テレワークの導入に伴う就業規則上の注意点

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、テレワーク(在宅勤務)が急速に普及しています。

もっとも、会社に出勤することを前提とした就業規則だと、その内容において定められている労働条件等が、テレワークをする場合にはそぐわないことがあります。

例えば、通勤手当の取扱いについては、後述のとおり、全く会社に出勤せずにテレワークをする従業員に対して支給内容を変えるのであれば、その異なる支給内容も定めておく必要があります。

したがって、テレワークを導入する(テレワークを実施できるようにする)際には、既存の就業規則を見直す必要はないか、確認することが重要です。

本稿では、テレワークを導入する会社において、就業規則上、特に留意すべき点について述べます。

具体的には、①テレワークに関する独立の就業規則の作成要否、②テレワークの定義、③テレワークを実施することができる対象者、④業務開始・終了の管理、⑤通勤手当の取扱い、⑥テレワークに要する費用負担、の6点です。

なお、法律上の「就業規則」は、必ずしも各社において就業規則という名称を付けているものに限られず、従業員を規律するルールを定めているものであれば、法律上の「就業規則」に該当します。本稿では、この広い意味で「就業規則」の語を用います。

1.テレワークに関する独立の就業規則の作成要否

テレワークの場合に適用される労働条件等をどこに定めるかについては、既存の就業規則に適宜追記する形も考えられますし、「テレワーク勤務規程」といった名称を付けて、新しく独立の就業規則を設けてそこにまとめて記載する形も考えられます(なお、いずれの形でも、従業員代表の意見を聴くことや、所轄労基署に届け出ること等は必要となります。)。

いずれの形でも問題ありませんが、テレワークの場合独自の労働条件等が多くなるようであれば、独立の就業規則を設けるということで良いでしょう。

なお、厚生労働省は、「分りやすさという観点からは、テレワーク勤務に係る定めを集約したテレワーク勤務規程を作成したほうが良いと思われます。」としています。

参考:『テレワークモデル就業規則 ~作成の手引き~』
https://telework.mhlw.go.jp/wp/wp-content/uploads/2019/12/TWmodel.pdf

2.テレワークの定義

そもそも何が「テレワーク」なのかを定義しておくことが適当です。

法律で「テレワーク」の明確な定義があるわけではなく、在宅勤務、サテライトオフィスでの勤務、これらに限らずカフェや電車内等の会社外での勤務、いずれも(あるいは、それらをひっくるめて)テレワークと呼ばれることがありますが、会社としてどのようなテレワークを許容しており、何に対して特別な労働条件等を設けているのかを明確化するためには、就業規則において「テレワーク」の定義を設けておくとよいでしょう。

3.テレワークを実施することができる対象者

テレワークを実施することができる従業員を一定の範囲に限定する場合には、その範囲を就業規則に明記すべきです。

この点、会社ごとの判断にはなります。

例えば「原則は会社に出勤してほしいが、育児・介護といった家庭の事情や、怪我や障がいによって出勤が困難である事情がある場合には、テレワークを許可する」という会社であれば、【育児、介護、傷病、障がい等により、出勤が困難と認められる者】といった条件を定めることになるでしょう。

また、「仕事の進め方等に関する理解がある程度進んでおり、自律的な業務の遂行ができる者でないと、円滑なテレワークができない」と考える会社であれば、【勤続年数が1年以上であり、かつ、自宅でも円滑に業務を遂行できる者】といった条件を定めることになるでしょう。

なお、元々特に対象者を限定せずにテレワークを許容していた会社において、新たに上記のような条件を就業規則で定めることは、労働条件の不利益変更にあたると考えられ、従業員の同意か、不利益変更の合理性が認められることが必要となりますので(労契法9条、10条)、事前に従業員との話し合い等を行っておくことが適当です。

4.業務開始・終了の管理

勤怠管理ソフトを使っている場合であれば、会社に出勤しているときでもテレワークをしているときでも勤怠管理の方法は変わらないことが一般的ですが、タイムカード等、出勤を前提とした勤怠管理の方法を取っている場合であって、就業規則に、【従業員は、出勤時と退勤時にタイムカードの打刻をしなければならない。】といった条項を置いているのであれば、テレワークの際の勤怠管理の方法(具体的には、業務の開始と終了の記録方法に関する従業員の義務)を別途定めておくことが適当です。

