身近な雑貨店やネット通販などで、「アイデア商品」「便利グッズ」などと呼ばれる商品があります。商品の形や構造にちょっとした工夫があることで、私たちは日常生活の中でより便利にモノを使うことができます。
こういった、モノの形や構造にまつわるアイデアを考案した場合、「実用新案制度」に出願することで独占的に製造・販売できる権利を認められる場合があります。
実用新案制度とは、特許制度よりもクイック、かつ安価に権利を取得できるところもポイントです。
この記事では、実用新案制度のあらましや、特許制度との違いについて解説します。
実用新案制度とは、知的財産権のひとつです。モノの形・構造・組み合わせに関する新たな考案で、産業上利用できるアイデアについて法律で保護し、独占的に利用できる権利を認める制度です。
実用新案制度は、特許制度と似た制度ですが、モノの形・構造などに関する「ちょっとした発明・工夫」を保護するための制度です。
例えば、「鉛筆」そのものの考案自体は「発明」に該当します。
一方、「握りやすいよう、鉛筆の形状を六角形にする」「新たなアイデアを加えて、鉛筆のお尻に消しゴムを付ける」といったことが「ちょっとした発明・工夫」に当てはまります。
「ちょっとした発明・工夫」は産業上役立つことも多く、日常生活の便宜が大きくなることから、アイデアを保護するために実用新案制度が設けられました。
[出典]実用新案権と実用新案登録出願|日本弁理士会
https://www.jpaa.or.jp/intellectual-property/utilitymodel/
実用新案制度の保護対象とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作」と定義されています。なおかつ、「産業上利用できるモノの形、構造、組み合わせに関わる考案」とされています。
形があり、運搬可能なもの、設計図で表現されるものでなければなりません。たとえば液状や粒状の薬剤などや、コンピュータープログラムなどは対象外となります。そして、商取引の対象となるもの、という要件もあります。
物品の形状・構造について新たな「小発明」を行った後、特許庁に出願すると実用新案権を認められる場合があります。
この権利取得には、どんなメリットがあるのでしょうか?
まずは、権利を取得したモノの生産、使用、販売などを独占できます。後から模倣して販売する人など、権利侵害者に対して差し止めや、損害賠償請求をできるようになります。
そして実用新案制度は、特許制度と異なり、出願したアイデアの新規性・進歩性など具体的な実体審査は行われません。
提出書類が法に定められた様式に則って作成されているか、また、登録に必要な事項を満たしているかの基礎的要件のみの審査が行われます。
実質、無審査であるため、特許出願よりもスピーディーかつ安価に登録が可能です。そのため、市場動向に応じて早期に変化するモノの考案など、ライフサイクルの短いアイデアの出願に向いています。
権利期間は、出願から10年です。
以下に掲げる表は、特許制度と実用新案制度の違いをまとめたものです。
[図2]特許制度と実用新案制度の違い
特許 | 実用新案 | 備考 | |
保護対象 | ・モノ・方法・モノを生産するための発明 | モノの考案に限定 | |
実体審査 | 審査官が審査 | 無審査 | |
権利の存続期間 | 出願から20年 | 出願から10年 | |
費用(登録から3年間) | 約17万円 | 約2万円 | |
権利行使 | 排他的権利 | 技術評価書を提示して警告した後でなければできない | ・技術評価書42,000円+1請求につき1,000円・紛争解決は当事者間の判断・権利行使は当事者責任で |
出願件数(2018年の数値) | 年間約314,000件 | 年間約50,000件 |
注意すべきポイントは、権利行使についてです。
実用新案権の行使は、出願後に「技術評価書」を特許庁に請求し、紛争相手に提示して警告をしなければなりません。この「技術評価書」を請求するためには、別途費用がかかります。
なぜこのような仕組みを取っているかというと、実用新案制度とは実体審査(出願されたアイデアの新規性・進歩性を評価する)のプロセスが無いためです。市場動向に合わせた、新たなモノのアイデアは比較的クイックに権利を取得しやすいが、その代わりに後に紛争が生じた場合には別途、「技術評価書」を特許庁に有償で作ってもらい、当事者間で紛争解決の判断を、という制度になっているのです。
ここからは、実用新案出願から、実用新案権取得までの流れについて解説します。
「自分のアイデアは、実用新案を取得できるかも?」と思って出願する前に、まずは先行技術を調査しましょう。つまり、既に同じようなアイデアが出願・登録されていないか確認するということです。他人のアイデアとバッティングしてしまうと、先に「実用新案権」を獲得していた人の権利侵害につながります。それを回避するために、出願前には必ず先行技術調査を行いましょう。
先行技術調査には、「特許情報プラットフォーム J-Plat Pat」のサイトを活用しましょう。既に出願されている実用新案に関する情報を無料で検索できます。
▼特許情報プラットフォーム J-Plat Pat
https://www.j-platpat.inpit.go.jp/
それでは、実際に書面もしくはオンラインで出願する手順を解説します。
[図3]実用新案登録出願の流れ
出典:初めてだったらここを読む~実用新案出願のいろは~|特許庁
https://www.jpo.go.jp/system/basic/jituyo/index.html#02
●所定の様式をダウンロードし、「実用新案登録願」の書面を作成する
▼様式ダウンロードはこちらから
https://faq.inpit.go.jp/industrial/faq/search/result/10939.html?event=FE0006
●郵便局などで「特許印紙」を買い、書面に貼り付け
※「収入印紙」とは別物です
●特許庁窓口へ持参するか、郵送で提出
●電子化手数料を納付
※書面提出の場合、電子化手数料として1,200円+(700円×書面のページ数)を納付する必要があります。ページ数が多い場合はオンライン申請にしたほうがコストを節約できます。
特許庁の「電子出願サポートサイトから、オンライン出願もできます。別途マイナンバーカードと、カードリーダーも必要です。
▼特許庁 電子出願サポートサイト
http://www.pcinfo.jpo.go.jp/site/1_start/index.html
●実用新案取得費用:
出願料=14,000円
登録料=(2,100円+請求項目×100円)×3年分
大まかに言うと「約2万円程度」と考えておくと良いでしょう。
●取得までの期間:
書類に不備がなければ、出願してから平均2~3か月で実用新案権が設定登録されます。
この記事では、実用新案制度のあらましや、特許制度と違うポイントについて解説をしてきました。
実用新案制度は、モノをより便利に使うためのちょっとしたアイデアを出願でき、無審査でクイックかつ、比較的安価に権利を取得できる制度だと言えます。
自社で新たなアイデア商品を考案した際には、ぜひ出願にチャレンジしてみましょう。
参考:
実用新案登録の基礎的要件|特許庁
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/10_0100bm.pdf
実用新案権と実用新案登録出願|日本弁理士会
https://www.jpaa.or.jp/intellectual-property/utilitymodel/
実用新案技術評価書とはどのようなものですか。|日本弁理士会 関西会
http://www.kjpaa.jp/qa/46453.html
実用新案制度の概要|特許庁
https://www.jpo.go.jp/news/shinchaku/event/seminer/text/document/2020_nyumon/1_2_2.pdf
初めてだったらここを読む~実用新案出願のいろは~|特許庁
https://www.jpo.go.jp/system/basic/jituyo/index.html