リーガル分野におけるIT化は急速に進んでいますが、なかでも注目されているのがリーガルリサーチです。
ごれまでも総務省のe-GOV法令検索や裁判所における裁判例検索など、文献でおこなわれていた調査の対象が電子化されてきていますが、法律専門書や官公庁の資料などは、本や書面などで閲覧するしかないものが多くありました。
そこで登場したのが、2019年12月にローンチされた「Legal Library」
を皮切りとした、官公庁や複数の版元からコンテンツをオンラインで提供してくれる、企業法務リサーチサービスです。
新型コロナの影響で、リモートワークが進む中、法務関係の専門書や雑誌などをクラウド環境で閲覧できる機能を備えた、まさに待望のサービスといえるでしょう。
今回は、リーガルリサーチ(企業法務リサーチサービス)の中から、注目のサービス4選をご紹介いたします。
本題に入る前に、まず「リーガルリサーチ」について簡単に解説いたします。
リーガルリサーチとは、法律問題を解決するために、必要な関連法令、判例、事実、専門書、官公庁や規制団体の出す様々な法律文書などの法的情報を収集することです。
例えば企業が新しい商品やサービスを開発するときは、「これは適法なのか」「国の規制にマッチしているか」といった様々なことを法令や条文を探して事前に確認し、法的な材料・根拠となる情報を調査、解釈した上でGOサインを出しています。
特に最近では、些細なことでもきちんと法的根拠を持っておかないと、企業にとっては命取りになるケースもあるからです。
しかし、現在のリーガルリサーチは非常にアナログな手段でおこなわれています。
法律に関する情報は、官公庁のWebサイトだったり、紙の書籍だったり、論文誌だったりと、それぞれバラバラのフォーマットで作られた媒体に散らばっていて、どこに必要な情報があるかから調べなければいけないからです。
その手法を書いた本が何冊もあるほど大変な作業であるリーガルリサーチですが、年を経るごとに法令や判例は増える一方なので、業務の重要さと複雑さは増すばかり。そんな中、リーガルリサーチにおける問題を解決すべく、リーガルテックの分野でサービスの提供が始まりました。
それが今回ご紹介するリーガルリサーチサービスです。
リーガルリサーチサービスは、リーガルリサーチの業務をより早く、的確におこなうために開発されたサービスです。
これまでのリーガルリサーチは、法令・判例・通達・通知などが全部バラバラの情報ソースになっており、その形態も電子化されているものもあれば、文書でしかないものもあり、調査自体に時間がかかっていました。
また、限られた時間内で調査が可能なソースには限りがあり、リサーチ対象から外れてしまうものもあったのです。
企業法務リサーチサービスは、リーガルサーチの対象となる情報源を集約し、リサーチの入口を一本化。ソースを横断した検索が一度におこなえるシステムです。
いうなればリーガルサーチ専用のポータルサイトで、検索対象となる情報源は信頼できる法律専門書や官公庁資料に限られています。通常のネット検索のように誤った認識で書かれたページなどがヒットすることはありません。
リサーチサービスの活用により、リーガルリサーチをより効率化し、詳細な調査結果を導き出すことができるようになるだけでなく、今までリサーチに費やしていた時間を別の重要業務に使うこともできます。
ブラウザからの閲覧で、ネット環境さえあればどこでも使えますので、出張や外出はもちろん、在宅勤務への移行もスムーズ。
新型コロナウイルス感染症の影響により、図書館も閉館したり、入場制限をおこなったりしているため、これまでのように文献を共有することも難しい環境では、必須のサービスといえます。
今回は、リーガルリサーチサービスの中から、注目の4つのサービスについて1つずつ解説します。
・BUSINESS LAWYERS LIBRARY
https://www.businesslawyers.jp/lib
・LEGAL LIBRARY
https://legal-library.jp/
・LION BOLT
https://sapiens-inc.jp/
・Legalscape
https://www.legalscape.co.jp/