例えば、業務開始時と終了時に、上司にメールを送ることになっているのであれば、【テレワークを行う従業員は、業務の開始及び終了について、直属の上長にメールを送る方法により報告しなければならない。】といった条項を置くことが考えられるでしょう。

5.通勤手当の取扱い

テレワークをしておりほとんど会社に出勤しない従業員に対しては、通勤手当を削減したいというニーズは実際にも多いところです。

そこで、例えば、【テレワークを行うことにより、月の出勤回数が●日以下となる場合、公共交通機関を利用する従業員の通勤手当については、定期代ではなく、出勤日数に応じた交通費の実費を支給する。】といった条項を置くことが考えられます。

通勤手当が減額されると、従業員が納付すべき社会保険料も減るため、交通費の実費が支給される限りにおいては、従業員にもメリットがあるという言い方もできます。もっとも、6か月定期券を購入していると、事後的にわざわざ定期券の払い戻しが必要になるのかという問題も生じますし、従業員にも、出勤日数に応じた交通費を申請させる手間を生じさせます。

完全にリモートで業務を進めるという会社であればとにかく、従業員の判断でたまにテレワークをすることもあるという会社であれば、原則として6か月定期券の代金を支給するというのみの内容で統一してしまうことも十分考えられるでしょう。実運用上のコストも含めて決定することが適当です。

なお、通勤手当の減額は、労働条件の不利益変更にあたりますので、従業員の同意か、不利益変更の合理性が認められることが必要となります(労契法9条、10条)。合理性が認められる余地は十分あると思われますが、従業員の理解を得るためにも、その必要性等について、事前に従業員への説明等は行っておくべきでしょう。

6.テレワークに要する費用負担

出勤をしているとあまり意識することはありませんが、オフィスの水道光熱費や通信費は、当然に会社が負担していることが一般的です。これに対して、テレワーク、特に在宅勤務を行う場合には、水道光熱費や通信費は、直接は従業員が支払っていることが通常でしょう。もっとも、これらの費用も、業務に必要な部分については会社が負担すべきと考えることもでき、あらかじめ、在宅勤務の場合において業務に要する費用の最終負担者について就業規則に定めておくことが考えられます。

会社と従業員のどちらが負担するかは、それぞれの労使の判断となりますが、水道光熱費や通信費は、従業員の日常生活のために用いられている部分と、業務に要した部分とを区別することは通常困難ですので、【在宅勤務によって生じる通信費及び水道光熱費は、従業員が負担する。】といった形で、明確に従業員負担と定めておくことも一案です(会社によっては、例えば「リモートワーク手当」のような名称で、テレワークを行う従業員のために別途の手当を支給することで、実質的に費用負担の軽減を図っているようです。)。

他方で、郵送費や事務用品費等については、テレワークであろうと、会社に負担させることが適当といえるでしょう。そこで、【業務に必要な郵送費、事務用品費、消耗品費その他会社が認めた費用は、会社負担とする。】といった条項を置くことが考えられます。

おわりに

細かな点も多いように思われたかもしれませんが、テレワークに際しての支障や従業員側の不安を無くし、混乱を避けてコミュニケーションコストを減らすといった観点からも、テレワークを行う場合における明確な定めを置いて、従業員にしっかりと説明をしておくことが重要です。自社の就業規則上の定めが十分になっているか、改めて確認されてもよいのではないでしょうか。

白石 紘一
この記事を書いた人
2012年弁護士登録。2016年に経済産業省に任期付公務員として着任し、「働き方改革」等に関する政策立案に従事。労働法関連政策に加え、企業人事制度の変革、兼業副業やHRテクノロジーの普及促進等を担う。2018年10月より法律事務所に復帰し、企業法務、労働法務、スタートアップ支援、グレーゾーン解消制度支援等を手掛ける。2019年5月まで、経済産業省大臣官房臨時政策アドバイザー。著書に「HRテクノロジーで人事が変わる」(共著、労務行政)、「働き方改革関連法完全対応 就業規則等整備のポイント」(共著、新日本法規)等。