テレワークの課題を解決していくことが、新しい常識を作るきっかけに

新型コロナウイルス感染拡大を受け、首相官邸から発表された「オフィスでの仕事は原則自宅で行うこと」「出勤者を7割は減らすこと」のメッセージ。しかし、東京商工会議所が4月8日に発表したデータによると、テレワークを実施している企業は26.0%、実施検討中は19.5%と、合わせても半分にも満たないのが現状だ。一方で、従業員規模が大きい企業ほど、テレワークの実施率が高いこともわかっている。

そこで今回のパートでは、IT大手企業を代表して、富士通株式会社エバンジェリストの中山氏、日本マイクロソフト株式会社 エバンジェリストの西脇氏、そして中小企業を支援する立場として、株式会社TKC 代表取締役社長 飯塚氏を迎え、テレワークを進めていくにあたっての課題の解決方法やこれからの働き方について伺った。
(本座談会は2020年4月13日に開催されたものです)

参考:富士通、マイクロソフト、TKCのテレワーク事情は?テレワークがうまくいく秘訣を探る
https://digitalworkstylecollege.jp/report/20200417telework01/

■登壇者
株式会社TKC 代表取締役社長 飯塚 真規 氏
富士通株式会社 理事 首席エバンジェリスト 中山 五輪男 氏
日本マイクロソフト株式会社 エバンジェリスト・業務執行役員 西脇 資哲 氏

■モデレーター
一般社団法人 日本デジタルトランスフォーメーション推進協会アドバイザー  森本 登志男
一般社団法人 日本デジタルトランスフォーメーション推進協会 代表理事 森戸 裕一

中小企業でのテレワーク推進方法は?

森本:さて、ここからは、視聴者の方からのコメントを取り上げながら、皆さんにお話を伺っていきます。

「中小企業のオンライン化を誰がサポートしていってくれるのか」という質問をいただきました。大企業はそれなりに体制が整っているでしょうけれど、中小企業は現場の比率が大きいうえに、システム担当者不在のケースも多く、そんな中で誰がサポートするのか? という話だと思うのですが、いかがでしょう。

西脇: 正解がないのが現実だとは思いますが、私からは2つのことを申し上げます。

1つ目は、中小企業にも、実はITが好きで長けている方がいるはずで、その方の出番ですよ! ということです。これまではシステムが安定稼働しているのが当たり前と思われていて、あまり目立たない存在だったかもしれませんが、この非常事態にその人の力を借りてテレワークを推進していくことができれば、会社全体が助かりますし、その人の活躍が称えられる機会にもなりますよね。

2つ目は、自分たちがどんなインフラを持っているのかを棚卸しして見直すこと。例えばウェブ会議に特化したシステムを新規導入しなくても、Microsoft 365があればTeamsやチャット機能が使えたりしますよね。

この2つの観点でがんばっていただきたいと思います。わざわざ投資をするよりは、今ある知恵、既に持っているライセンスをうまく組み合わせて、活用していってください。

森本:中山さんは、いかがですか?

中山:富士通グループでは、中小企業に対しては「富士通マーケティング」がサポートしており、全都道府県にある営業所で、手段や機材のことまで相談を承っています。そういえば、全国各地にITコーディネーターがいらっしゃると思いますが、その方たちの力を借りることもできるのですよね、森戸さん?

森戸:そうですね、もともとITコーディネーターはシステム導入を支援する役割でしたが、今はシステムがクラウド化していて、クラウドをどう活用するのかということに役割が変わってきています。なので、中小企業においては、ITコーディネーターとの付き合い方も変えていくといいのかもしれないですよね。

中山:あとは、私は富士通の社員なので富士通の話をしましたが(笑)他の会社も中小企業のサポートはされているはずなので、それぞれお付き合いのある会社にざっくばらんに悩みを相談するといいと思います。

西脇: そういう意味でも、TKCさんは中小企業の「入口」であっていただきたいなと思います。マイクロソフトも問合せ窓口を用意してはいますが、すぐに走って助けに行けるわけではないですからね。そういったテレワークの支援が、TKCさんのメニューに加わっていって、我々がそこを通じて支援するといったかたちで、これからご一緒できたらいいなと思います。