リーガルリサーチサービスの機能が豊富にあっても、自社の使い方にあった機能があるかどうかで選ぶことが重要です。
画像:BUSINESS LAWYERS LIBRARYサイトより (https://www.businesslawyers.jp/lib/about)
登録弁護士数17,000人(弁護士の3人に1人超)の日本最大級の法律相談ポータルサイト、弁護士ドットコム株式会社が提供するサービス「BUSINESS LAWYERS」。
BUSINESS LAWYERSは企業法務に関わる方のための、実務に役立つ企業法務ポータルサイトとして、多くの情報を掲載し、その分野の専門家である弁護士が執筆した記事が、リーガルリサーチでヒットすることも少なくありません。
BUSINESS LAWYERSは無料ですが、「BUSINESS LAWYERS LIBRARY」は、主要な法律系出版社13社が参画し、500点以上の法律書籍を、月定額でオンラインで閲覧できる、サブスクリプションのクラウドサービスです。
■参画している出版社 ・ぎょうせい ・三修社 ・新日本法規出版 ・税務経理協会 ・第一法規 ・中央経済社 ・東洋経済新報社 ・日本加除出版 ・日本能率協会マネジメントセンター ・法律文化社 ・有斐閣 ・レクシスネクシス ・ジャパン ・労働新聞社(2020年5月12日現在。順次拡大予定) |
登録された出版社の法律書籍が、ブラウザから読み放題のサービスで、以下のデバイスで機能します。
デバイス(OSバージョン / ブラウザー) ・iPhone(iOS 9.3.6〜 / Mobile Safari) ・iPad(iOS 9.3.6,10.3.4~12.4.2 ・iPadOS 13.1~ / Mobile Safari) ・Android(5.x~ / Chrome) ・Windows10(Edge, Chrome, IE11, FireFox) ・Windows8.1(Edge, Chrome, IE11, FireFox) ・Mac(OS 10.9.0~ / Safari, Chrome) ※Windows RT(初期のSurface)は動作対象外 |
スマートフォン・タブレットのほとんどの機種を網羅しているので、外出先でも、在宅でも使うことが可能な、利便性の高いシステムです。
無料トライアル | あり 10日間 |
料金 | ・月額プラン 6,300円(税抜) ・法人プランあり要問い合わせ https://shanon-mp.bengo4.com/public/application/add/1117?_ga=2.212532636.907911688.1596525268-1385214034.1596525268 |
備考 | ・BUSINESS LAWYERSにも登録されます。 ・支払はクレジットカードのみ(VISA・MasterCard・AMERICAN EXPRESS・JCB) |
参考:BUSINESS LAWYERS LIBRARY公式サイト 料金プラン (https://www.businesslawyers.jp/lib/about)
BUSINESS LAWYERS LIBRARYは、サブスクリプションサービスです。月額は6,300円ですが、初回申し込みから10日間は利用料が無料。
無料期間中に解約すれば、料金はかからないので、まず登録してみて内容を確認してはいかがでしょうか。
運営会社 | 弁護士ドットコム株式会社 |
設立 | 2005年7月4日 |
住所 | 〒106-0032 東京都港区六本木四丁目1番4号 黒崎ビル6階 |
従業員数 | 240名 |
画像:LEGAL LIBRARYサイトより (https://legal-library.jp/)
法務系のリサーチサービスにおいて、一番最初にサービスを開始したのが、株式会社Legal Technologyが提供する「LEGAL LIBRARY」。
約10万ページの信頼できる法律専門書や、官公庁等の各種資料を横断的に検索閲覧できるサービスです。
そのほかにも、「お気に入り」を作成できたり、書籍の目次を参照することが可能だったり、特定のページにメモを残したりできるなど、ただ検索・閲覧するだけでない使い勝手の良さが魅力。
