不動産業界のデジタルトランスフォーメーション推進に取り組む2社から学ぶ規制産業でのDXの進め方

「Update Studio」では、「60分でデジタルトランスフォーメーション(DX)の最新事例を学ぶ」をコンセプトに、さまざまな業界でDXや働き方改革に取り組むゲストをお招きしてオンライン勉強会を開催しています。

今回は不動産テック総合ブランド「RENOSY」の運営を中心に不動産業界のデジタル変革に取り組む株式会社GA technologies萩野 裕明氏と、「テクノロジーで不動産の賃貸取引をなめらかにする」をミッションに掲げ、賃貸仲介・管理業務支援システムの開発やセルフ内見型賃貸サービスの開発・運営を行うイタンジ株式会社長谷川 拓也氏をゲストにお迎えして、不動産業界におけるDXの事例の紹介やwithコロナにおける働き方、不動産業界のデジタル化の今後などを熱く語っていただきました。

ゲスト
萩野 裕明 氏
株式会社GA technologies
Sales Promotion Department/Creation マネージャー

ソフトバンク株式会社で13年間営業に従事。営業・サービス企画として、初代iPhone発売時の全国家電量販店における販促や、各営業現場へツールとしてiPadを導入するなど、売上向上や全国スタッフの水準底上げ、パフォーマンスの可視化に寄与する。2018年、不動産業界を変える志に共感し株式会社GA technologiesに入社。

長谷川 拓也 氏
イタンジ株式会社
ITANDI BB/カスタマーサクセス部門 部長

関西学院大学卒。全保連にて名古屋支社の売上改善に貢献。その後、野村不動産アーバンネット法人営業部を経て、リクルートでグループマネジメント、集客施策立案と推進、店舗運営改善、接客力向上施策の立案と推進など、組織統括や営業方針立案に従事し、現在はイタンジにてカスタマーサクセス部門の責任者を務める。

不動産購入契約におけるデジタルトランスフォーメーション
~株式会社GA technologiesの事例~

当社では、「テクノロジー×イノベーションで、人々に感動を。」の経営理念のもと、“不動産取引をワンクリックで”を掲げ、不動産購入プロセスのDXにかねてより取り組んできました。

本日は、「不動産購入契約の非対面化(リモート契約)」についてご紹介します。

――今デジタル化が結構いろいろな業界で進んでいますが、不動産業界の現状を教えてください。

不動産業界は全体的にテクノロジー化が進んでいないということがデータとしてもあり、下図は、アメリカを1としたときの国内産業別IT資本投入の規模を表した図です。日本の不動産業は、アメリカの10分の1の規模でしか投資されていないことが分かります。とても少ないですよね。

出典:平成27年版 労働経済の分析 -労働生産性と雇用・労働問題への対応-
第2-(3)-7図 日米の産業別のIT資本投入の比較(1990年代・2000年代)
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/15/backdata/2-3-07.html

テクノロジー化の遅れによる弊害としては、消費者と事業者の間に生まれる「情報の非対称性」が挙げられます。

例えば、不動産の営業と聞くと不信感を抱く人も少なくないと思いますが、これは、業界のアナログさゆえに、消費者が得られる(不動産購入等を判断をするための)情報が少ないことからくるものだと思います。

また、実際に不動産を購入するとなると、紙やハンコを用いた非常に煩雑な手続きが未だに当たり前の世界です。弊社では、こうしたプロセスのDXに取り組んでおり、実際にお問い合わせから不動産の売買契約までの非対面化を実現しました。

――具体的にどういったことを実現されたのでしょうか?

本日は、問い合わせから契約までのプロセスにおける「契約」の非対面化について、お話させていただきます。

不動産購入における契約は、そのほとんどが紙と署名捺印で交わされるため、全ての契約書へ住所や氏名の手書きと捺印が必要です。手書きによる記入回数は数十回におよび、捺印にいたっては47回も必要になります。

また、金融機関や不動産会社、保険会社、司法書士…と多数のプレイヤーが契約手続きに関わるため、非常に煩雑です。

この中でポイントとなるのが、(1)当社と顧客間で締結する売買契約の電子化(2)手付金のクレジットカード決済、(3)重要事項説明のオンライン化、(4)ローンの申し込みの電子化です。

まず、当社と顧客間で締結する売買契約については、もちろん紙が当たり前の世界で、物件の金額にもよりますが、1件あたり1万円の印紙代コストがかかっていました。また法律上、紙での書面交付が必要でした。