飯塚:中小企業の経営者は65~70歳くらいが多くて、ガラケーすら触れないくらい(笑)ITへの抵抗感が高いので、そこをなんとか乗り越えなければいけません。それと、そんな中でも中小企業に多く導入されているシステムがあって、それはメールと会計ソフトなんです。そうした使い慣れたシステムと新しいソリューションを組み合わせることで、スムーズにDXにシフトできるのではないでしょうか。

あと、認定支援機関という制度が国にありまして、8割は税理士なんですが、中小企業のカバー率が高いんですよ。そうしたルートを通じて、ITの仕組みを使いやすいパッケージで提供することが大事だと思っています。

テレワークにおける心のケア

森本:次にいただいている質問です。「コロナ禍という特殊な状況下における従業員のメンタルケアについて、どういった配慮をすればよいか見解をお聞かせください」。

中山:はい! 実は、ちょうど話そうと思っていたことでした(笑)。以前からテレワークに取り組んでいた富士通ですが、正直に言ってメンタルケアまで気にかけたことはありませんでした。SNSなんかでも「長期間のテレワークで気が滅入る」のような発言を見かけますが、それをリモートでサポートするのは難しいですよね。

でもそういった時こそ、上司と部下の1対1の会話の機会を頻繁にとることが大事だと思います。同僚同士でも雑談や飲み会といったコミュニケーションは大切ですし、自分の心の状態が危ないなと感じたら、勇気を持って誰かにコンタクトしてみるといいと思います。

中山:それから、テレワークにおける留意事項をいくつか紹介します。

普通のPCではなくシンクライアント端末を利用している企業も多いですよね。富士通もそうなのですが、アクセス集中してネットワークがパンクするという問題が発生しがちです。なので、部署ごとに時間や曜日を決めてアクセスを分散させるといった対策が必要になります。

中山:また、ビデオ会議をするにあたって顔出しOKな人とNGな人がいますよね。特に女性に多いですが、強制的に顔を出させるのは絶対にしてはいけないと思います。テレワークをしているということは全員が「家モード」であることを理解して、寛容な対応をすることが大事です。

森本:うちの会社も女性が多いですが、みんな音声オフでビデオ会議しています。それで十分ですよね。

中山:ですよね!

森本:余計なことに気を遣わないでほしいですからね。それを当たり前の文化にすることが大事だと思います。

中山:企業ごとに体制は違うと思いますが、PCが持ち出しできないなどで社内資料が閲覧できず業務に支障をきたすケースがあります。これに関しては、皆が持っているスマホから簡単にアクセスできる外部クラウドサービスを利用できるよう社内ルールを改変したり、一時的に緩めるなど、柔軟な対応が必要ではないかと思います。

中山:こちらも心のケアにつながりますが、どうしてもテレワークは時間管理が曖昧になりがちです。テレワークとは家庭の中で仕事をするということであり、小さい子がいたり、自分の部屋がなかったり、状況はそれぞれですよね。それを理解し合って、厳しさを追求しすぎないほうが、結果的にテレワークがうまくいくと思います。以上です。

西脇: では次に私から。リモートワークで大切なのは、1つ目はカジュアルな気持ちでコミュニケーションに参加すること。2つ目は疎外感をなくすこと。

そのために我々は「反応を大げさにする」ことに積極的に取り組んでいます。例えば誰かが良い報告をしたり、作業が完了した時なんかに「素晴らしいね!」「よくやった!」と、皆で褒めたたえるんです。これはオンラインだからこそできることですよね。ほかにも身振り手振りを大きくする、笑顔を見せるなど、ただでさえ暗い世の中だからこそ、リモートワークに楽しい空気を作ることを心がけています。

……そうそう、アメリカでは、在宅ワークしている人の22%が、あるものを飲んでいるそうです。

全員:なになに?

西脇: これです。

中山:お酒じゃん!

西脇: そうです、ビールです。これ、私は決して不謹慎だと思わなくて……あ、もう17時になりますよね、開けていいですか?(プシュッ!)