参画している出版社は、以下の通りです。
・有斐閣 ・中央経済社 ・日本加除出版 ・現代人文社 ・きんざい ・民事法研究会 ・ぎょうせい ・勁草書房 ・日本リーダーズ協会(順次拡大予定) ※このほか、経済産業省・厚生労働省・公正取引委員会等の官公庁の資料(ガイドライン、報告書、Q&A等)も閲覧が可能 |
出版社数は先ほどの「BUSINESS LAWYERS LIBRARY」と比べると少ないのですが、現在のところこの両者は、以下の通り4社以外は重複していません。
自分がよく使う出版社の利用頻度によって、どちらのサービスを使うか、もしくは両方契約することを考えてみてはいかがでしょうか。
BUSINESS LAWYERS LIBRARY | LEGAL LIBRARY |
・ぎょうせい ・有斐閣 ・中央経済社 ・日本加除出版 ・三修社 ・新日本法規出版 ・税務経理協会 ・第一法規 ・東洋経済新報社 ・日本能率協会マネジメントセンター ・法律文化社 ・レクシスネクシス ・ジャパン ・労働新聞社 (2020年5月12日現在。順次拡大予定) | ・ぎょうせい ・有斐閣 ・中央経済社 ・日本加除出版 ・現代人文社 ・きんざい ・民事法研究会 ・勁草書房 ・日本リーダーズ協会 ・官公庁等の各種資料(順次拡大予定) |
LEGAL LIBRARYは、以下の環境で動作が可能です。
OS:Windows 最新版/Mac OS 最新版ブラウザ:Google Chrome 最新版/Microsoft Edge 最新版/Internet Explorer 最新版/FireFox 最新版 |
WindowsとMacで動作ができることがわかりましたが、iOSやAndroidでの動作保証がされていないため、Safariなどでは表示が難しいかもしれません。
無料トライアル | あり・10日間(https://legal-library.jp/signup/mail) 法人や法律事務所で希望する場合は要問い合わせhttps://legal-library.jp/inquiry/input |
料金 | スタンダードプラン:月額 5,200円 (税別) |
備考 | ※支払はクレジットカードのみ |
参考:LEGAL LIBRARY公式サイト 料金プラン (https://legal-library.jp/#plan)
LEGAL LIBRARYでは、個人での利用と、法人・法律事務所での法人利用については申込が異なります。
いずれも10日間の無料トライアルがあるので、いったんトライアルをしてみることをおすすめします。
運営会社 | 株式会社Legal Technology |
設立 | 2018年12月19日 |
住所 | 東京都千代田区神田淡路町1丁目9番5号天翔御茶ノ水ビル8階 |
従業員数 | – |
画像:LION BOLTサイトより (https://sapiens-inc.jp/)
LION BOLTは、元・法律専門書の編集者が代表を務める、株式会社サピエンスが提供するサービス。
LION BOLTの名称は”Law Intelligence Open Network: Best of Legal Tech”の略称です。
こちらも、法律専門書や官公庁資料などリーガルサーチの対象となる情報源を集約して、横断的な検索や閲覧ができるシステムを提供しています。
具体的にどこの出版社が提携しているかは明らかにされていませんが、リサーチ対象コンテンツの拡充においては、日本国内でいち早くリーガルテックに取り組んでいることでも知られる、長島・大野・常松法律事務所と共同で実証実験をおこなってきました。
2020年8月現在、企業法務を取り扱いの中心とする法律事務所、企業の法務部門へトライアルも含めた営業活動を強化中です。
三菱商事やみずほ証券の企業法務部、アンダーソン・毛利・友常法律事務所のような渉外大手法律事務所の導入実績が多くあります。
LION BOLT独自の機能としては、出版機能へのリンク。出版社と提携し、すでに絶版された書籍などをLION BOLTを通じて、電子書籍化、書店PODや小ロット出版サービスによって読者の手元に届けることが可能です。