当社では売買契約を電子化するために、ドキュサイン(※1)が提供する電子契約プラットフォームを導入し、自社開発の顧客管理システムとドキュサインのシステムを連携させました。これにより、エージェントが顧客管理システム上でボタンを押すと、顧客のメールアドレスにドキュサインを通じて電子文書が届き、顧客はスマホ一台で契約を締結できるというフローを実現。その後、顧客管理システムの中に交付すべき書類が自動生成されるので、それをお客様に交付しています。契約書と交付書類とを分離することで、売買契約の電子化を実現しました。

(※1)ドキュサイン・ジャパン株式会社が提供する電子契約プラットフォーム「DocuSign Agreement Cloud」。世界180カ国、66万社以上の企業が導入、数億人が利用する、世界で最も利用されている電子署名で、全米不動産業協会の公認電子署名となっている。

次に、契約の際に、法律で義務付けられている「手付金」の授受についてです。従来は、10万円以上の現金を契約当日にご持参いただいてエージェントがそれを手渡しで受け取り、そのまま自社の口座に現金を振り込むといった、現金輸送のリスクを抱えていました。これを、弊社はクレジットカードで支払いを行えないのか、国土交通省や都庁に掛け合い、業界初(当社調べ)のクレジットカード決済を導入しました。しかし、こうした新たな取り組みは、前例がないという理由で、金融機関に受付をしていただけないケースもあります。そのような中でも、当社ではクレジットカードで決済するシステムの導入を推進し、スムーズな手付金のやり取りを実現しました。

また、契約の際には「重要事項説明(※2)」を、対面・書面交付にて行うことが法律で義務付けられているのですが、2019年10月に、重要事項説明をテレビ会議ツールを用いて行う「IT重説(※3)」の社会実験が国土交通省により開始されました。

当社では、この社会実験に参画することで、IT重説の実施を推進。従来は、顧客のもとへ宅地建物取引士が出向いて重要事項説明を行う必要がありましたが、IT重説により、移動にかかるコストが削減できるなど、大幅な業務効率化を実現しています。

(※2)重要事項説明:不動産取引の相手方に対して行う、物件情報や契約遂行内容などの説明。法律(宅地建物取引業法)で定められており、宅地建物取引士(宅建士)が担当する。これを文書化したものが、重要事項説明書。

(※3)IT重説:不動産購入者や賃借人に対して、宅地建物取引士が行う重要事項説明を、テレビ会議ツールなどを利用して行うこと。

最後に、金融機関のローン申し込みについてです。従来は、複写式の申込書に氏名や住所の繰り返し記入と捺印が必要で、ミスの許されない膨大な書類が発生する手続きというのが実情でした。

それを当社では、2019年4月に住宅ローン申し込みをオンラインで行う自社開発のプラットフォームサービス「MORTGAGE GATEWAY by RENOSY(モーゲージ ゲートウェイ バイ リノシー)」を活用し、ローンの申し込み・審査手続きをオンラインで完結できるようにしました。

従来は、お客様・金融機関・不動産会社の三者間で書類をやりとりする必要があったため、一つのミスが出ると、申込者が修正箇所を記載し直し、不動産会社がその書類を取得、それを金融機関に持ち込んで、といった、アナログな対応をしていました。これら一連のフローが、オンライン手続きできることにより、非常に効率化を図れております。

例えば、複数物件を購入する場合は住所や氏名を何回も書く必要がなく、一回の入力で、全て反映され、不動産会社側の業務時間も最大66 %削減など、大きな効果があります。

――なるほど、そこまでいくとほぼ完結していそうな印象ですが、不動産購入の電子化や、不動産業界全体の効率化に関して、萩野さんが感じる課題があればお伺いしたいです。

書類作成から送付までのほとんどをWeb上でもしくは非対面で実現できたのですが、まだ課題はあると思っています。司法書士の方とのやりとりや、社内書類の作成や管理など、電子化できる部分はまだあります。また、不動産取引においては書面交付が法律で義務づけられているので、紙の書類の送付が必要になります。一方で、新型コロナウイルスの影響でテレワークが拡大したことを背景に、ハンコ出社などの商習慣が問題視されていましたね。これを機会に、電子契約法制化の動きが加速することを期待しています。また、業界全体の効率化に向けてもっともっと働きかけていく必要があると感じています。

不動産賃貸契約におけるDX~イタンジ株式会社の事例~

イタンジ株式会社は、不動産業のデジタル化を推進し、イノベーションを起こすという理念を掲げて事業を行っています。本日は不動産賃貸契約におけるDXをテーマにお話いたします。

――新型コロナウイルスの影響でどのような相談が寄せられるようになりましたか?