一同:(笑)

西脇: (笑)……いや、でも、生活の中に仕事が入って来るってこういうことだと思います。

中山:昼間からお酒を飲みながら?(笑)

西脇: 昼間からではないかもしれないけど(笑)例えば夕方になって、家族団らんの時間になれば、お酒を飲むことがあるのも自然ですよね、ということですね。

それから、アメリカのウォルマートでは、洋服のトップスの売り上げが伸びているそうですが、服だって上だけ着替えればいいんですよね。皆が「テレワークってこんなにラクなんだ!」「楽しい!」と感じてくれたらいいと思います。中小企業の皆さんは、本来そういう和気あいあいとしたチームワークでお仕事なさっているはずなんですよね。それを存分に発揮してもらえたらと思います。

中山:そういえば、今朝のテレビにリモートで出演していたコメンテーター、上はスーツで下がパジャマだったよ(笑)

西脇: そういう中山さんが、今履いていなかったりして(笑)

中山:俺はちゃんとジーパン履いてるよ!(笑)

一同:(笑)

西脇:(笑)……でも本当に、これくらい楽しい雰囲気で仕事をするのが、これからのテレワークだと思います。

中山:普通の会議よりも笑顔が増えて、いいかもしれないね。

森戸:あと逆に気になるのが、オンラインは仕事を効率良く進められるので、真面目な人ほど仕事をやりすぎる懸念があります。

飯塚:当社は、9時・15時・18時には必ず皆で集まるようにしてメリハリをつけています。といっても朝礼のような堅苦しいものではなく、軽くコミュニケーションをとる程度。チームによっては夕飯の写真をアップしたり、楽しくしているみたいです。

森本:自分だけで仕事をしていると時間を忘れがちになるから、それはいいですね。

中山:各自に時間の裁量を持たせつつ、うまくやれたらいいですよね。……そういえば西脇さん、エバンジェリストの業務はどうですか? 

西脇:講演などリアルの活動は減っていますが、逆にオンラインで伝える機会が増えたことにより、リーチ数は伸びました。

中山:そうなの?!

西脇: はい、リアルであれば、50~100人規模のイベントを行うのに手間も費用もかかるのでそこまで頻繁にはできませんが、オンラインなら、今もこの配信を300人が見てくれてますが、毎日やれば5日で1500人。これは今までのやり方では集められなかった人数です。出会える人数も増えましたし、効率もいいですよね。

企業向けのクローズドなオンライン研修も増えたりしているんですが、相手が10人でも1000人でも同じ設備かつ同じコストでできますので、中小企業にも大企業にもメリットがあると感じています。テレワーク、いいことだなって本当に思いますよ。

森本:例えば、この5人のスケジュール合わせて地方で講演会を開こうとしたら、いつできるかわかりませんものね。

森戸:時間が合わなかった参加者にもアーカイブを見てもらえるので、今は300人の方に見ていただいていますが、最終的には3万人くらいにリーチできると思っています。

セキュリティガイドライン、就業規則の考え方

森本:さて、話は大きく変わりますが、このような質問をいただいています。「リモートでの作業のために個人のパソコンでない方が良いと考えて、リモート用に持ち帰るパソコンを購入しようとしましたが、ちょうど良いスペックのパソコンは品切れだったり、準備に1カ月かかるとのこと。在宅勤務では、個人のパソコンを使うことも多いのでしょうか?

中山:富士通はシンクライアントなので、私も持って帰っていますし、営業マンも家で作業しています。BYODというかたちも、こんな事態だから良しとしていいのではないですかね。あれこれ禁止するよりも、トライしながらベストを模索していくべきだと思います。

森本:私もテレワークマネージャーとしていろいろな企業に行きますが、どうしても就業規則やセキュリティガイドラインベースの話になってしまって……今は非常事態なので、できることをまずは実践して、平常に戻った時に規則を見直していければいいと思います。今回のことが良いきっかけになるといいですね。

中山:それからPCだけではなくて、皆が持っているスマホを活用したテレワークを考えていくべきだと思います。

森本:本当は、シンクライアントで仮想デスクトップを各自作るとかしたほうがいいんでしょうけれど、それがすぐできないのであれば、できることから始めるべきですよね。そしてこれを機に「仮想デスクトップって何?」という人も勉強していけるのではないでしょうか。

