弁護士が語るリモートワーク時代のメンタルケア

健康診断、長時間働かせない、時間を計測するで事足りた古き良き時代であるコロナ以前。

コロナ以前のメンタルケアは、職場でメンタルケアをすれば良い状況でした。
そのためには、例えば過重労働にならないように、早期に帰宅することを促すなど、形式的なことで事足りました。また、健康診断等を受けさせ、また産業医など外部専門家と協力をして、メンタルケアに従事していれば良かった時代でした。

さらに、労働時間は原則として職場での労働時間を計測すれば足りるもので、目視による監視、専門家による協力、労働時間の管理で十分でした。

以上の確認さえ怠っていなかったら、原則として安全配慮義務違反にはなりませんでした。

コロナにより、多くの方々はリモートワークという大海に飲まれて、右往左往しているのが現実です。今回はリモートワークのうち、メンバーのメンタルケアのみに限定して記載いたします。

1.コロナ以降でどう変わったのか

コロナによるリモートワークに突然変わったことで、

(1)リモートワークで正確に時間を計測するのが困難に
(2)上司は、部下の働きぶりを管理をすることが困難に
(3)上司は、働きぶりを評価するのも困難に
(4)各メンバーそれぞれが愛されキャラなど過去のソフトポジショニングを維持することができなくなった
(5)あらゆるビジネスモデルが大幅に変更を余儀なくされる状態
(6)そもそもコロナの影響が大きすぎる

以上、6つの結果として多くのメンバーの心理的安全性が破壊されつつあります。

(1)リモートワークで正確に時間を計測するのが困難に

リモートワークは、就業場所から離れて働くことを意味するわけなので、従来型のタイムカードを用意することはできません。過去は管理者は目視で働いていたか否かなどを確認していたが、それもできません。

この点、カメラで着席確認をとることでこの点クリアしようとしている会社もあります。しかし、プライバシー、従業員を信用していないなど、多々の批判があります。

そもそも、政府が、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置 に関するガイドラインを出して、使用者が従業員の労働時間を確認をさせるようにしておりましたが、原則として「自主的に申告することにより労働時間を把握」する以外方法はなくなってしまったわけです。

参考:キヤノンITS、在宅勤務者をカメラで監視(2017/1/17 日本経済新聞)
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO11735970W7A110C1X13000/

参考:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000149439.pdf

(2)上司は、部下の働きぶりを管理をすることが困難に

目視ができないということは、働きぶりに対する評価は、労働時間だけを評価対象にすることができない状況です。
結果として、評価はどの程度のパフォーマンスをだしたかを計測することになるのですが、他の人と連携する必要もあるため、分断して部下の働きぶりを評価するのは難しいです。

(3)上司は、働きぶりを評価するのも困難に

上司は、部下をパフォーマンスのみで評価をすることになりますが、その判断基準が上述の通り労働時間という物差しがなくなったため、非常に難しくなりました。その結果、部下も上司からどのような判断を下されるのかわからない状況に。

上司は、リモートワークでツールを容易に使いこなすわけではありません。
とすると、意思決定について上司がボトルネックになってしまう場合があり、部下は正しく評価されることに疑念を覚えるケースもあることは容易に想像できます。

(4)各メンバーそれぞれが愛されキャラなど過去のソフトポジショニングを維持することができなくなった

会社は、オフィシャルの場だけではなく、喫煙の場などオフィシャルとは言えない場もあります。リモートワークにより、そうした憩いの場は消失してしまいました。非合理性が消失した結果、愛されキャラやムードメーカーなどの仕事と関係があるが、人間の非合理性ともいえる側面に対して評価がされにくくなりました。

(5)あらゆるビジネスモデルが大幅に変更を余儀なくされる

そもそも、飲食店、イベント業者などは経営が立ちいかなくなっています。経営者は追い詰められています。従業員からしても、この影響により、仕事場所がなくなる危険性にさらされています。

