチャカチャ書き込んでいる文字が表示されていくのがリアルタイムで見れるので、なんだか一人じゃない感じがして、いいですよね。メンタルケアにも効果があるかもしれませんね。

現在のような状況になる以前から、育児や介護をする社員を対象に在宅勤務を実施していた会社もありますが、例えば10人中2人がテレワークになったとして、その2人のことを上司がケアできていないかといったら、そんなことはなくて。むしろその2人とすごくよくコミュニケーションできていたりするんですね。そんな事例をいくつもの会社で見てきました。これは本当に「案ずるより産むが易し」の精神で、運用を工夫してきた賜物だと思います。それを極めていくことで、今のような全員がテレワークせざるを得ない世の中になっても、うまく対応していけるのではないでしょうか。

佐々木:そうですよね。こんな状況は誰もが初めて経験していることですから、トライアンドエラーを繰り返すことでしか、良くなっていかないと思います。

森本:私もいろいろな企業のテレワーク支援をする際に最初に言うのは、ウェブ会議やグループチャットのような「家にいても繋がれる」環境をどうにかして作ってください、ということなんです。

田名部さん、もしも御社で全員が在宅勤務することになったとしたら、そうした環境をつくることについて、どう思われますか。

田名部:在宅勤務は「一人で黙々とやる」イメージでしたが、離れていても繋がれる場をつくり、頻繁にやり取りできれば、むしろ顔を合わせて働いているよりも、密度の濃いコミュニケーションができるように感じました。

森本:実際に明日から「現場以外は全員在宅勤務」にするとしたら、何から着手するかイメージできますか。

田名部:まず、当社は「ハンコ」と「紙」の文化はまだまだ残っていまして、実は今日私が出社しているのも、ハンコのためだったりします。しかし、これも絶対でないので、撤廃していかなければなりません。既に在宅勤務をできる仕組みは整っているわけですから、あとはやるだけですよね。佐々木さんがおっしゃったようにトライアンドエラーで、まずはやってみることが大事だと感じました。

森本:佐々木さん、木村さんからも、アドバイスをいただけますか。

佐々木:経営者・マネージャー・メンバーそれぞれの間のコミュニケーションをとにかく取りやすくするのが大事だと思います。手段は何でもよくて、デジタルツールが難しければ、電話だっていいわけです。

それから、トップからの指示を明確に伝えることが重要です。当社ではこの2カ月で2回、テレワークについて私からのメッセージを出しました。1回目は2月25日、そろそろ通勤を控えるべき気運が高まってきた頃。この時は、指示というより「家でやってもいいよ」レベルの通達でしたし、皆が家に持ち帰れるほど業務が整理されていなかったのが正直なところです。2回目は4月6日で、緊急事態宣言を踏まえて「在宅勤務にしよう」とハッキリ指示を出しました。1回目からこの時にまでに徐々に業務の整理ができたので、結果、東京はほぼ全員、仙台も半数ほどが在宅勤務を実現できています。

木村:私も、コミュニケーションが最も大事だと思います。チャットをするなら、今はほとんどの人がスマホを所有しているわけですから、そこにアプリを入れればいいだけですよね。

ただ、本質はツールうんぬんではなくて。例えば、部下の話を聞かずに一方的に自分が話す上司がいますが、その上司は、チャットでも対面でも部下とコミュニケーションは取れていないですよね。

私が思うのは、これを機会に、コミュニケーションとは双方向であるべきではないか、それなら部下の意見を聞くようにしなければいけないのでは、といったマインドチェンジまでセットで行うべきだいうこと。会社側が「なんでも聞くよ」という姿勢を見せれば、おのずと社員からは多くの情報があがってきますし、反応も豊かになります。

そうすれば、今後また出勤するようになった時に、会社全体のコミュニケーションレベルは大きく向上しているのではないでしょうか。

地方企業のテレワークと未来

森本:終盤になりました、皆さんに順番に感想をお聞きしていきます。まず森戸さん、いかがでしたか?