中山:あっ、森本さん、いいこと言った! ちょっと私の画面を共有してもいいですか?
富士通からの支援策をひとつだけ紹介させてください(笑)。

中山:当社では「V-DaaS(ブイダース)」というサービスを初期費用・利用料3カ月感無料提供を実施しています。仮想デスクトップを取り入れてみたいという企業は、ぜひ試してみてください。

森本:まだまだコメントをいただいています。「リモートワークになって、スキマ時間の活用がしやすくなりました。次の会議までに少し家事を進めよう、ということもかんたんにできます」。こういうことは就業規則上いいの?といった議論もあるとは思いますが、こんなふうに良くなった実体験をしている人が増えているわけですから、ポジティブな反応を広げていきたいですね。

西脇: そうそう、今は就業規則うんぬんという話を「ゼロリセット」するタイミングだと思うんですよ。就業規則とは、あくまでも会社で一定時間過ごすことを前提に作られているものであって、テレワークに当てはめようとしても無理がありますから。今一度ゼロから、働くこと、個人を評価すること、チームを評価することってどういうことなんだろうと、見直す時期に来ていると思います。

森戸:就業規則も、PCやスマホがなかった時代にできたようなものもありますからね。見直しを先送りしてきたようなところは特に、西脇さんのおっしゃる「ゼロリセット」は私もアリだと思います。

飯塚:私からもひとつ情報共有させてください。一番下「TKCの事例」にある、就業規則の改定についてです。今回、厚労省が「新型コロナ休暇支援」を発表しました。子どもの学校が休みになった社員を休ませなくてはならなくなった場合、一人8,330円を上限に人件費を補填する制度です。これを受けるには、就業規則に記載されている「お給料を支払わなければいけない休暇」を取得させる必要があると聞き、そのために当社は就業規則の改定を行いました。

ただ、厚労省もリアルタイムでいろいろ変更しているようで、さっきもう一度ホームページを見たら「就業規則に記載がなくてもいい」と変わっていました(笑)

一同:そんなに?!

「ハンコ」文化はなくならないのか

森本:もう一つ、書き込みいただいているコメントから……リモートワークについて回る「ハンコ」問題。これは皆さんどうですか?

中山:では私からお話しますね。今後取り組むべきこととして、一つは自宅のネットワーク環境やシンクライアントなど、テレワーク環境の整備があります。
そして二つ目がまさにこちら。ハンコを押さなければいけないから会社に行くっていう人はまだけっこういますが、いい機会なので文化を変えていかなければいけません。

森戸:どこから変えていったらいいでしょう……?

森本:私は以前、佐賀県庁に5年間勤めていましたが、当時の県知事に命じられたのが「法律や政省令で、押印もしくは紙での保存が義務付けられているものを全て洗い出せ」。つまり一つずつ変えていこうとしていたわけです。

まだまだ法律や政省令でハンコや紙が義務付けられているものがありますので、中央官庁の皆さま、お忙しいと思いますが、ゆっくりでもいいので見直してもらえたら、民間でもテレワークが進みやすくなると思います。

中山:また、電子契約システムにどのようなものがあるのか調べたい時は、ITトレンドのサイトが参考になります。
年間ランキングや最新ランキングも見れて、人気が高いものをいろいろ比較できるようになっています。これを機に、電子契約システムを広めていけたらいいですね。

中山:あと、営業マンが「お客さまに会えない」状況が続く中、これからはデジタルマーケティングがカギになると思います。当社でもデジタルマーケティング製品には力を入れていまして、「CX360」「AD Drive」「Marketo」などを扱っています。日本ではまだまだ取り組んでいる企業は少ないかもしれませんが、検討してみていただきたいです。

中山:そして今後は、日本よりも先にコロナが終息する中国の動向を、皆さんと一緒に見ていきたいと思っています。富士通の中国オフィスのメンバーと連携を密に図りながら情報収集し、私のセミナーでお伝えしていきたいと考えています。

森本:あっ、ハンコのことでいい書き込みをいただきました。「20代にとってはなんでハンコがいるのか全くわからないのが事実です。そう考えると、新入社員・若手社員の持つハテナにきちんと向き合うと、本当に必要なのか、という本質の見極めができそうですね」。

私は57歳ですが、20代の社員に聞かれたとしても、ベストな答えが出ないかもしれません(笑)。先ほどの話のように、法律で決まっているものもたしかにあるのですが、それにしても民間企業でどうしてこんなにハンコが必要なのか……西脇さんなら、いかがですか?