やはり新型コロナウイルスの影響で、テレワークに関するご相談やテレワークのためのシステム導入のご相談が多いです。

テレワーク導入状況について不動産会社にヒアリングしたところ58%がテレワークを導入できてないという現状が明かになりました。急務の課題としてはテレワークの導入。ただ、新型コロナウイルスの影響は長期化することが予想されますので1年後を見据えた長期的な対策もしなければなりません。

働き方だけでなく、ビジネスモデルの見直しをする必要もあり、そういう観点からも賃貸業務にDXが求められています。

――現状長谷川さんが感じている、不動産賃貸業務の問題点を教えてください。

不動産賃貸業務において、従来の仲介業務フローの全てが出社を前提として設計されています。対面接客、内見、お客様や管理会社様からいただく電話・FAXへのお問い合わせ対応などです。しかし新型コロナウイルスの影響で、内見や来店を敬遠するお客様が個人・法人問わず増加しました。なのでチャットやビデオ通話といった、非対面での接客を進めることが重要になってきています。

また、お部屋探しの際、ポータルサイトで見つけた物件について、仲介会社様や仲介店舗に問い合わせると、「既に入居が決まってしまった」と言われた経験がある方はいらっしゃらいますか。物件を借りたことがある方なら一度は経験されているかもしれません。お申し込みの有無や、募集開始、物件の空き状況など常に新しい情報をリアルタイムに連携していくことも必要だと感じています。

また、新型コロナウイルスの影響についてアンケートを実施ところ、来店者数の減少42%、内見者数の減少41%、法人問い合わせの減少29%など、かなり影響がでていることがわかります。

仲介業務においては店舗接客、内見、申込・契約それぞれの段階で対面の機会が発生します。社員はその都度出社しなければならないので、オンライン化を進めていくことが大切です。

――そうした課題を解決するために、御社では具体的に、どういったことを実現されたのでしょうか?

賃貸業務のDX後を見据えて不動産管理会社向け、仲介会社向け、一般消費者向けそれぞれにサービスを提供しています。

不動産管理会社向けには、不動産の仲介会社との電話やFAXのやり取りを効率化する「ITANDI BB(イタンジ ビービー)」、不動産仲介会社向けには、顧客管理システム「ノマドクラウド」、不動産会社のテレワークを推進するシステムを提供しています。また、一般消費者向けには、スマホ1つで内見予約から契約までできるセルフ内見型賃貸サイト「OHEYAGO(オヘヤゴー)」にて、非対面で賃貸借契約までできる賃貸サービスを実現してます。

働く場所とDX化、不動産業界の課題と今後

――実際の物件を見ずに意思決定をするためには、3DモデリングやAR、VRなどによる物件参照が必要だと思うんですが、その辺は進んでいますか、需要はありますか?

長谷川さん:はい、進んでいます。「遠方にある物件を内見したいけど実際に訪問できないから、VR内見を」という要望をよくいただくので、需要はあります。

――テレワークについてお聞きします。新型コロナウイルスの影響で、テレワークを進める企業が増えてきました。オフィスのあり方について、今後どのように変わっていくとお考えですか?

萩野さん:テレワークがこれから進んだとしても、減少傾向にはなりますがオフィスを設ける会社はまだあると思います。ただし、家の中で仕事をすることに苦痛を感じる人も増えるので、そういった人の受け皿としてコワーキングスペースは今後も増えていくでしょう。

それから今後部屋を借りるときは、これまでの基準にプラスして、「テレワークのしやすい部屋を」という需要、それに応える物件が増えてくるかもしれません。

――意外にテレワークできることに気づいてしまったけど、オフィスがあることのありがたみや快適さも改めて感じた人も多くいました。では不動産業界でDXを進めていくために、ここが一番課題になるのはどんなことだとお考えでしょうか?

長谷川さん:管理会社様や仲介会社様の場合だと業務上なかなかテレワークができない、遠隔で作業ができないので、業務の一連の流れをシステム化することにはまだ課題があると思っています。

萩野さん:不動産業界は購入契約、賃貸契約問わず登場人物が多いので、一部分ではなくその一つの流れとしてシステム化、デジタル化できると一番良いのかなと思います。また、不動産業界は規制産業で法律によるデジタル化の制約が多い業界です。今後、業界全体でDXが加速していけば、現行の制約も変わっていくのではないでしょうか。

そのためには、国や行政に対して提言していくことも必要になってくると思います。

Digital Workstyle College 編集部
この記事を書いた人