さらに、システム内のデジタルコンテンツの閲覧履歴や、検索ワード履歴等のデータを統計化することによって、出版社・著者の出版計画を立てるサービスを実施。
BUSINESS LAWYERS LIBRARYやLEGAL LIBRARYが、個人も対象にしているのとは対極に、大手企業の法務部や大手法律事務所にターゲットを絞ったサービスといえるでしょう。
LION BOLTの料金プランや価格は公表されていません。公式サイトの問い合わせページよりご確認ください。
・LION BOLT公式サイト お問い合わせ (https://sapiens-inc.jp/)
運営会社 | 株式会社サピエンス |
設立 | 2019年6月 |
住所 | 〒101-0052 東京都千代田区神田小川町1-8-3小川町北ビル 3F |
従業員数 | – |
画像:Legalscapeサイトより (https://www.legalscape.co.jp/)
弁護士向けのITサービスを開発・提供する東大発のAIベンチャー「株式会社Legalscape」が提供する同名のシステム「Legalscape」。
実はまだ開発中で、現在は実用化に向けてβ版を森・濱田松本法律事務所にて導入・運用をおこなっている段階ですが、期待のサービスとして今回ご紹介します。
Legalscapeは、「リーガル・ウェブ」をコアコンセプトとし、法律書を電子書籍のように扱うのではなく、それぞれをWebサイトのように見なすことで、Googleのような検索機能やリンクを可能とするシステムです
法律の専門書や行政資料、判例等の様々な法律情報をデータベースに収めるだけでなく、法律情報専用の検索エンジンとして書籍の情報をデータとして活用できるよう、書籍のPDFデータを構造化されたデータに自動で変換するツールを開発。法律文章の構造化に関する技術などについて特許を取得しています。
「リーガル・ウェブ」によって実現する機能の一部
・引用文献へのジャンプ機能:
閲覧中の文献の本文や注記等の中で、別の文献が引用されている場合、ワンクリックで引用先の文献を展開・表示することができます
・関連文献の「逆引き」機能:
閲覧中の文献の当該箇所が別の文献により参照されている場合、参照している文献が関連文献として表示され、「逆引き」(参照している箇所へのジャンプ)をすることが可能です
・キーワードタグ検索:
各文献内の章や節に、キーワードタグ(例えば、「善管注意義務」や「会社法423条1項」といった法律用語や法令等のタグ)が自動で付与されるため、同じキーワードタグが付与されている文献を網羅的に検索し、かつ、当該箇所をピンポイントで表示させることができます
Legalscape」プレスリリース 2019年10月15日 https://www.legalscape.co.jp/press/2019-10-15/
2020年8月現在、参画している出版社などの詳しい情報は、まだ明らかになってはいませんが、リーガルリサーチにおけるユーザビリティー向上の面からもかなり期待できそうなサービスです。
実用化前のため、現在は利用プランがありません。
新型コロナウイルス感染症の影響拡大により、一時的に月額5,000円(税別)で「企業法務緊急対応特別パック」を提供していました(2020年7月31日で終了)。
運営会社 | 株式会社Legalscape |
設立 | 2017年9月14日 |
住所 | 〒113-8485 東京都文京区本郷七丁目3番1号 東京大学南研究棟351 |
従業員数 | – |
今回は、リーガルリサーチサービスの中でも注目されている4つのサービスを紹介しました。
法務の重要な業務の一つであるリーガルリサーチですが、日本のリーガルテックは本格的に始まったばかり。
検索サイトや電子書籍の黎明期のように、これからUXデザインや使い勝手に応じた機能が備わっていくことになるでしょう。
リーガルリサーチにおいては、個人・法人・法曹関係者など、その属性や業務内容によって、必要となる情報源や取り扱い分野などの専門性が異なります。
無料トライアルなどを活用して、その使い勝手をつかみ、必要に応じて複数サービスを並行して利用することで、より網羅性のあるリーガルリサーチが可能になるでしょう。