西脇:私だったら「いらないと思うよ」と答えますね。 今、ものすごい速さで国の方針が変わっています。飯塚社長が仰ったようにホームページを見るたびに情報がアップデートされていたり、ぜったい無理だと言われていたオンライン診療が可能になったり。こんなにすごい勢いですから、ハンコを無くしたい人が大勢を占めれば、変えざるを得なくなるはずです。

飯塚:私が社長になったのが昨年末なんですが、最初に驚いたのはハンコを押す数でした。自分でもいくつ押したかわからなくなるくらいで。

西脇: そんなにあるんですね。多いのは社内稟議ですか、それとも対社外?

飯塚:社内ですね。だから私もなくせると思っていて、できるだけ押印を減らすように早い段階で指示を出しました。ただすぐにはなくせないので、取り急ぎこのコロナ禍においてはメール承認とすることにしました。ハンコのために出社する必要はありませんからね。

森本:やればできると思います。佐賀県庁も、私が入った時から、法律・政省令でハンコが必要と定められているもの以外は、オンラインで済む仕組みになっていました。全部を無くさなくていいので「8割減」を目指したいですよね

アナログ業務システム、今が変え時?

森戸:コミュニケーションツール以外に、請求書や見積もり書作成といった業務システムがありますが、テレワークになっていかがですか?

中山:富士通はかねてシンクライアントを使用しているので、自宅にいても完全に会社と同じ環境で業務ができます。

西脇: マイクロソフトも全てがオンライン化していますので、業務プロセスに支障が出ることはありません。ただ、お客様から聞くのは、やはりインストール型のクラサバアプリがまだまだあるということ。例えば帳票を出力するタイプのもの、在庫とシステムが連動しているものなどは、家ではぜったいできないですよね。でもこれらは大変重要な業務なので、感染症対策をしっかりしたうえで出社はやむを得ないと思います。飯塚社長は、こういうシステムをたくさんご存知ですよね?

飯塚:当社は幸いすべてウェブにしていましたが、問題は、セキュリティをガチガチにしていたので、クライアント証明書が必要になったこと。なおかつ、経理や総務ではデスクトップPCを配備していたので、持ち帰るのか……?と(笑)

西脇: 私、社員がデスクトップPCを持ち帰っている会社を見たことがあります(笑)

中山:それはダメだよ~(笑)

一同:(笑)

飯塚:当社はリモートツールを提供しているので、それを自社にも適用して、自宅のパソコンからインターネット経由で会社のパソコンにアクセスしています。ただ難しいのは、経理や財務はもともとのインプットが紙だということ。全員在宅勤務にしてあげたいけれど、できないのが現状です。同じように悩んでいる会社は多いのではないでしょうか。

西脇: 郵便物の仕分けとか、FAXで受注している会社もまだまだありますからね。

森戸:今まで変えるタイミングを逃していた会社も、この緊急事態がチャンスなのかもしれませんね。

飯塚:ずっと紙でやり取りをしていた取引先に、ある日とうとう「電子にしたい」と言ったら「うちもずっとそう思っていました」と言われることがあって、早く言ってよ、と(笑)

森戸:言っちゃいけないのかなと思ってしまいますよね。

飯塚:取引先には意見を言いにくい、下請けの悲しさなんかもあって。

一同:わかるわかる。

森戸:「中小企業がアナログだから敢えて紙にしている」という大手企業もあったり。

飯塚:いや~逆ですね。

森戸:お互い様だと思うんですよね。商工会議所なんかも「中小企業がアナログだから自分たちもFAXで連絡している」と言いますが、中小企業に聞くと「FAXは勘弁してほしい」と言っていたりしますので。いずれにしても、今が良い変え時だと思います。