森戸:皆さん、今日は貴重なご意見をありがとうございます。テレワークが難しい理由は多々あったとしても、それはさておき、できることからやってみると先が見えてくるものだと改めて思いました。

デジタルトランスフォーメーションとは、それを行うことで以前よりも良くなることを目指すべきだと考えています。例えば上司・部下のコミュニケーションが円滑でない、管理職が機能していない、といった問題があるのであれば、これを機に改善に取り組み、アフターコロナの折には「大変だったけれど、前より良くなったね」と言い合えるような組織づくりが大事だと思っています。

森本:私もいろいろな会社に伺って「なぜテレワークをしないんですか」と言うと、たいてい思考停止して、何もかもやってしまおうとします。規則を改定し、評価制度を整え、セキュリティを万全に……なんてやっていたら、いつまでも始められませんよね。

今オール在宅勤務を実現している会社でも、すべてを完璧にできているところはおそらくありません。まず目の前のハードルをできるだけ低くして、ひとつずつ超える。まず何ができるか考えて、できることからやってみる、というのが、今日の大きな学びのひとつだったように思います。

木村:そういえば、当社で在宅勤務を早めに始めた理由がもう一つありました。テレワークを始めたら課題点がたくさん出てくることはわかっていたので、実際にやってみることでそれを早い段階で洗い出し、解決してしまいたいと考えたからです。完璧に準備してからでなくては始められないという考えが、そもそもなかったのがポイントだと思います。

森本:従来の業務とは違って誰も経験したことのない事態ですから、成功させることではなく、課題を抽出することをゴールにすればいいんですよね。

佐々木:私は今、東日本大震災の経験が生きていることを実感しています。あの頃は仙台も大混乱でしたが、とにかく事業継続しようと一致団結しまして、まず問題点を皆で洗い出し、プライオリティづけして、何から着手するかを明確にしました。そうしたら、後はがんばってやるだけです。

あとは、停電中は夜の活動がいっさいできないので、社員を午前出勤組・午後出勤組に分け、半日勤務にして、日中に家のことをする時間をとれるようにしました。平時以上に、家族や生活を守るための余裕を作ってあげるのが大事だというのも、この時に学んだことです。

木村:とにかくやってみないと始まらない、と先ほどから言っていますが、やってみると意外とできるんですよね。そのためのツールも情報も山のようにあります。ですから皆さん、がんばって、自分たちから変わっていきましょう

田名部:今日はまさに、他社に先駆けてトライされている2社のお話を伺えて、当社も早く始めなくてはと奮い立たされました。

森本:最後に私から一点、共有させてください。4月1日から「総務省テレワークマネージャー相談事業」がスタートしています。私たち専門家が個別にお話を伺って、状況に応じた助言をさせていただくもので、相談にあたって費用負担はありません。「総務省 テレワークマネージャー」で検索していただくと申し込みフォームがありますので、ぜひ活用してみてください。

森戸:皆さんお疲れさまでした。日々こうしてテレワークについて考える中で、私たちは「リアルはスペシャルだ」ということに気付き始めています。毎日同じ時間に会社に行って、仲間を顔を合わせて仕事ができるのは、実は特別なことだったんだと。リアルで集まる機会をいかに大切にするかを考えた時に、バーチャルでもできることの切り出しができていくのではないかと思います。仕事にはメリハリをつけることが重要ですから、何に投資をして、何をコストダウンすべきか、うまく見極めていけたらいいですね。

地方の企業は「うちは都会じゃないから」「うちはアナログだから」と言いがちですが、その地方かつアナログ環境でしっかり業績を上げてきたのは素晴らしいことなので、それをデジタルでさらにアップデートすれば、もっと良くなっていくはず。そういった考えで、チャレンジしていただきたいと思います。

森本:特にここ数日で、私たちテレワークを仕掛ける側の状況も刻々と変わっています。先ほどご紹介したテレワークマネージャーの申し込みも増えていて、少し前は週2~3件だったのが、昨日だけで3件いただきました。

それと、私は2年半前にテレワークに関する本を出版しているのですが、ここへきて初めて、Amazonで「在庫なし、入荷未定」と表示されました。この2年半よりもここ3日くらいのほうが売れているのではないかという(笑)。それくらい今、世の中が動いているんですね。

昨日も総務省のテレワーク関係者たちとやり取りしていたんですが、彼らが言うには「周知の時期は終わった」と。次のフェーズに進む時が来ているのをひしひしと感じます。

森戸:そうですね。それと、疫病が震災などと違うのは、いったん終息しても、後退して、また収まって、と繰り返していくことです。ですから悲観してもしかたがないので、ポジティブに捉えていくことが、これから経営者に必要な姿勢ではないかと思っています。

正解を誰も知らない世界を切り開いていくわけですから、当法人としても皆さんの力をお借りして、成功事例、失敗事例ともに共有しながら、一緒に考えていきたいです。今後とも、よろしくお願いいたします。本日はありがとうございました!

一同:ありがとうございました!

Digital Workstyle College 編集部
この記事を書いた人