(6)そもそも、コロナ自体が影響が大きい。

緊急事態宣言により、自宅にいる機会が増えました。濃厚接触者、コロナなどのマスメディアを通じて負の情報が報道され、社会全体が委縮している状況です。

以上のことから、with コロナ時代においては、心理的安全性の破壊時期に突入していると評価できます。

2.リモートワークでメンタルケアをしなければならない理由

以上のことについて、経営者は、在宅中であることを理由に、労働者自身の問題としてとらえることはできません。

ゼロベースから、リモートワーカーについてどのようにメンタルケアをするべきかを考えなければなりません。

トップ→中間管理職→その他の従業員と、トップは暖かいメッセージを社内の皆に伝えていく必要があります。その理由は、メンバーがメンタルの問題に蝕まれると、業務継続が難しくなること及び経営者の安全配慮義務違反にも該当することがあるからです。リモートワークで気をつけるべきことは以下の通りです。

(1)職住一致により切り替えができない人がいる

住まいには通常家族がいます。小さいお子さんもいます。学校などが休校になり、かつ、自粛の影響により自宅で想定外にやるべきことが増えている方が多くいます。今までは、家庭と職場とを切り分けることで集中できる環境が維持されていましたが、リモートワークではそのような環境は維持できません。環境が劇的に変わったことで、普段通り働けない環境にいら立ちを感じているメンバーが沢山いると考えていた方が良いです。

(2)働きすぎの問題

過去は、上司などが長時間労働をストップする役目を果たしてきました。残念ながら、上司は部下がどのくらい働いているかなど分かりません。管理ができない以上、自分をコントロールできない部下は長い間働いてしまう可能性があります。

上司より正しい評価を得られないことに不安を抱くことで、成果を出したい部下はコロナ影響下においても無理してでも結果をだそうとすることもあります。

(3)コミュニケーション不足

上司、部下とも、容易にリモートワークのツールに慣れるわけではありません。寧ろ、縁遠いものとと今までは考えていた人が多くいるはずです。

リモートワークによって、一から働き方を変えなければならない環境下では、今までは容易に聞けた事項が単に声を出すだけではないという意味でハードルが高くなっています。コミュニケーション不足によりトラブルで、メンタルはより追い込まれることになります。

(4)家庭内のトラブル

夫婦両方とも、リモートワークになると、お互いに見えなかった側面も分かってきて、争いが出てくる場合もあります。居住スペースが相当程度に大きくない限り、家庭内での不満は相当程度大きくなる可能性があります。

3.リモートワーク開始

(1)適性を知る。そもそも、ビジネスモデルの転換を知る。

そもそもリモートワークには適性はあり、慣れない人は慣れないという制約があります。

経営者は、速やかに経営の方向性を示し、他のメンバーに助力を求めるはずです。その時に、抵抗勢力になっては、経営者が今後する変革の尽力も徒労に終わります。

適性があるか、ないかは、従業員自身も判断できることです。

もし、適性がないとしたら、退職して、新たな新天地に行くことも考えていくべきです。さもなければ、Slack、Chatworkなど理解のできないソフトを使い、自分の貴重な時間を消費することになります。

方向性が理解できるチームで、迅速にビジネス変革をして、生き残り戦略を実行してく必要があります。

(2)短い時間から試して慣れる

最初から、慣れようと頑張りすぎると、長期間労働の日常に入る危険性があります。

最初は短時間のみ仕事をする形にして、従来通りの仕事ができると思わない環境を作ることです。試行錯誤を繰り返して、今までの代替プランを模索する必要があります。この点は、部分的な有給休暇、休業などの措置をとることで、時短労働にします。不可欠な事項に絞り対応していきます。そののちに慣れてきたら、フルタイムでの労働時間にしても良いでしょう。

(3)障壁を知る

その際に、人それぞれで家庭内の事情があります。そうしたコンフリクトを以上の試行錯誤により炙り出すことで、労働条件を決めていきます。無理した労働条件にすると、従業員のメンタルに悪影響を及ぼします。

(4)ある意味職場が息抜きであった。

時短にする意味は、職場自身には息抜きの機能があったことを理解してもらう必要があるからです。容易に話し合える環境は、リモートワーク初期の段階には難しいと言えます。プラクティスが充実して話し合いの機会が持てるまでは、メンバーのすれ違いはやむを得ないと理解すべきでしょう。