リモートワークと法律

森本:続いて、こんなコメントをいただきました。「税理士法人ではなく、個人の税理士事務所なので、税理士業務を事務所以外のエリアでは行ってはいけないというルールがあるようです。それがネックでリモートワークが止まっていました。今回は、緊急事態なので、臨時に行っています」。飯塚社長、いかがでしょうか。

飯塚:いま必要なのは「まず、やってみる」ことだと思います。それを踏まえて、税理士法について説明します。

飯塚:会計事務所は税理士法に準拠して経営しなくてはなりませんが、在宅勤務を行う上で注意しなくてはならないのが、この4つです。

第三十八条は、いわゆる守秘義務で、自宅でお客様の帳票を印刷してはいけない、取引先名を家族に見られてはいけないなどということ。

第四十条では、税理士事務所を2つ以上設けてはいけないと定められています。在宅勤務にすると、それが「2つ目の税理士事務所」に該当するのではないかと懸念して、踏み出せずにいる税理士の先生方がたくさんいるというわけです。

第四十一条の帳簿作成、これは、自分がどのような業務を請け負ったかを記録する「業務処理簿」を作成しなければならないということです。

第四十一条二では、職員さんが何をしたのかを全て監督しなければならないということが定められています。

飯塚:税理士法に準拠したうえで在宅勤務を可能にするには、セキュリティを担保する、自宅では法に定められた税理士業務以外のことをしてもらう、業務処理簿を自動作成するツールを導入する、日報などでスタッフの業務内容を細かく管理するといったことが必要です。

当社では、この緊急事態において、スタッフさんの安全を第一に考えて取り急ぎ在宅勤務を支援していますが、これから日本税理士会連合会が在宅勤務に関する見解を公表する予定になっているので、それを踏まえて、今後のシステム対応を行っていきます。

ITベンダーからすると堅苦しいと感じられるかもしれませんが、法律を守らないと資格はく奪や業務停止の恐れもあるわけで、悩んでいる方は多いと思います。

森本:こういうことも、霞が関の方々にお伝えしないといけないのかもしれませんね、緊急事態宣言が出ている地域は、何かしら緩和するとか。

西脇: 「開催場所が決められている」というのは、経営の世界ではけっこうあることで、例えば株主総会なんかもそうですし、役員会の議事録には場所の記載が必須だったりします。でも、だんだんこれも変わってきているらしいので、これからはオンライン株主総会もできるようになるでしょう。場所を規定するような指針をどんどん洗い出していって、士業の方々も声をあげていただきたいですね。

飯塚:そうですね。ITがここまで進化してくると、場所にとらわれる必要はなくなってくるのかなと思います。本家本元の税理士会がそこにメスを入れようとしているので、大いに期待したいですね。

森戸:これからは「リアルで集まる」「出社する」の意味付けも変わってくるでしょう。マイクロソフトさんは、かねて週休3日制やフリーアドレスを導入してこられましたが、あえて出社する必要があるのはどんな時ですか?

西脇: 一つは、先ほどの話にもありましたが、お客様との契約上でコンサルティングサービスを行う場所が決められている場合。あとは、サポート契約関係、物流系。それ以外はぜんぶテレワークで、出社している人は1割を切っています。

マイクロソフトは、人が集まるイベントを2021年の7月まで禁止にしました。これはとんでもない英断です。これまでは「人が集まる」ということに対して、我々はコンテンツ提供し、来場者はお金を払ったりしてきましたが、これからは人が集まること自体に、もう価値はなくなってくるわけです。それどころかリスクしか無いし、会社にしても出勤制にすると固定費はかかるし。だからなくしたほうがいいという考え方にシフトしていますし、他の会社も追従してきてほしいと思っています。

森戸:こうなってくると、今まで地方出張で旅費交通費をいただいていたのが、申し訳ないような気持ちになりますね(笑)

西脇: 私なんか会社のすぐ近くに住んでいる東京都民ですが、葉山とか、鎌倉、軽井沢の人はうらやましいな~! と思っています(笑)

一同:(笑)