(5)監視・管理は、諦める。共創が大事。

人は、監視ではなく、心理的安全性があれば、集中しやすく労働生産性が上がりやすいです。不安がありすぎると集中が難しく、メンタル的にも落ち込みやすくなります。ゼロベースに一緒に立ち上げるイメージ(共創)が必要であり、過去のうまく行ったイメージは捨て去る必要があります。

4.会社ができるメンタルケア

(1)クラウドで稼働時間は制御する。

メンバーには様々な性格の方がおり、おそらく就業時間外でも働きたいと思っている人がいることでしょう。また、リモートワークにより生活が乱れて、夜中に働く人も出てくる可能性があります。そこは、禁止すべき事項です。人間が集中できる時間は限りがあります。職場などと異なる息抜きができない状況で働きすぎると、メンタル上のリスクが高まります。

クラウドにアクセスして稼働時間をできるだけ把握し、定時になった場合には、アクセスできないように仕組みを作ってしまうのも考慮に値します。

(2)ゼロベースから考えて旧習を排除する。

時短を提唱したのは、メンタルだけの問題ではなく、工夫をゼロベースで考えていくことができるからです。会議が無駄とされた場合、会議をできるだけ少なくする必要があります。最近zoomが多用されていますが、もちろん副作用もあります。セキュリティの問題もありますが、zoomは慣れない動作があり脳が疲れます。管理をされる側も疲れます。

参考:「Zoom疲労」はなぜ起こるの?ビデオ通話が脳に与える影響とその改善策(2020/04/28ナゾロジー)
https://nazology.net/archives/58193

(3)ベストプラクティスを共有する。

今までとは違って効率的に働けないことはかなりストレス要素になります。各自が独自のやり方をしてしまうと、それぞれが疲弊していきます。心理的な安全性を確保し、できるだけベストプラクティスを推奨し、共有できる雰囲気を作るべきです。

経営者側は、ベストプラクティスを共有され場合、少し大げさにリアクションをとることを意識しておいた方が良いでしょう。

(4)無駄な時間を大事にする

以上の合理性が必要な反面、リモートワークに合理性ばかりを追求することは人間性を否定することになります。遊びを持たせる必要はあります。激務は、続きません。愚痴を言える空間を作る必要があります。画像で管理しようとするとお互いが管理疲れしてしまいます。心理的安全性について常に配慮し、言いたいことが言える環境を意識的に作っていかなければなりません。

(5)声と画像は、心理的安全性を高める

非同期コミュニケーションであるslack、Chatworkは職場の効率性を高める可能性はありますが、合理性を追求しすぎる結果、「ググれカス」的な雰囲気を作りかねません。

zoomその他のテレビ会議の際、顔が見えないと不安になる人もいるでしょう。音声、画像は、人を安心させる一つのツールです。

上司は、その意味で部下の心理的な安全性を高めるために、声や画像を使う必要があるかもしれません。ZOOMを起動させて、音声をオン、マイクをミュートにして、上司に質問がある時には、マイクをオンにすることで気軽に聞ける状況にするなど、想像力を今まで以上に駆使する必要性があります。

現場で、どのように効率化を図りつつ、心理的な安全性を高めていくかを議論して、ルールを作ることをお勧めします。

角田 進二
この記事を書いた人
1999年早稲田大学法学部卒業、2003年弁護士登録、2006年南カルフォルニア大学法学修士(LL.M.)、同年カリフォルニア州における法律事務所で研修。2011年パリ弁護士会外国人弁護士実務修習課程履修。
中小機構BUSINEST(アクセレーター)のメンター。主に、デジタルトランスフォーメーション(ビジネスモデルの変革)、グローバルハブ(地域間の流動性を高める)、ベンチャー(新規ビジネスの潮流を加速させる)の三つの柱を中心に活動。
著書:「アフリカ・ビジネスと法務」(中央経済社)
講演:2016年「シンギュラリティ」時代のあるべき法務戦略、2017年海外子会社管理を飛躍的に向上させるシステム作りの方法、2019年「デジタルトランスフォーメーション」への移行とリスク対策、その他多数。