中山:今は、オフィスをまったく持たない会社も出てきていますよね。社員が数百人いるののにオフィスがひとつもない会社とか。

西脇: これも法令に関係あって、昔は会社の登記に「所在地」が必要でしたが、それもなくなっていくわけですよね。

中山:10年後にはオフィスのない会社がかなり増えているかもしれませんね。将来ネットワーク環境がもっと発展していくと、例えば、人が立体的に見えて本当にそこにいるかのようにオンライン会議ができるようになったりして、オフィスに行かないのが当たり前の世の中になるかもしれないですね。

森戸:そういえば、三井不動産のシェアオフィスが、富士通さんみたいな会社にとても評判が良いという話を聞きました。というのは、「三井不動産がやっている」という信用性で、上司の承認を得やすいそうなんです。これからは「上司に承認されやすいサービス」がどんどん人気になるかもしれません。

中山: うちは実はけっこうみんな、シェアオフィスで仕事していますよ。私も2年前に来てビックリしたくらい。

西脇: 飯塚社長、中小企業の方々には、みんなでシェアオフィスを使おうという雰囲気はあるんですか?

飯塚:あまり聞かないですね。出張なんかもないですし。セキュリティを気にする方も多いです。

「New Normal」の確立をめざして勇気ある投資を

森本:最後に皆さんから一言ずつお願いしたいと思います。

飯塚:当社が主に支援している経理部門のDX推進において、まずは今回、在宅勤務をした中で不便と感じたことを記録しておき、それをいかにしてデジタルに変えるか工夫する必要があります。技術的には既に可能になっていますので、経費の支払いを法人クレジットカードにまとめる、インターネットバンキングを活用するなど、できることから始めていきましょう。

飯塚:ただ、忘れてはいけないのは、DXはあくまでも手段であって目的ではないということ。自分の会社には何カ月分の運転資金が必要なのか、固定費はいくらなのか、粗利の高い商品・低い商品などれなのかというように、経営者が自社の業績に関することをきちんと数字で言えるようにならないといけません。そして、こうしたアドバイスをしてくれるのは、会計事務所です。いい会計事務所から支援を受ければ、ちゃんと生き残れます

今何が問題なのか、どうやってデジタル化するのか、その先に何があるのかを見据えて準備をするのが大切だと思います。

中山:今このコロナショックのおかげで、世界は一気にデジタル化へと進みます。自分たちの働き方、人の行動、システムの使い方などを、西脇さんの言葉を借りれば「ゼロリセット」して、旧いルールをすべて見直すいい機会です。勇気を出して昔の文化を捨てることも、積極的にデジタル化に取り組むことも大事だと思います。

リーマンショックの時もそうでしたが、不況になるとIT投資は縮小しがちです。でもそうなると、ますますデジタル化が進まず事業も発展しません。このコロナ禍をいいきっかけにして、どんどんIT投資してデジタル化を進めていきたいです。そのためにも、こうやってコミュニケーションをとって、情報交換して、共感し合って、勇気をもってお金を使って、自ら変えていきましょう。

西脇: ひとつだけ当社の宣伝をしておくと、マイクロソフトでは、皆さんの働き方を支援する「リモートワーク相談窓口」を設置しています。ウェブでも電話でも相談できますので、何かあればぜひどうぞ。

……というのは置いておいて。「コロナと共に」「コロナの時代」とか言っているのをよく聞くのですが、それはちょっと違うなと思うんですよね。あと、飯塚社長が仰ったように、DXが目的では決してありません。私たちが掲げているのは「New Normal」つまり「普通が変わる」という考え方です。

西脇: 自社の強みって何だろう、何のために社会に存在しているんだろう、働くってどういうことだろうと突き詰めるとか、コミュニケーションって何だろう、などと考えているうちに、「New Normal」が生まれていきます。それに対して投資をして、従業員を動かして、鼓舞して、確立していってほしい。そこに少しでもDXが役に立てればなと思います。

中山:「New Normal」、いい言葉!

森本:最後に私からもPRを。

森本:私、こちらの本を出しています。テレワークの本ですが、導入方法などのマニュアルが書かれているわけではありません。読んでほしいのは60代の社長さんです。

森本:アマゾンなどでは在庫切れになっているので、ほしい方はこちらにメールをいただければ対応します。

森戸:皆さん、ありがとうございました。最後は拍手で終わりましょう。

Digital Workstyle College 編集部
この記事を書いた人